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米国知的財産権日記

suziefjpさんのウェブログ「米国知的財産権日記」、
特許権侵害の懈怠(laches)についての連邦最高裁判決である SCA Hygiene Products Aktiebolag v. First Quality Baby Products, LLCの解説が素晴らしい。

iptomodach.exblog.jp

このウェブログは2008年から始まっており、質の高い記事が多いのだけれども、本ウェブログの存在をあまり知られていない気がする(私の気のせいかもしれないが……)。

特許法と行政法との関係(2014年行政不服審査法改正対応版)

(日本における)特許法行政法との関係は、例えば、吉藤幸朔『特許法概説〔第10版〕』(有斐閣,1994)563頁以下や木村耕太郎弁護士のウェブログにまとめられているが、2014年行政不服審査法改正前のものなので、改正後のものを整理してみた*1。主な情報ソースは総務省の行政不服審査法改正に関する資料である。


特許庁長官,審査官,審判官といった行政庁のなした処分および不作為については、行政不服審査法4条の定める所定の行政庁への「審査請求」*2という形で不服申立てができる(行政不服審査法2条および3条)。

ただし、特許法では、「査定、取消決定若しくは審決及び特許異議申立書、審判若しくは再審の請求書若しくは第120条の5第2項若しくは第134条の2第1項の訂正の請求書の却下の決定並びにこの法律の規定により不服を申し立てることができないこととされている処分又はこれらの不作為については、行政不服審査法の規定による審査請求をすることができない。」(特許法195条の4)と例外を設けている。


また、処分の取消しを求める場合、上述の審査請求をしてもよいが、裁判所へ取消訴訟を提起してもよい(行政事件訴訟法8条1項本文;自由選択主義)。ただし、「法律に当該処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ処分の取消しの訴えを提起することができない旨の定めがあるときは、この限りでな」く(行政事件訴訟法8条1項ただし書き)、訴訟提起前の不服申立てを必要とする(不服申立前置)。

かつては多数の個別法で不服申立前置主義を採っていたが、2014年行政不服審査法改正に伴い、これらの多くで不服申立前置の廃止または縮小されることとなった(行政不服審査法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律)。

特許法においても、「この法律又はこの法律に基づく命令の規定による処分(第195条の4に規定する処分を除く。)の取消しの訴えは、当該処分についての異議申立て又は審査請求に対する決定又は裁決を経た後でなければ、提起することができない。」と規定する184条の2は削除された(行政不服審査法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律227条)。

もっとも、特許法は依然として、「拒絶査定」については、拒絶査定不服審判を経なければ(審決を受けなければ)、裁判所へ取消訴訟を提起できない(特許法121条1項および178条6項*3)。すなわち、「拒絶査定」については、不服申立前置が存置されている。この理由は、審判に「一審代替性」があり(審決に対する不服は[地裁ではなく]高裁に訴訟提起する;特許法178条1項)、国民の手続負担の軽減が図られているからだとされている。

*1:もっとも、筆者は、行政法については、特許法以上に初学者であるため、誤りが含まれている恐れがある。誤りを見つけた方は、是非コメント欄でご指摘いただきたい。

*2:不服申立ての方法として、従来は「審査請求」と「異議申立て」とが併存していたが、2014年行政不服審査法改正により「審査請求」に一元化された。

*3:木村弁護士は「特許法は、「拒絶査定」に対して審判を請求できるとは書いている(121条)が、いきなり取消訴訟を提起してはいけないという規定の仕方にはなっていない。なぜなのか、よくわからない。」と書かれているが、おそらく178条6項に由来するものだろう。

プロパテントへの揺り戻しか?―PersonalWeb Technologies, LLC v. Apple Inc. (Fed. Cir. 2017)

本事件は、特許権者である原告が、IPRにおいて、対象特許発明が2つの先行技術文献の組み合わせから自明であると判断されたことを不服として、CAFCに上訴したものである。

本判決で、裁判体*1は、PTABのクレーム解釈は是認したが、非自明性については、

  1. 2つの先行技術文献が、対象クレームの全ての要素を開示していることについても、
  2. 2つの先行技術文献を、当業者(a relevant skilled artisan)が組み合わせる動機付け(a motivation to combine)についても、

十分な説明や立証がなされていない、として、PTABの判断を破棄差戻し(vacated and remanded)とした。

最近、PTABの特許発明は自明という判断を、CAFCが破棄する事案が目に付く*2

この傾向は、日本において(今と異なり(苦笑)特許庁における進歩性の判断が厳しかった時代に、

紙葉類の積層状態検知装置を紙葉類識別装置に置き換えるのが容易であるというためには、それなりの動機付けを必要とするものであって、単なる設計変更であるということでは済ませられるものではない。……本願発明と引用発明とは,そもそも発明の課題及び目的が相違し,相違点1及び3に係る本願発明の構成が,引用発明及び本件周知装置に開示も示唆もされておらず,これらを組み合わせて同構成を得ることの動機付けも見いだし難い。

と判示した知財高判平成18年6月29日(平成17年(行ケ)第10490号)や、

特許法29条2項が定める要件の充足性,すなわち,当業者が,先行技術に基づいて出願に係る発明を容易に想到することができたか否かは,先行技術から出発して,出願に係る発明の先行技術に対する特徴点(先行技術と相違する構成)に到達することが容易であったか否かを基準として判断される。ところで,出願に係る発明の特徴点(先行技術と相違する構成)は,当該発明が目的とした課題を解決するためのものであるから,容易想到性の有無を客観的に判断するためには,当該発明の特徴点を的確に把握すること,すなわち,当該発明が目的とする課題を的確に把握することが必要不可欠である。そして,容易想到性の判断の過程においては,事後分析的かつ非論理的思考は排除されなければならないが,そのためには,当該発明が目的とする「課題」の把握に当たって,その中に無意識的に「解決手段」ないし「解決結果」の要素が入り込むことがないよう留意することが必要となる。
さらに,当該発明が容易想到であると判断するためには,先行技術の内容の検討に当たっても,当該発明の特徴点に到達できる試みをしたであろうという推測が成り立つのみでは十分ではなく,当該発明の特徴点に到達するためにしたはずであるという示唆等が存在することが必要であるというべきであるのは当然である。

と述べた知財高判平成21年1月28日(平成20年(行ケ)第10096号)を彷彿とさせる。

今後は、米国でもプロパテントへの揺り戻しがあり、IPRにおいても非自明性の基準が緩む(特許無効になりにくくなる)のだろうか。

*1:Taranto, Chen, and Stoll.

*2:例えば、先行技術の組み合わせの動機付けの説明が不十分だとしたIn re NuVasive, Inc., 842 F.3d 1376 (Fed. Cir. 2016)(本判決でも引用)や、PTABによる常識(common sense)の適用方法を批判したArendi S.A.R.L. v. Apple Inc., 832 F.3d 1355(Fed. Cir. 2016)である。

IPR中の補正 ― In re Aqua Products, Inc.

IPR中に補正を行なう場合、補正後クレームが特許性を有することを特許権者が証明しなければならないとした(PTAB決定を認めた)2016年5月のCAFCパネル判決*1*2en bancで再審理されることになっていたのか。

なお、Oral Argumentは2016年12月に実施済みで、録音したものはCAFCのWebサイトから入手できる

*1:In re Aqua Products, Inc., 823 F.3d 1369 (Fed. Cir. 2016)

*2:Prost, Reyna, and Stark. Stark判事はデラウェア州連邦地裁判事で、指名(designation)によりこの審理に加わったようだが、こんな制度があるのか。ちなみに、この判事、Wikipediaに記事がある

iOS版 Black's Law Dictionary, 10th Edition

一部の単語は発音も教えてくれるし、何より(紙書籍よりも)安いので、おすすめ。

(これは紙書籍にもあるのだろうけれども)法格言(Legal Maxims)集などのAppendixも充実している。

Black's Law Dictionary, 10th Edition

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Tinnus Enterprises, LLC v. Telebrands Corporation (Fed. Cir. 2017)

本判決は、CAFCが、テキサス州東部地区連邦地裁による暫定的差止め命令(preliminary injunction)*1を維持した事案である。

ユーザーマニュアルが(ユーザによる)直接侵害の証拠になるか等、興味深い論点がいくつか議論されているが、
なかでも面白いのが、暫定的差止めを認める要件の一つである「回復不能の損害(irreparable harm)」の存在を認めるにあたり、
原告*2製品のAmazonのレビューに、「無名な(off brand)この製品のほうが、有名な(name brand)被告製品のものよりも好きだ」というものがあることを、その理由(の一つ)にしている点だろうか。

*1:日本における仮処分に相当。

*2:特許権の専用実施権者(exclusive licensee)。

19世紀の米国特許法には先使用権があった?

武生昌士「英米特許法における先使用概念に関する一考察」日本工業所有法学会年報38号(2015)10頁によれば、
1839年米国特許法には、「既得権条項(vested rights clause)」というものが存在したらしい(1952年改正で削除)。

既得権条項は,新規に発明された機械,製造物又は組成物を,発明者にyよる特許出願よりも前に取得するなどした者に,当該機械等を使用する権利及び使用のために他者に売却する権利を与えるものであるものである。他方で,特許出願前にこのように機械等を取得したり先使用したりした者がいたとしても,特許は無効にされない,ということも定めている。

とのことである。

ただし、上記論文では、

既得権条項は機械等の使用及び使用のための販売の権利を与えるのみで,機械等の生産(製造)の権利を認めるものではない。我が国の現行法との対比でいえば,先使用権というよりは特許出願の時から日本国内にある物に対して特許権の効力が定めた69条2項2号にむしろ近いものなのではないだろうか。

と述べている。

なお、この論文は、古典的英国法(1977年改正前の英国法)や2011年改正前米国法、さらには現行オーストラリア法という、日本における先使用のような規定がない法制度について何故そのような形態をを採っているのかを検討しており、興味深いものである。