特許法の八衢

物の発明および方法の発明についての記すまでもない話

「発明は本質的に方法という性質を有している」*1

たとえば、次の【装置クレーム】は、【方法クレーム】を実現する上での「道具」を規定しているに過ぎない。

【装置クレーム】
アイコンの機能説明を表示させる機能を実行させる第1のアイコン、および所定の情報処理機能を実行させるための第2のアイコンを表示画面に表示させる表示手段と、
前記表示手段の表示画面上に表示されたアイコンを指定する指定手段と、
前記指定手段による、第1のアイコンの指定に引き続く第2のアイコンの指定に応じて、前記表示手段の表示画面上に前記第2のアイコンの機能説明を表示させる制御手段とを有すること
を特徴とする情報処理装置。

【方法クレーム】
データを入力する入力装置と、データを表示する表示装置とを備える装置を制御する情報処理方法であって、
機能説明を表示させる機能を実行させる第1のアイコン、および所定の情報処理機能を実行させるための第2のアイコンを表示画面に表示させ、
第1のアイコンの指定に引き続く第2のアイコンの指定に応じて、表示画面上に前記第2のアイコンの機能説明を表示させること
を特徴とする情報処理方法。

*2

しかし、特許法は、方法の発明に加え、物の発明に対しても特許を与え、物の発明については(「使用」のみならず)「生産」等についても特許権侵害が成立するとしている。「物の発明は、いわば前倒しの規律となっているのである。」*3

ところで、間接侵害規定も、(直接侵害に至る前の行為を)「前倒し」で規制するためのものである。そこで、方法の発明の間接侵害と物の発明の直接侵害とを比較してみる。

上記【装置クレーム】に規定された機能のみを備えた情報処理装置の生産等は、【装置クレーム】の直接侵害*4であり、また【方法クレーム】の専用品型間接侵害(101条4号)となる*5

他方、【装置クレーム】に規定された機能に加えて他の機能(e.g. 文書作成機能)を備えた情報処理装置の生産等は、【装置クレーム】の直接侵害ではあるが、【方法クレーム】の専用品型間接侵害とはならない(多機能型間接侵害[101条5号]が成立する可能性はある)。このような情報処置装置は、「その方法の使用にのみ用いる物」に当たらないからである*6

*1:前田健特許法における明細書による開示の役割』(商事法務,2012)376頁。ただし、物質発明という例外が存在する(同378頁以下)。

*2:特許第2803236号の請求項1および3。

*3:朱子音「ゲーム用ソフトウェアについて遊戯装置にしか装填できないことを理由に「にのみ」型間接侵害を認めた事例-PS2ゲーム機用ソフトウェア事件-」知的財産法政策学研究54号(2019)277頁。

*4:「クレームの侵害」というのは、厳密に正しい表現ではないが、分かりやすさを優先してこのような表現を用いる。

*5:【装置クレーム】に規定された機能のみを備えた情報処理装置の「使用」は、【方法クレーム】の直接侵害となる。

*6:もっとも、これと異なる判断を示した裁判例も存在する。朱子音・前掲249頁以下および田村善之=時井真=酒迎明洋『プラクティス知的財産法I』(信山社,2020)46頁以下参照。