特許法の八衢

【新版あり】特許法101条4号による間接侵害成立の妥当性 ― カプコン v. コーエーテクモゲームス事件控訴審判決

(2019-11-10追記:本稿が分かりにくかったため、新たな記事を作成しました。本稿は記録のために残してあります。)

はじめに

本判決 知財高判令和元年9月11日(平成30年(ネ)第10006号等)にはいくつかの論点があるが、本稿では、方法の特許発明に関し特許法101条4号による間接侵害を認めたことについて述べる*1。結論としては、非常に問題のある裁判例だと考える。なお、本件は被控訴人により最高裁へ上告および上告受理申立が行なわれたようである*2

事件の経緯

本件は、特許権A(特許第3350773号)およびB(同第3295771号)の特許権者であるX[株式会社カプコン]が、Y[株式会社コーエーテクモゲームス]による複数種のゲームソフトの製造等が、特許権AおよびBの間接侵害に当たるとして損害賠償を請求した事案である。

原判決 大阪地判平成29年12月14日(平成26年(ワ)第6163号)は、特許権Bについては、Xの行為が特許法101条1号規定の間接侵害に当たると判断した*3ものの、特許権Aについては、特許権Aに係る特許は無効とされるべきものであり権利行使は認められないと判断した。

Xはこれを不服して控訴し(Yは附帯控訴し)た。

特許権Aに関する本判決の要旨

「イ-9号製品[引用者注:「戦国無双猛将伝」というWiiソフト]等を用いた方法は,本件発明A1の技術的範囲に属し,これらの品を製造,販売又は販売の申出をすることは,本件発明A1についての本件特許権Aの間接侵害(特許法101条4号)に該当する,また,本件発明A1に係る特許は,特許無効審判により無効となるべきものとはいえない」。

「本件発明A1の構成要件とイ-9号方法等の構成との対比は,別紙9「イ号方法の構成」記載のとおりであるから,イ-9号方法等は,本件発明A1の構成要件をすべて充足するものであって,本件発明A1の技術的範囲に属するものと認められる。」

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「別紙9」の抜粋

「イ-9号方法等は,本件発明A1の技術的範囲に属するものである。そして,イ-9号製品等は,別紙9「イ号方法の構成」記載のとおり,ゲーム装置であるWii(……)に装填してゲームシステムを作動させるためのゲームソフトであり,上記ゲーム装置に装填されて使用される用途以外に,社会通念上,経済的,商業的又は実用的な他の用途はないから,イ-9号方法等の使用にのみ用いる物であると認められる。したがって,特許法101条4号により,被控訴人が,業として,イ-9号製品等の製造,販売及び販売の申出をする行為は,本件特許権Aを侵害するものとみなされる。」

「これに対し被控訴人は,①本件発明A1の「第1の記憶媒体と…第2の記憶媒体とが準備されており」とは,実施行為者において各記憶媒体をゲーム装置に装填可能に準備することを意味するものであるところ,本編ディスク[引用者注:イ-9号製品「戦国無双猛将伝」については、「戦国無双3」がこの「本編ディスク」に対応する]保有せずにイ-9号製品等のみを保有しているユーザは,MIXJOYを選択することはないから,本件発明A1の方法を実施することがなく,かつ,イ-9号製品等には,単独でも十分楽しめる内容のゲームプログラムが備わっているから,イ-9号製品等は,社会通念上,経済的,商業的又は実用的な他の用途を有するものであって,本件発明A1の方法の使用にのみ用いる物ではない,②本件発明A1を実施する物は,「本編ディスク及びアペンドディスク[引用者注:例えばイ-9号製品「戦国無双猛将伝」]を装填したプレイステーション[引用者注:あるいはWiiからなるゲームシステム」であり,イ-9号製品等は,イ-9号方法等を実施する装置の生産に用いられる物に過ぎないから,「その方法の使用に…用いる物」に該当しない旨主張する。そこで,被控訴人の上記主張について検討する。」

「まず,上記①の点について,本件発明A1の特許請求の範囲(請求項1)の記載によれば,本件発明A1は,「所定のゲームプログラムおよび/またはデータと,所定のキーとを包含する第1の記憶媒体と,所定の標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて所定の拡張ゲームプログラムおよび/またはデータを包含する第2の記憶媒体とが準備されており,」(構成要件B-1,B-2)「上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填されるとき,」(構成要件D),「上記ゲーム装置が上記所定のキーを読み込んでいる場合には,上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータと上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータの双方によってゲーム装置を作動させ,上記所定のキーを読み込んでいない場合には,上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータのみによってゲーム装置を作動させることを特徴とする,」(構成要件D-1,D-2)「ゲームシステム作動方法」(構成要件E)であることを理解できる。そして,上記構成要件D,D-1及びD-2の記載によれば,ユーザが第2の記憶媒体のみを保有し,第1の記憶媒体保有しない場合でも,ユーザにおいて「上記第2の記憶媒体」を「上記ゲーム装置に装填」すること,その際に,「上記所定のキーを読み込んでいない場合」に当たるとして,「上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータのみによってゲーム装置を作動させる」ことは可能であることを理解できる。一方,本件発明A1の特許請求の範囲(請求項1)には,「第1の記憶媒体と,…第2の記憶媒体とが準備されて」いることについて,「準備」をする主体は実施行為者(ゲームをプレイするユーザ)であり,「準備」とは各記憶媒体をゲーム装置に装填可能に準備すること,すなわち,「上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填されるとき」に,実施行為者において第1の記憶媒体保有することであると解釈すべき根拠となる記載はない。
……次に,前記⑴ア(イ)のとおり,本件明細書Aの発明の詳細な説明には,「本願発明」の技術的意義が記載されている*4ところ,かかる技術的意義を達成するために,「第1の記憶媒体と…第2の記憶媒体とが準備されており」の意味を,実施行為者(ゲームをプレイするユーザ)において各記憶媒体をゲーム装置に装填可能に準備することに特定する必然性は見いだし難い。このように特定しなくとも,ゲームソフトメーカ等により第1の記憶媒体及び第2の記憶媒体が提供され,ユーザにおいてこれを入手することが可能な状況にあれば,上記技術的意義は達成可能であると考えられる。
……以上の本件発明A1の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び本件明細書Aの記載によれば,本件発明A1の「第1の記憶媒体と…第2の記憶媒体とが準備されており」とは,ゲームソフトメーカ等により第1の記憶媒体及び第2の記憶媒体が提供され,ユーザにおいてこれを入手することが可能な状況を意味するものであって,ユーザにおいて各記憶媒体を現に保有することを意味するものではないと解される。そして,同様の理由により,「上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填されるとき」に,実施行為者において第1の記憶媒体保有することが必要であるとは解されない。したがって,イ-9号製品等を保有するユーザが,本編ディスクを保有していないとの事実は,イ-9号製品等が本件発明A1の方法の使用にのみ用いる物であるとの判断を左右するものではない。」

「次に,上記②の点については,本件発明A1は,「記憶媒体…を上記ゲーム装置に装填してゲームシステムを作動させる方法」(構成要件A)であって,「上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填される」(構成要件D)ことを発明特定事項とするものであるから,「上記第2の記憶媒体」に相当するイ-9号製品等は,「その方法の使用に…用いる物」に該当するといえる。また,特許法101条4号の「その方法の使用にのみ用いる物」は,当該「物」のみにより当該特許発明を実施するものである旨の限定は付されていないから,他の物と組み合わせることにより当該特許発明を実施する物も「物」に含まれると解される。」

「以上によれば,被控訴人の上記主張は採用することができない。」

検討

冒頭で述べたように、本判決では特許法101条4号による間接侵害の成立を認めている。101条4号には同条5号と異なり主観的要件が存在しない。したがって、少なくとも損害賠償請求に関しては、同じ間接侵害成立が認められるにしても、101条4号および5号のいずれの規定によるものかで賠償額が大きく異なることとなり、その区別は重要である。そこで、本事案において、101条5号ではなく、101条4号による間接侵害を認めたことが妥当であったか検討する。

まず、知財高裁は「イ-9号製品等は,別紙9「イ号方法の構成」記載のとおり,ゲーム装置であるWii(……)に装填してゲームシステムを作動させるためのゲームソフトであり,上記ゲーム装置に装填されて使用される用途以外に,社会通念上,経済的,商業的又は実用的な他の用途はないから,イ-9号方法等の使用にのみ用いる物であると認められる」と述べるが、これは、イ-9号製品にはゲームソフトという用途以外は考えられないことを述べているだけである。【ゲームソフト=「イ-9号方法等の使用にのみ用いる物」】ではないのだから、これだけでは何ら101条4号の間接侵害成立を認める理由とはなっていない。

ここで、本判決において、被疑間接侵害品(の一つ)であるイ-9号製品「戦国無双猛将伝」は、本件発明A1の「第2の記憶媒体」に当たると判断されている。ところで、本件発明A1には「第1の記憶媒体」という要素も存在するところ、「戦国無双3」が「第1の記憶媒体」に該当する(上記「別紙9」等)。この「戦国無双3」は、「戦国無双猛将伝」の前作ソフトである。被疑間接侵害品「戦国無双猛将伝」は単独でもプレイできるが、前作「戦国無双3」を持っていれば「MIX JOY」というモードもプレイできるのであり*5、この「MIX JOY」モードでWiiを作動させることが本件発明A1の構成要件D-1に相当すると判断されている(「別紙9」)。これまで述べたことから分かるように、本件発明A1の構成要件を全て充足するためには、「戦国無双猛将伝」の他に、「戦国無双3」も必要となる。そして繰り返しになるが、被疑間接侵害品「戦国無双猛将伝」は、「戦国無双3」が存在せずとも、単独でプレイすることができるのである。

被疑侵害者Yは、上記点を指摘し、イ-9号製品「戦国無双猛将伝」は「社会通念上,経済的,商業的又は実用的な他の用途を有するものであって,本件発明A1の方法の使用にのみ用いる物ではない」と主張した(上記①)。

しかし、知財高裁は「イ-9号製品等を保有するユーザが,本編ディスクを保有していないとの事実は,イ-9号製品等が本件発明A1の方法の使用にのみ用いる物であるとの判断を左右するものではない」とYの主張を認めなかった。しかし、これが【イ-9号製品「戦国無双猛将伝」は単独でもプレイできるから「のみ品」ではない】とのYの主張への反論となっているとは到底考えられない*6*7

被疑間接侵害品「戦国無双猛将伝」は、単独でプレイするという、本件発明A1の方法の使用以外の用途が明確にある以上、「本件発明A1の方法の使用にのみ用いる物」ということはできないと解するのが妥当であり、本件については、101条5号による間接侵害の成否を検討すべきだったと言えよう*8

他の裁判例との比較

現行101条2号及び5号が存在しなかった時代に、現行101条4号(当時2号)による間接侵害の成立を認めた、大阪地判平成12年10月24日(平成8年(ワ)第12109号)[製パン方法] は、「タイマー機能及び焼成機能が付加されている権利2の対象被告物件をわざわざ購入した使用者が、同物件を、タイマー機能を用いない使用や焼成機能を用いない使用方法にのみ用い続けることは、実用的な使用方法であるとはいえず、その使用者がタイマー機能を使用して山形パンを焼成する機能を利用することにより、発明2を実施する高度の蓋然性が存在するものと認められる。したがって、権利2の対象被告物件に発明2との関係で経済的、商業的又は実用的な他の用途はないというべきであり、同物件は、権利2の実施にのみ使用する物であると認められる。」と、被疑間接侵害品に他用途がありながらも「のみ品」に該当する理由を述べている。

また、現行101条2号及び5号制定後に、101条4号間接侵害の成立を認めた、知財高判平成23年6月23日(平成22年(ネ)第10089号)[食品の包み込み成形方法及びその装置]も、同様に、「本件発明1を実施しない機能のみを使用し続けながら,本件発明1を実施する機能は全く使用しないという使用形態を,被告装置1の経済的,商業的又は実用的な使用形態として認めることはできない。したがって,被告装置1は,「その方法の使用にのみ用いる物」に当たるといわざるを得ない。」と一応の理由付けを行なっている。

これに対し、本判決 知財高判令和元年9月11日は、被疑間接侵害品が「のみ品」に該当する点につき、(批判の多い)上記2つの裁判例に比べても、全く当を得ない理由を述べているに止まり、不適切さが際立つ。

また、上記2つの裁判例では被疑間接侵害品自体の使い方次第で特許方法の使用となる場合があったところ、本判決では被疑間接侵害品に加え、他の製品(e.g.「戦国無双3」)をも用いなければ特許方法の使用とはならないのであり、この観点からも、本判決は異例の(101条4号の適用範囲をこれまで以上に広げた)裁判例と言えるだろう。

更新履歴

2019-11-04 公開

*1:知財高裁Webページで提供されている判決要旨には、間接侵害について触れられていない。

*2:https://www.koeitecmo.co.jp/news/docs/news_20190924.pdf

*3:原判決の間接侵害判断についての詳細な評釈として、朱子音「ゲーム用ソフトウェアについて遊戯装置にしか装填できないことを理由に「にのみ」型間接侵害を認めた事例-PS2 ゲーム機用ソフトウェア事件-」知的財産法政策学研究54号(2019)219頁以下がある。なお、特許権Bについては、物の発明のほか、方法の発明も含まれるが、原審判決は「原告は,本件発明B-8[引用者注:方法の発明]に係る特許法101条4号所定の間接侵害による不法行為及び実施行為の惹起行為による不法行為に基づく損害賠償請求も選択的にするが,仮にそれらが認められるとしても,それにより認められる損害額は上記の額[特許権Bの物の発明に関する101条1号規定の間接侵害による損害額]を超えないと認められるから,それらについては判断の必要がない。」として、101条4号による間接侵害の成否は判断していない。

*4:引用者注[長いため脚注として記す]:「第1の記憶媒体と第2の記憶媒体とを所有するユーザは,第2の記憶媒体に記憶されている標準のゲーム内容に加え,拡張されたゲーム内容を楽しむことが可能となるから,ユーザにとっては,一回の購入金額が適正なシリーズものの記憶媒体を買い揃えてゆくことによって,最終的に極めて豊富な内容のゲームソフトを入手したのと同じになり,メーカにとっては,膨大な内容のゲームソフトを,ユーザが購入しやすい方法で実質的に提供できるという効果を奏する」

*5:http://www.gamecity.ne.jp/products/products/ee/Rlsengoku3m.htm参照。

*6:また、知財高裁は、クレーム解釈により「実施行為者において第1の記憶媒体保有することが必要であるとは解されない」との結論を導いている一方で、「ゲームソフトメーカ等により第1の記憶媒体及び第2の記憶媒体が提供され,ユーザにおいてこれを入手することが可能な状況にあれば,上記技術的意義は達成可能である」とも述べている。すなわち、最終的にはユーザが「第1の記憶媒体」をゲームソフトメーカ等から入手しなければ、本件発明A1を使用できないとも考えているようであり、論理が不分明である。

*7:なお、被疑侵害者Yの「イ-9号製品等は,イ-9号方法等を実施する装置の生産に用いられる物に過ぎないから,「その方法の使用に…用いる物」に該当しない」との主張(上記②)は、いわゆる間接の間接侵害否定論を述べているものと考えられる。このYの主張に対しても、知財高裁が適切な回答・反論を述べているとは思われない。

*8:もっとも、特許権Aの存続期間は(Xが原審に訴訟提起した平成26(2014)年7月4日直後の)平成26年12月9日に満了しており、存続期間内に101条5号規定の主観的要件を充足していない可能性がある。また、仮に警告状受領等の段階で主観的要件を充足していると判断されたとしても、侵害期間は短いものとなろう。