特許法の八衢

知財高裁

訂正要件の判断に誤りがあるとして審決を取り消した事案 ― 知財高判令和5年10月5日(令和4年(行ケ)第10126号)

判決概要 X(原告)の特許権について、Y(被告)が特許無効審判を請求した。審判においてXは訂正請求を行なったが、特許庁は、この訂正請求を認めず、さらに(訂正前の)本件発明1および2はサポート要件を満たさないと判断して、特許無効審決をなした。そ…

「除くクレーム」への訂正について判断された事案 ― 知財高判令和5年10月5日(令和4年(行ケ)第10125号)

はじめに 本判決(知財高判令和5年10月5日(令和4年(行ケ)第10125号))*1は、「除くクレーム」への訂正を認めなかった審決を、知財高裁が取り消したという事案である。その判示内容には、知財高大判平成20年5月30日(平成18年(行ケ)第10563号)[ソルダーレ…

国境を跨ぐ行為が「生産」に当たると判断された事案 ― 知財高大判令和5年5月26日(令和4年(ネ)第10046号)

1 はじめに 知財高大判令和5年5月26日(令和4年(ネ)第10046号)につき、判決要旨のみが裁判所ウェブページに掲載された時点で記事を書いたが、今般、判決全文が掲載されたため、あらためて記事を記す。判決文の一部を枠で囲んで引用し(強調は引用者による)…

国境を跨ぐ行為が「生産」に当たると判断された事案の「判決要旨」 ― 知財高大判令和5年5月26日(令和4年(ネ)第10046号)

はじめに 知財高大判令和5年5月26日(令和4年(ネ)第10046号)[コメント配信システム]につき、判決言渡日当日、知財高裁ウェブページにおいて「判決要旨」が掲載された一方、判決文については現時点(2023年5月28日)では掲載されていない。【2023-07-02追…

高速道路の管理運営会社に対する特許権行使が認められた事案 ― 知財高判令和4年7月6日(令和2年(ネ)第10042号)

1 はじめに 本件判決(知財高判令和4年7月6日[令和2年(ネ)第10042号])は、「車両誘導システム」という名称の2つの特許権1の権利者である原告=控訴人が、東日本高速道路(NEXCO東日本)に対し、佐野サービスエリアスマートインターチェンジ(佐野SAスマ…

共有特許権の損害賠償額の算定について示された事案 ― 知財高判令和4年3月14日(平成30年(ネ)第10034号)

1 はじめに 知財高判令和4年3月14日(平成30年(ネ)第10034号)[ソレノイド]1は、特許権の二者の共有者のうち一者(原告=控訴人)のみが、被告=被控訴人の行為が特許権侵害に当たると主張し、102条1項から3項2に基づく額の損害賠償を求めた事案3である。…

NTP事件CAFC判決、及びそれを引用する2つのCAFC判決の紹介 ― ドワンゴ v. FC2事件控訴審(令和4年(ネ)第10046号)第三者意見募集に関連して

はじめに 本ウェブログの以前の記事で言及した東京地判令和4年3月24日(令和元年(ワ)第25152号)の控訴審である、令和4年(ネ)第10046号事件について、2022年9月30日に特許法105条の2の11に基づく第三者意見募集1が開始された2。 意見募集事項は、以下のもの…

知財高判令和2年5月27日(平成30年(ネ)第10016号) ― 特許発明が侵害品の一部分のみに過ぎない場合において102条2項の推定覆滅を認めた事案

はじめに 知財高判令和2年5月27日(平成30年(ネ)第10016号)は、特許権者[原審原告;訴訟承継前控訴人]からその権利義務を包括承継した控訴人(以下、訴訟承継前控訴人と控訴人とを区別せず「控訴人」と表記する)が、被控訴人[原審被告]による本件噴霧…

特許発明が侵害品の一部分のみに過ぎない場合における102条2項に基づく賠償額算定

はじめに 令和元年特許法改正により、102条2項による損害賠償額の推定について覆滅が認められたとしても、その填補が認められる場合があると考えられている(詳細は後述)。それでは、特許発明が侵害品の一部分のみに過ぎないことが理由により推定覆滅が認め…

知財高大判令和2年2月28日(平成31年(ネ)第10003号)[美容器]に関する雑感

はじめに 知財高大判令和2年2月28日(平成31年(ネ)第10003号)は、知財高裁が示した判決要旨からも特許法102条1項の判示部分が最重要であることが理解できる。本判決で示された、102条1項に基づく損害額の計算式・証明責任等の判断枠組みは、下図のようにな…

特許法101条4号による間接侵害成立の妥当性 ― カプコン v. コーエーテクモゲームス事件控訴審判決

(本稿は、同名の前回記事が分かりにくかったため、前回記事の文章構成を全面的に見直したものです。) 問題の所在 特許法101条4号は「特許が方法の発明についてされている場合において、業として、その方法の使用にのみ用いる物の生産、譲渡等若しくは輸入…

【新版あり】特許法101条4号による間接侵害成立の妥当性 ― カプコン v. コーエーテクモゲームス事件控訴審判決

(2019-11-10追記:本稿が分かりにくかったため、新たな記事を作成しました。本稿は記録のために残してあります。) はじめに 本判決 知財高判令和元年9月11日(平成30年(ネ)第10006号等)にはいくつかの論点があるが、本稿では、方法の特許発明に関し特許法…

実施可能要件とサポート要件との関係―知財高判平成29年2月2日(平成27年(行ケ)第10249号等)

本件は特許有効審決に対する審決取消訴訟事件であり、判決は審決を維持した*1。知財高裁第4部 高部コートの判決である*2。進歩性も論じられているが、注目すべきは、実施可能要件とサポート要件との関係を述べた点にあるだろう。 特許請求の範囲の記載がサポ…