特許法の八衢

特許法101条4号による間接侵害成立の妥当性 ― カプコン v. コーエーテクモゲームス事件控訴審判決

(本稿は、同名の前回記事が分かりにくかったため、前回記事の文章構成を全面的に見直したものです。)

問題の所在

特許法101条4号は「特許が方法の発明についてされている場合において、業として、その方法の使用にのみ用いる物の生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為」を特許権侵害行為とみなすと規定している。

本件判決知財高判令和元年9月11日(平成30年(ネ)第10006号等)は、特許権A(特許第3350773号)について、上記特許法101条4号規定の間接侵害の成立が認められた事案である*1

ここで、特許権Aに係る発明(本件発明A1)は、特許権者によるプレスリリースにあるように、概略「今作のディスクROMがゲーム装置に装填されるとき、前作のディスクROMを装填した場合に、特典を開放する」という内容の方法の発明である。

この発明の概要から分かるように、本件発明A1を実施するためには、「今作のディスクROM」のほかに、「前作のディスクROM」が必要となる。さらに、本件において上記「今作のディスクROM」に当たるとされたゲームソフト(被疑侵害製品)は、「前作のディスクROM」がなくとも(被疑侵害製品単独でも)プレイすることができるものである。したがって、被疑侵害製品には本件発明A1の使用以外の用途(単独でプレイするという用途)があるため、被疑侵害製品は「その方法の使用にのみ用いる物」に当たらないように思える。

それにも拘わらず、本件判決において知財高裁は、被疑侵害製品を「その方法の使用にのみ用いる物」と認め、その製造等が間接侵害に当たると判断したのである。

「その方法の使用にのみ用いる物」の解釈

「その方法の使用にのみ用いる物」と言えるためには、「当該物に経済的、商業的又は実用的な他の用途がないことが必要」というのが、通説的な解釈である*2

すなわち、ある物につき、特許発明の使用以外の用途が実用的な形で存在すれば、当該物は「その方法の使用にのみ用いる物」には当たらないのである。本件事案においては、「単独でプレイする」という用途(特許発明の使用以外の用途)が実用的なものであることは論を俟たない。ゆえに、「その方法の使用にのみ用いる物」について通説的な解釈を採れば、本件の被疑侵害製品はそれに該当しないということになろう。

本件判決における判断

しかしながら、知財高裁は、本件の被疑侵害製品が「その方法の使用にのみ用いる物」に該当するとしたのである。その理由を次のように述べる。

イ-9号製品等[引用者注:被疑侵害製品]は,別紙9「イ号方法の構成」記載のとおり,ゲーム装置であるWii(イ-9号製品),PlayStation2(イ-16ないし22,23②,24ないし30及び35ないし40号製品)及びPlayStation3(イ-31ないし34号製品)に装填してゲームシステムを作動させるためのゲームソフトであり,上記ゲーム装置に装填されて使用される用途以外に,社会通念上,経済的,商業的又は実用的な他の用途はないから,イ-9号方法等の使用にのみ用いる物であると認められる。

知財高裁は、通説的な解釈と同様に、「経済的,商業的又は実用的な他の用途はない」とは述べている。しかし、知財高裁の言う「他の用途」とは、「ゲーム装置に装填されて使用される用途以外」の用途のことである。すなわち、知財高裁は、被疑侵害製品にはゲームソフト以外の用途以外はないと述べているに過ぎない。

本来、被疑侵害製品が「その方法の使用にのみ用いる物」に当たると言うためには、被疑侵害製品に特許発明以外の用途がないと言わねばならない。つまり、知財高裁が述べた上記理由は、何ら「その方法の使用にのみ用いる物」に該当する理由となっていないのである。

これに対し、被疑侵害者は「イ号製品には,現に,同製品しか有しておらず,同製品のみによりゲームを楽しむユーザが一定数存在するように,それ単独でも十分楽しめる内容のゲームプログラムが備わっているから,社会通念上,経済的,商業的又は実用的な他の用途がある」といった主張を行なっている。これに応答する形で裁判所は次のように述べ、被疑侵害製品が「その方法の使用にのみ用いる物」に当たるとの判断は覆らないとしている。

以上の本件発明A1の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び本件明細書Aの記載によれば,本件発明A1の「第1の記憶媒体と…第2の記憶媒体とが準備されており」とは,ゲームソフトメーカ等により第1の記憶媒体[引用者注:前作のディスクROM]及び第2の記憶媒体[引用者注:今作のディスクROM]が提供され,ユーザにおいてこれを入手することが可能な状況を意味するものであって,ユーザにおいて各記憶媒体を現に保有することを意味するものではないと解される。そして,同様の理由により,「上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填されるとき」に,実施行為者において第1の記憶媒体保有することが必要であるとは解されない。
したがって,イ-9号製品等を保有するユーザが,本編ディスクを保有していないとの事実は,イ-9号製品等が本件発明A1の方法の使用にのみ用いる物であるとの判断を左右するものではない。

これが被疑侵害者の主張に対する正面からの応答になっているとは思えないが、善解すれば、知財高裁は【被疑侵害製品(今作のディスクROM)を所持するユーザーが、現時点では前作のディスクROMを持っておらずとも、前作のディスクROMは入手可能な状態にあるので、ユーザーがいつかは前作のディスクROMを入手する可能性があり、そのいつかが来たら(=前作のディスクROMを入手したならば)、ユーザーが本件発明A1を実施する可能性があるので、被疑侵害製品は「その方法の使用にのみ用いる物」に当たる】と言っているのだろう。

《いつかは使う》基準

過去の裁判例においても、特許発明以外の用途が存在する被疑侵害製品について、上記のような《いつかは使う》基準*3、すなわち【被疑侵害製品のユーザーは特許発明をいつかは実施する可能性があるか否か】を「その方法の使用にのみ用いる物」か否かの判断基準とするものが存在する。

まず、大阪地判平成12年10月24日(平成8年(ワ)第12109号)[製パン方法]は、

被告は、権利2の対象被告物件において、タイマー機能及び焼成機能を重要な機能の一つと位置づけていると認められ、また、使用者たる一般消費者から見ても、製パン器という物の性質上、タイマー機能や焼成機能がある製パン器を、タイマー機能がない製パン器や焼成機能のない製パン器(生地作り専用の機器)と比較した場合、それらの機能の存在が需要者の商品選択上の重要な考慮要素となり、顧客吸引力の重要な源となっていることは容易に想像がつくことである。
そうすると、タイマー機能及び焼成機能が付加されている権利2の対象被告物件をわざわざ購入した使用者が、同物件を、タイマー機能を用いない使用や焼成機能を用いない使用方法にのみ用い続けることは、実用的な使用方法であるとはいえず、その使用者がタイマー機能を使用して山形パンを焼成する機能を利用することにより、発明2を実施する高度の蓋然性が存在するものと認められる。したがって、権利2の対象被告物件に発明2との関係で経済的、商業的又は実用的な他の用途はないというべきであり、同物件は、権利2の実施にのみ使用する物であると認められる。

と述べ(強調は引用者による;以下同)、被疑侵害製品に他用途がありながらも、それが「その方法の使用にのみ用いる物」に該当するとしている。ただし、この裁判例では、単に「いつかは使う可能性がある」と述べているのではなく、「発明2を実施する高度の蓋然性が存在する」と認定判断していることに留意が必要であろう。

続いて、知財高判平成23年6月23日(平成22年(ネ)第10089号)[食品の包み込み成形方法及びその装置]は、次のように、「その方法の使用にのみ用いる物」の充足性判断をより緩やかに認めている。

被告装置1は,前記のとおり本件発明1に係る方法を使用する物であるところ,ノズル部材が1mm以下に下降できない状態で納品したという被控訴人の前記主張は,被告装置1においても,本件発明1を実施しない場合があるとの趣旨に善解することができる。
しかしながら,同号[引用者注:101条4号]の上記趣旨からすれば,特許発明に係る方法の使用に用いる物に,当該特許発明を実施しない使用方法自体が存する場合であっても,当該特許発明を実施しない機能のみを使用し続けながら,当該特許発明を実施する機能は全く使用しないという使用形態が,その物の経済的,商業的又は実用的な使用形態として認められない限り,その物を製造,販売等することによって侵害行為が誘発される蓋然性が極めて高いことに変わりはないというべきであるから,なお「その方法の使用にのみ用いる物」に当たると解するのが相当である。被告装置1において,ストッパーの位置を変更したり,ストッパーを取り外すことやノズル部材を交換することが不可能ではなく,かつノズル部材をより深く下降させた方が実用的であることは,前記のとおりである。そうすると,仮に被控訴人がノズル部材が1mm以下に下降できない状態で納品していたとしても,例えば,ノズル部材が窪みを形成することがないよう下降しないようにストッパーを設け,そのストッパーの位置を変更したり,ストッパーを取り外すことやノズル部材を交換することが物理的にも不可能になっているなど,本件発明1を実施しない機能のみを使用し続けながら,本件発明1を実施する機能は全く使用しないという使用形態を,被告装置1の経済的,商業的又は実用的な使用形態として認めることはできない。したがって,被告装置1は,「その方法の使用にのみ用いる物」に当たるといわざるを得ない。

ただし、この裁判例ですら「ノズル部材をより深く下降させた方が実用的である」と述べ、被疑侵害製品(被告装置1)の使用者が特許発明を実施する蓋然性が高い理由を一応は挙げている。

これら2つの裁判例に対し、本件判決では、被疑侵害製品のユーザーであれば、特許発明を「いつかは使う(実施する)可能性がある」と述べているに過ぎず、その蓋然性が高いことは何ら述べられていない。その蓋然性の高低は、「その方法の使用にのみ用いる物」という要件の充足性判断に影響しないとの判断なのであろう。

また、上記2つの裁判例はいずれも、被侵害製品自体の使い方次第で特許発明を実施する場合があり得た事案であった*4のに対し、本件判決は、被侵害製品(今作のディスクROM)のみでは特許発明を実施することができず、特許発明実施のためには被侵害製品以外の物(前作のディスクROM)も必要となる事案である。すなわち、本件判決は、被侵害製品と特許発明実施との「距離」が、2つの裁判例と比べてより「遠い」のである。

以上から、本件判決は、《いつかは使う》基準を採ったこれまでの裁判例以上に、「その方法の使用にのみ用いる物」の充足性を緩やかに判断したものと評価できよう。

本件判決が101条4号による間接侵害を認めたことの妥当性

前掲大阪地判平成12年10月24日[製パン方法]は、「実際に被告製品の購入者が特許方法にかかる機能を使用しないことがある以上,「にのみ」の要件の充足は否定すべきである。本件は,2002年改正[引用者注:現行特許法101条2号,5号の追加]が成立する前の過渡期の裁判例であると評価すべきであろう」といった評価がなされている*5

また、前掲知財高判平成23年6月23日[食品の包み込み成形方法及びその装置]は、「このように解するときには実質的には同条[引用者注:101条]5号は不要となる。……。本判決の見解は、特許法101条2号、5号による間接侵害が成立しない事案について同条1号、4号による間接侵害の成立を安易に認める結果を招きかねないものであり、特許法101条2号、5号の趣旨を没却するものと言わざるを得ない。判決の妥当性については疑問がある」といった評価がある*6

私もこれら見解に賛成するところ、この2つの裁判例以上に緩やかに「その方法の使用にのみ用いる物」との要件を判断した本件判決の判断は、大いに疑問がある。本事案は、101条5号による間接侵害が成立するか否かを判断すべきだったと考える。

101条5号には、「その方法の使用にのみ用いる物」との要件がない代わりに、「その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられることを知りながら」という主観的要件が課されているため、とくに本事案のように被疑侵害製品の発売から権利行使までに長い時間が空いている(と思われる)場合には、101条4号の間接侵害が認められたときの損害賠償額と比較して、101条5号の間接侵害により認められる賠償額が非常に低廉となる。しかし、それは、101条5号が主観的要件を求める趣旨、すなわち「行為者の主観を新たに要件として加え、その代わりに、「のみ」という客観的要件を緩和」した*7ことからして、甘受すべきものだと考える。

更新履歴

2019-11-10 公開

*1:本件判決では、特許権Bについても間接侵害成立を認めているが、本稿では言及しない

*2:例えば、高部眞規子『実務詳説 特許関係訴訟〔第3版〕』(きんざい,2016)173頁。

*3:この基準の呼称は朱子音「ゲーム用ソフトウェアについて遊戯装置にしか装填できないことを理由に「にのみ」型間接侵害を認めた事例-PS2 ゲーム機用ソフトウェア事件-」知的財産法政策学研究54号(2019)219頁以下において提唱されたものである。非常に的確な表現だと考えるため、本稿で拝借する。

*4:前掲知財高判平成23年6月23日[食品の包み込み成形方法及びその装置]の事案では、被侵害製品の加工(改造)が必要となるが。

*5:増井和夫・田村善之『特許判例ガイド〔第4版〕』(有斐閣,2012)200頁[田村善之]。

*6:高林龍ほか編『年報知的財産法2011』(日本評論社,2011)31頁[三村量一]。小泉直樹・駒田泰土編著『知的財産法演習ノート〔第4版〕』(弘文堂,2017)72頁[宮脇正晴]、茶園成樹編『特許法〔第2版〕』(有斐閣,2017)252頁[茶園成樹]、愛知靖之ほか『知的財産法』(有斐閣,2018)125頁[愛知靖之]も同旨。

*7:特許庁総務部総務課制度改正審議室編『平成14年改正 産業財産権法の解説』(発明協会,2002)24頁。