特許法の八衢

最三小判令和元年8月27日(平成30年(行ヒ)第69号)後の差戻審についての覚書

最三小判令和元年8月27日(平成30年(行ヒ)第69号)を受けて、差戻審では、新たな手法により効果顕著性を判断することとなるところ、最終的に出される結論は(和解を除くと)次の3通りだろう:

  1. 効果顕著性の存在を認めず、進歩性否定
  2. 効果顕著性の存在を認め、進歩性肯定
  3. 効果顕著性の存在を認めるも、進歩性否定

1番目の結論は、「効果顕著性について、最高裁からその調べ方が悪いと言われたので、別の(適切な)方法で調べてみたけれども、やっぱりありませんでした。したがって結論は前と変わりません」というものなので、この場合、進歩性の判断枠組みや前訴判決(平成26年知財高判)の拘束力については(今以上には)問題とならないだろう。

2番目の結論の場合、差戻審は、効果の独立要件説を採ったのであり、前訴判決の拘束力が及ぶ範囲は容易想到性判断までである(=進歩性全体の判断には及ばない)と判断したことになろう。

3番目の結論では、差戻審は、効果の二次的考慮説を採ったこととなる。この場合、効果顕著性が存在してもなお、進歩性を否定するならば、平成29年知財高判においてなぜ効果顕著性を判断したのかについて、説明が必要であるように思う*1

2020-06-18追記

差戻審判決(知財高判令和2年6月17日(令和元年(行ケ)第10118号))が公開された。

本件発明1の効果は,当該発明の構成が奏するものとして当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものであると認められるから,当業者が容易に発明をすることができたものと認めることはできない。
差戻審判決書PDF版53頁)
等と判示し、差戻審は、上記2番目の結論「効果顕著性の存在を認め、進歩性肯定」を採っている。

そして、

前訴判決は,本件各発明について,その発明の構成に至る動機付けがあると判断しているところ,発明の構成に至る動機付けがある場合であっても,優先日当時,当該発明の効果が,当該発明の構成が奏するものとして当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである場合には,当該発明は,当業者が容易に発明をすることができたとは認められないから,前訴判決は,このような予測できない顕著な効果があるかどうかまで判断したものではなく,この点には,前訴判決の拘束力(行政事件訴訟法33条1項)は及ばないものと解される。
(同48頁)

と判示していることから、上述の通り、「差戻審は、効果の独立要件説を採ったのであり、前訴判決の拘束力が及ぶ範囲は容易想到性判断までである(=進歩性全体の判断には及ばない)と判断した」ことが分かる(私の用語の選択に問題があるのだが、ここでの「容易想到性」は、差戻審判決における「発明の構成に至る動機付け」と同義であり、「進歩性全体」は、差戻審判決における「当業者が容易に発明をすることができた[か否か]」と同義であると思っていただきたい)。

*1:その説明として「効果顕著性にも強さ(段階)があり、本件発明の効果は顕著ではあるけれども、進歩性否定を導く考慮要素(動機付けの存在や阻害要因の不存在など)を打ち消すほどは強くなかった」(平成29年知財高判においては、効果顕著性の程度を判断するつもりであったが、その前提となる効果顕著性がそもそも存在しないとの結論となった)というのはあり得るのかも知れない。このような「効果顕著性の強さ」という概念を持ち出すと、2番目の結論である場合も、単純に独立要件説を採ったとは言えなくなる。