CAFC判決を読む ― Forum US, Inc. v. Flow Valve, LLC (Fed. Cir. 2019)を素材に ―

はじめに

2019年7月17日付のCAFC判決Forum US, Inc. v. Flow Valve, LLC の判例速報(Slip Opinion)をただただ読んで(見て)いく、という内容である。

以下、Slip Opinionの抜粋(黄色くマークアップしたのは引用者である)を見て、簡単な説明を加えていく。“Page”はSlip Opinionのページ数を指す。

例によって、誤りを見つけたら、ご指摘いただければ幸いである。

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まず、precedentialな判決であることが分かる。nonprecedentialなものであれば、“United States Court of Appeals”と書かれている部分の上に“NOTE: This disposition is nonprecedential.”との記載があるからである。

次いで、Forum USとFlow Valveとの争いであること、さらに“Plaintiff-Appellee”“Defendant-Appellant”と書かれていることから、Forum USが原審原告・被上訴人、Flow Valveが原審被告・上訴人であることが分かる。その下の“2018-1765”というのは、本事件の事件番号(case number)である。

その下には、本件がオクラホマ州東部地区連邦地裁の事件(事件番号:5:17-cv-00495-F)からの上訴審であることが書かれている。

“Decided: June 17, 2019”は判決日である。

1ページ目には、さらに当事者の代理人に関する情報が続いている。

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Reyna, Schall Hughes判事が合議体を構成し、Reyna判事がこの判決を執筆した。反対意見については言及されていないので、全会一致であることも分かる。

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ここには、本判決の概要が書かれている。

Flow Valveが連邦地裁の“summary judgment”(“as a matter of law”との関係を含め後述)について上訴した。summary judgmentは、Reissue特許クレームが特許法(35 U.S.C [Title 35 of the United States Code])251条に従っておらず、特許無効との判断であった。そして、CAFCもこの地裁判断を維持(affirm)するというのが本判決の結論である。

ここからFlow Valveが(特許無効との判断に不服で上訴しているので)特許権者であろうことが分かるが、気になるのはFlow Valveが原審被告であったことだ。特許権侵害訴訟では、通常、特許権者が原告(の一人)だからである。

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ここからしばらく、本件で問題となったReissue特許の説明が続く。

先に予想したとおり、特許権者はFlow Valveであった。

ここで脚注が出てくる。CAFC(に限らないが)判決では脚注が多い。この脚注1は大した内容のものではないが、重要なものもあるため、CAFC判決を読む際には、脚注にも注意を払う必要がある。

id.”とは、ラテン語idemの略で、同じ文献(ここでは“Reissue patent”)の意である。なお、本判決では“Id.”との表記も出てくるが、両者に差はないと思われる。

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このページも、特許の説明である。本来ならば特許公報を含めきちんと読むべきだが、ここでは、本件Reissue特許の発明の詳細な説明(written description)にも図面にも、“arbors”を備えている実施形態しか開示されていない点を確認するにとどめておく。

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Reissue特許では、元の特許よりも権利範囲を広げ、“arbors”を備えるという限定のないクレームを追加したことが分かる。

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Reissueで加わったClaim 14には、たしかに“arbors”の限定がない。

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さて、先のページで特許の発明も終わり、ここから事件の経緯が述べられている。

原審原告のForum USが求めたのは、Reissue特許無効との確認判決(declaratory judgment)であった*1。だから、特許権者が原告に含まれていなかったのである。

そして、Forum USは“summary judgment”を求めている。summary judgmentとは、重要な事実問題に関する真の争点(genuine issue of material fact)がない場合、trialを経ずに下される判決である*2

最後の“J.A.”というのは、joint appendixの略である。joint appendixとは、訴訟に関連する書面や判決を集めた文書である*3。ここでは、joint appendixの101ページから115ページに上述した事件の経緯が書かれていることを示している。

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原審被告Flow ValveはTerry Iafrateという専門家の意見陳述(expert declaration)を提出したが、地裁は原告を支持するsummary judgmentを下した。Reissue特許クレーム発明が、詳細な説明や図面に明示的に(“explicitly and unequivocally”)示されていないというのがその論拠である。

Antares Pharma, Inc. v. Medac Pharma Inc., 771 F.3d 1354 (Fed. Cir. 2014)という判例が引かれている。CAFC判決では基本的にBluebook形式での引用がされているところ、Bluebook形式の読み方は色々なところで解説されているが、ここでも簡単に述べておく。“F.3d”はFederal Reporter, 3rd Seriesという判例集の略語であり、Federal Reporter, 3rd Seriesの771集1354ページから掲載されているFederal CircuitすなわちCAFCの2014年の判決という意味である。

上述したIafrate氏の意見陳述は、重要な事実問題に関する真の争点を生じさせない、と地裁は判断し、その結果、summary judgmentが下されたのである。

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この地裁判決に対し、被告Flow Valveは上訴した。CAFCは28 U.S.C.の1295条(a)(1)に基づく管轄権(jurisdiction)を有している。

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CAFCは、地裁がsummary judgmentを下したことが妥当だったかについて、(地裁の判断を考慮せず)一から改めて(de novo)審理する。根拠となる判例が引かれている。1575というのは関連する記載のあるページである。

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summary judgmentが適切に付与(grant)されたか否かを判断するにあたり、証拠をsummary judgmentを要求していない側にとって最も有利なように証拠を評価する。

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Reissue特許の新たなクレームが特許法251条に従っているか否かは、(de novoで審理される)法律問題(question of law)であるが、251条準拠についての法的結論(legal conclusion)には、基礎となる事実問題(question of fact)が含まれている。

原(original)特許とReissue特許とが同じ(same)発明に対するものか否かを判断することが必要となるが、法的文書(instruments)が、何を意味しているかではなく、何が現に記載されているかを理解するにあたり助けとなるよう、技術用語の意味を確かめるために専門家による証拠(expert evidence)を考慮することができる。

ここで、Industrial Chemicalsという1942年の連邦最高裁判例が引かれている*4。“315 U.S. 668”の“U.S.”はUnited States Reportsという公式判例集を意味する*5

本事案において、Reissue特許の新しいクレームが“original patent requirement”を満たしていないと判断するというのが合議体の結論である。

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「拡大Reissueクレームに対しては、その発明が明細書に示唆されている(suggested or indicated)だけでは不十分である」というのが確立した規範であることが書かれている:

Industrial Chemicals連邦最高裁判決では、1934年特許法64条*6の解釈として、この規範が述べられた。“same invention requirement”と知られるこの規範は、法典化されている*7

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そして、1952年の法改正*8に際し、法文が“the same invention”から“the original patent”に変更された*9が、“same invention requirement”に変更はない、と述べる。

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先ほどと同じことが表現を変えて述べられている:Reissueによって保護されるものが原特許により保護が意図されていたものであることが、法的文書の文面(face)から明らかでなければならない。

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本事案にIndustrial Chemicals判決およびAntares判決で定立された規範を本事案に適用し、CAFC合議体は本Reissueクレームを無効と判断する。

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特許権者Flow Valveは、(Reissueクレームの対象である)“arbors”のない実施形態が原特許の文面に開示されていないことは争っておらず、その代わり、当業者であれば、明細書から“arbors”が付加的な要素であることは理解できると主張している。ここで、“Appellant Br.”とは、Appellant Brief、すなわち上訴人=特許権者Flow Valveの出した書面のことである。

この主張を支持するものとしてFlow ValveはIafrate氏の意見陳述を提出したが、これは重要な事実問題に関する真の争点を生じさせないと(地裁と同様)CAFC合議体も判断した。

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たとえ当業者が(明細書から)Reisuueクレームを把握できても、Industrial ChemicalsおよびAntaresの規範を満たすには不十分である、と本判決は述べる。

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最後に、In re AmosというCAFC判決が、本判決と矛盾しないことが述べられている。In re Amosは、地裁のsummary judgmentでも言及されていたもので、拡大Reissue出願を拒絶したUSPTO審決を覆した判決である。

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結論が述べられている。原審維持である。

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最後に訴訟費用負担について言及がある。Federal Rules of Appellate Procedure Rule 39には費用負担のデフォルトルールが規定されているが、裁判所が裁量でこのルールを変更可能である。本判決では、訴訟当事者各人が自身の費用を負担すべき旨が記されている。

更新履歴

2019-07-15 とりあえず公開

*1:このような訴訟提起に至った経緯は、原審の訴状(complaint)に記載されている。

*2:似たものに、iudgment as a matter of law (JMOL)があるが、こちらはtrial中に下されるものである。

*3:上訴人が提出するものであるが、その内容につき、原則として訴訟両当事者の合意が必要がある。なお、Federal Rules of Appellate Procedure Rule 30にはjoint appendixのことが規定されているが、そこでは単に“appendix”と称されている。

*4:なお、本CAFC判決文では「consider expert “evidence」と書かれているが、「consider “expert evidence」の誤記であろう。

*5:古いものは議会図書館Webページから、新しいものは連邦最高裁Webページから、入手可能である。

*6:“[T]he commissioner shall, on the surrender of such patent and the payment of the duty required by law, cause a patent for the same invention, and in accordance with the corrected specification, to be reissued to the patentee or to his assigns or legal representatives, for the unexpired part of the term of the original patent.”https://www.loc.gov/item/uscode1934-001035002/

*7:判決では1870年法を挙げているが、1836年法で既に“same invention”との語が使われている。

*8:Reissueに関する規定は、251条及び252条に移動した。https://www.loc.gov/item/uscode1952-004035025/

*9:“[T]he Commissioner shall, on the surrender of such patent and the payment of the fee required by law, reissue the patent for the invention disclosed in the original patent, and in accordance with a new and amended application, for the unexpired part of the term of the original patent.”

CAFCについての覚書

はじめに

米国特許法制を学ぶ上で、連邦巡回区控訴裁判所*1 (United States Court of Appeals for the Federal Circuit; CAFC*2 )の判決を読むことは、(最近は連邦最高裁に判決を覆されることが多いとは言え)いまだ重要であろう。

まともな知財教育環境にいれば、CAFC判決の読み方を教わるのかも知れないが、そのような環境下になかった私は、判決を読むのにいつも苦労している。それでも読んでいく中で、多少は知識が得られたので、本稿ではそれをまとめてみた。

恵まれた教育環境に居ない方々のお役に少しでも立てれば幸いである。また、上記のように私はまともに知財および法学教育を受けていないので、誤りがあれば、ご指摘いただきたい。

管轄

CAFCは、特許(patent)に関する連邦地裁の終局判決(final decision)や中間命令・判決(interlocutory order or decree)に対する上訴事件について専属管轄権(exclusive jurisdiction)を持ち*3、また、米国特許商標庁の特許審判部(Patent Trial and Appeal Board; PTAB)の審決(decision)へ不服申立て事件の専属管轄権も持つ*4*5

CAFCでの「特許」以外の知的財産の取り扱いについても、簡単に触れておこう*6

米国におけるpatentには、日本における(知的財産としての)「特許」(utility patent)以外に、plant patentやdesign patentも含まれる*7ため、これらは上記の通り、CAFCが取り扱う。

(連邦)商標について、商標審判部(Trademark Trial and Appeal Board; TTAB)審決等へ不服申立てに関しては専属管轄権を持つ*8一方、商標権の侵害事件等についてはそうではない。著作権についても、CAFCは専属管轄権はない。

もっとも、商標・著作権に関しても、その他の知的財産(トレードドレスなど)に関しても、原審事件が特許を含むものであれば、上訴審裁判所たるCAFCはこれらを取り扱える。上訴審において特許が争点になっておらずとも同様である*9

さらに、CAFCは国際貿易委員会(International Trade Commission; ITC)の最終決定(final determination)に対する上訴事件についても専属管轄権を有する*10ため、ITC手続きにおいて現れた知的財産についても、CAFCが取り扱う。

事件名

連邦地裁からの上訴事件については、「(原審の)原告(plaintiff) v. 被告(defendant)」という事件名となる。すなわち、原則として原審事件名と変わらない*11

PTAB審決に対する上訴審の事件名は、以下に述べるようにやや複雑である。

拒絶不服審判請求(appeal)審決に対する上訴審は「In re: 出願人(=上訴人(appellant))」という事件名となる。

他方、IPR審決への上訴審の事件名は、「上訴人(appellant) v. 被上訴人(appelle)」となるのが通常である。例えばIPR審決で特許無効と判断された場合、「特許権者 v. IPR請求人(petitioner)」となる。しかし、特許権者の上訴後に、特許権者とIPR請求人との和解が成立した等でIPR請求人が訴訟から抜ける(withdraw)一方、USPTO(の長官(Director))が訴訟に参加する(intervene)ことがあり、この場合は「特許権者 v. 長官(の個人名)」が事件名となる*12 *13

ITC最終決定に対する上訴審については、「上訴人(appellant) v. ITC」との事件名である。

裁判体

事件は、通常3人*14の判事からなる合議体(panel)で審理される*15。合議体は常勤判事(active judge)のみから構成される場合だけではなく、上席判事(senior judge)が加わる場合もある*16。さらに、連邦地裁判事が加わることもある*17

このほか、大法廷(en banc)により審理されることもある。これについては項をあらためて記す。

En banc

判例統一の必要がある場合や特に重要な争点がある場合に、常勤判事の(原則として)全員による審理、すなわちen banc審理がなされる*18

en banc審理の多くは、一旦合議体による判決が出された後、訴訟当事者がen bancによる再審理請求(petition for rehearing en banc)を求め、常勤判事の過半数がその請求を認めた結果なされたものであるが、判事が自発的に(sua sponte)en banc審理を請求することもある*19。この場合も、常勤判事の過半数がその請求を認めて初めてen banc審理となる。

CAFC判例は、en banc判決でしか判例変更(overrule)できない*20

なお、事件における争点の全てではなく、一部のみがen bancにより審理されることもある*21

Precedential/Nonprecedential/Rule 36 Judgment

判決理由(opinion)や命令(order)は、先例性のあるもの(precedential)とないもの(nonprecedential)とに分けられ、precedentialかnonprecedentialかは合議体が判断し、precedentialとされた判決理由(および反対意見等)は他の判事に回付され、他の判事がコメントを出すことやen banc審理を請求することができる*22。また、判決公表後、何人(any person)もnonprecedentialがないと判断された判決意見をprecedentialに変更するように求めることが可能であり*23、実際に変更されたものもある*24

このほか、原審判決を維持(affirm)(=上訴棄却)するとの結論のみを示し、その理由を付さないRule 36 Judgmentというものも存在する*25

Opinion

通常、多数意見側(majiority)の判事の一人がauthoring judgeとして法廷意見を執筆し*26 *27、authoring judgeが誰かは公表される。

ただし、per curiam opinionの場合は、authoring judgeは示されない。なお、per curiam opinionは全会一致の意見とは限らない*28

また法廷意見のほか、判事署名入りの同意意見(concurring opinion)や反対意見(dissenting opinion)*29が付されることもある*30

Standards of Review

CAFCは、原審での認定判断について、以下のような審理基準(standards of review)*31を持つ点で、法律審裁判所である。

CAFCでは、法律問題(question of law)については、原審の判断を一から改めて(de novo)審理される一方、事実問題(question of fact)については、原審で行なわれた事実認定(factual findings)がある程度尊重される。

すなわち、判事が行なった事実認定については“clearly erroneous”があった場合に限りCAFCで覆すことができ*32陪審が行なった事実認定については(“clearly erroneous”よりも厳しい)“substantial evidence”基準を満たして初めてCAFCで覆すことができる*33。また、PTABやITCが行なった事実認定も“substantial evidence”基準に基づき再審査される*34

Amicus Curiae

「裁判所の友」と訳されるamicus curiaeとは、訴訟当事者以外の第三者が訴訟に関与できる制度である*35*36

全当事者の同意あるいは裁判所の許可があれば、第三者は訴訟初期に意見を提出でき*37、さらに裁判所の許可があれば、口頭弁論にも参加できる*38。なお、米国政府等は当事者の同意や裁判所の許可がなくとも意見を提出できる*39。また、裁判所が特定の第三者に意見を求めることもある*40

加えて、一旦判決が出た後に合議体またはen banc再審理すべきか否かについても、裁判所の許可があれば、第三者は意見を提出できる*41。こちらの場合も、米国政府等は裁判所の許可がなくとも意見を提出できる。

更新履歴

2019-06-02 「Precedential/Nonprecedential/Rule 36 Judgment」までの未完成版の公表
2019-06-09 さしあたり完成

*1:このように訳されるのが通常だが、必ずしも「控訴」のみを扱うわけではないため、「上訴」裁判所とするのが正確であろう。

*2:米国弁護士の多くは、United States Court of Appeals for the Federal Circuitのことを“Federal Circuit”と略すようであるが、本稿ではCAFCと略称する。

*3:28 U.S.C. §1295(a)(1)および28 U.S.C. §1292(a)(1) and (c)(1).

*4:28 U.S.C. §1295(a)(4)(A).

*5:もっとも、PTAB審決に対する不服申立てバージニア州東部地区連邦地裁(Pre-AIAではワシントン特別区連邦地裁)へも可能である(35 U.S.C. §145)[連邦地裁は事実審であるため、新たな証拠を提出できる点などに、CAFCではなく連邦地裁へ上訴する意義がある(“Section 145, by contrast, authorizes a more expansive challenge to the Board's decision and is generally more time consuming. For example, patent applicants can conduct discovery and introduce new evidence.” Nantkwest, Inc. v. Iancu, 898 F.3d 1177, 1180 (Fed. Cir. 2018).)。]。この場合も、地裁からの上訴審はCAFCは取り扱う。例えば、NantKwest, Inc. v. Lee, 2015-2095 (Fed. Cir. May. 3, 2017).

*6:なお、CAFCが扱うのは知的財産に限らない。例えば、退役軍人上訴裁判所(United States Court of Appeals for Veterans Claims)からの上訴についても専属管轄権を持つ(38 U.S.C. §7292)。

*7:35 U.S.C. chapters 15 and 16.

*8:28 U.S.C. §1295(a)(4)(A).

*9:“This court has exclusive jurisdiction over all appeals in actions involving patent claims, including where, as here, an appeal raises only non-patent issues. 28 U.S.C. §1295(a)(1).” Oracle Am., Inc. v. Google LLC, 886 F.3d 1179, 1190 (Fed. Cir. 2018).

*10:28 U.S.C. §1295(a)(6).

*11:これに対し、連邦最高裁での事件名は「裁量上告人(petitioner) v. 被上告人(respondent)」となる。

*12:例えば、PGS Geophysical AS v. Iancu, 891 F.3d 1354 (Fed. Cir. 2018).

*13:もっとも、この場合でも(IPR請求人が訴訟から抜けるタイミングによって(?))「In re: 特許権者」となることもある。例えば、In re Aqua Prods., Inc., 823 F.3d 1369 (Fed. Cir. 2016)。この事件は、en bancによる再審理では「Aqua Prods., Inc. v. Matal」(Joe Matalは当時の[暫定]USPTO長官)との名称になっている(Aqua Prods., Inc. v. Matal, 872 F.3d 1290 (Fed. Cir. 2017).)。

*14:規則上は奇数であれば良い。Federal Circuit Rule 47.2.

*15:なお、連邦最高裁から差戻された(remand)事件は、原則として同じ合議体により審理される。Internal Operating Procedures #10 ¶2(a).

*16:例えば、Novartis Pharm. Corp. v. West-Ward Pharm. Int'l Ltd., 2018-1434 (Fed. Cir. May. 13, 2019)では合議体3人のうち2人が上席判事である。

*17:例えば、In re Aqua Prods., Inc., 823 F.3d 1369 (Fed. Cir. 2016).

*18:Federal Rules of Appellate Procedure Rule 35(a).

*19:例えば、Lexmark Int'l, Inc. v. Impression Prods., Inc., 785 F.3d 565 (Fed. Cir. 2015)やNantKwest, Inc. v. Matal, 869 F.3d 1327 (Fed. Cir. 2017).

*20:Williamson v. Citrix Online, LLC, 792 F.3d 1339, 1347 n.3 (Fed. Cir. 2015).

*21:例えば、Williamson v. Citrix Online, LLC, 792 F.3d 1339 (Fed. Cir. 2015)はPart II.C.1.のみがen bancによるものであり、また、Click-To-Call Techs., LP v. Ingenio, Inc., 899 F.3d 1321 (Fed. Cir. 2018)ではfootnote 3のみがen bancによるものである。さらに、Akamai Techs., Inc. v. Limelight Networks, Inc., 797 F.3d 1020 (Fed. Cir. 2015)は、一部争点について合議体に差戻している。

*22:Internal Operating Procedures #10 ¶5.

*23:Federal Circuit Rule 32.1(e).

*24:例えば、In re Siny Corp., 2018-1077 (Fed. Cir. Apr. 10, 2019).

*25:Federal Circuit Rule 36.

*26:Internal Operating Procedures #8 ¶2.

*27:特殊な事案として、ある論点について多数意見が形成できず(authoring judge以外の2判事は、結論は一致するものの理由付けが異なる)、当該論点についてauthoring judgeが反対意見を述べているものもある:C.R. Bard, Inc. v. M3 Systems, Inc., 157 F.3d 1340, 1354 n.4 (Fed. Cir. 1998).

*28:むしろ、例えばCLS Bank International v. Alice Corp. Pty. Ltd., 717 F.3d 1269 (Fed. Cir. 2013)、Akamai Techs., Inc. v. Limelight Networks, Inc., 692 F.3d 1301 (Fed. Cir. 2012)のように、CAFCは判事間で意見が大きく割れたものをper curium opinionとしているように思われる。とくに前者は、システムクレームの特許適格性について、審理に参加した全10判事の判断が5対5の半々に割れ、多数意見を形成できなかった事案である。

*29:ちなみに、en banc審理請求の拒絶(denial)について反対意見が付記される場合もある。例えば:WesternGeco L.L.C. v. Ion Geophysical Corp., 621 Fed. Appx. 663 (Fed. Cir. 2015).

*30:“Additional Reflections”なるものが付された事案もある:CLS Bank International v. Alice Corp. Pty. Ltd., 717 F.3d 1269, 1333 (Fed. Cir. 2013).

*31:詳細は、Kevin Casey et. al., Standards of Appellate Review in the Federal Circuit: substance and Semantics, 11 FED. CIR. Bar J. 279 (2002)参照。日本語で読める文献としては、小野康英「米国特許法の基本~事実問題及び法律問題~」(2017)がある。

*32:Federal Rules of Civil Procedure Rule 52(a)(6).

*33:Trs. of Bos. Univ. v. Everlight Elecs. Co. 896 F.3d 1357, 1361 (Fed. Cir. 2018).

*34:In re Warsaw Orthopedic, Inc., 832 F.3d 1327 (Fed. Cir. 2016), Converse, Inc. v. Int’l Trade Comm’n, 909 F.3d 1110, 1115 (Fed. Cir. 2018).

*35:正確には、そうした第三者をいう。複数形はamici curiaeである。

*36:歴史的な面も含めて、加藤範久「特許訴訟に「裁判所の友」は必要か」特技懇272号(2014)77頁が詳細に解説している。

*37:Federal Rules of Appellate Procedure Rule 29(a)(2).

*38:Federal Rules of Appellate Procedure Rule 29(a)(8).

*39:Federal Rules of Appellate Procedure Rule 29(a)(2).

*40:例えば、Lexmark Int'l, Inc. v. Impression Prods., Inc., 785 F.3d 565, 566 (Fed. Cir. 2015).

*41:Federal Rules of Appellate Procedure Rule 29(b)(2).

クレーム解釈における当業者 ― とくに機能的クレーム表現の場合

問題の所在

日本特許法制下において、特許発明の一つの構成要件が「表示手段」であり、その特許出願時点では有機ELディスプレイが存在していなかった(明細書には「表示手段」の例として、ブラウン管ディスプレイおよび液晶ディスプレイが記載されている)場合を仮定する。このとき、本特許発明の「表示手段」以外の全ての構成要件を充足し、かつ、(ブラウン管ディスプレイや液晶ディスプレイは備えていないが)有機ELディスプレイを備えている被疑侵害品は、当該特許発明の技術的範囲に属するか。

特許発明の技術的範囲の画定、いわゆるクレーム解釈は、出願時の当業者の視点で行なうべきであり*1、出願時の当業者に有機ELディスプレイは想定し得ないので、「技術的範囲には属しない」という結論になるのだろうか。

米国特許法制におけるMeans-Plus-Function Elementの解釈

米国特許法制においても、クレーム解釈の主体は、出願時の当業者である*2

しかし、米国特許法112条(f)によりMeans-Plus-Function Elementに当たる判断されたクレーム要素(構成要件)は、明細書に記載された(当該クレーム要素に対応する)構造等およびその均等物のみを示すと解釈されるところ、その均等物とは、特許出願時点ではなく、特許掲載公報発行時点(at the time of the issuance of the claim)に入手可能な物までを含む*3。その理由は、特許掲載公報発行時に、クレーム文言の意義が確定するからとされている*4

日本法制における機能的クレーム表現の解釈

しかしながら、「表示手段」のような機能的クレーム表現のみ、特許掲載公報発行時点の技術知識を加味して解釈するというのは、米国特許法112条(f)のような特別の規定のない日本特許法制下のクレーム解釈では採り得ないであろう。

さすれば、本設例においては、「表示手段」について、明細書の記載等から出願時の当業者が把握できる範囲までを文言解釈による技術的範囲としつつ、均等論により、有機ELディスプレイを取り込める(均等論の適用要件を満たす限りにおいて、有機ELディスプレイを含むところまで技術的範囲を拡張できる)とするのが、妥当であろう。

均等論が「特許出願の際に将来のあらゆる侵害態様を予想して明細書の特許請求の範囲を記載することは極めて困難であり、相手方において特許請求の範囲に記載された構成の一部を特許出願後に明らかとなった物質・技術等に置き換えることによって、特許権者による差止め等の権利行使を容易に免れることができるとすれば、社会一般の発明への意欲を減殺することとなり、発明の保護、奨励を通じて産業の発達に寄与するという特許法の目的に反するばかりでなく、社会正義に反し、衡平の理念にもとる結果となる」(強調は引用者による)*5ことを根拠とすることとも整合すると考える。

先行研究

以上の文章をアップロードした後、大野聖二「機能的クレームの日米比較」片山英二先生還暦記念論文集発起人編『知的財産法の新しい流れ』(青林書院,2010)115頁以下の存在に気付いた。当該先行研究は、機能的クレーム表現への均等論適用について、本稿と同様の結論だと考える。

更新履歴

2019-05-05 作成
2019-05-06 「先行研究」の項を追加

*1:最二小判平成27年6月5日(平成24(受)1204)および(最二小判平成27年6月5日(平成24(受)2658)。

*2:Phillips v. AWH Corp. (Fed. Cir. 2005) (en banc). なお、本判決では、発明時のの当業者("a person of ordinary skill in the art in question at the time of the invention, i.e., as of the effective filing date of the patent application")と述べている。

*3:Al-Site Corp. v. VSI International, Inc. (Fed. Cir. 1999).

*4:Id. "[T]he literal meaning of a claim is fixed upon its issuance."

*5:最一小判平成10年2月24日(平成6(オ)1083)。

日本特許法制におけるClaim Differentiation

目的

本稿では、米国特許法制におけるDoctrine of Claim Differentiationが、日本特許法制においても許容されるか否かを検討する*1

Doctrine of Claim Differentiationとは何か

Doctrine of Claim Differentiationとは、同一出願中の異なるクレームは全く同一にならないように解釈する、というdoctrine*2である。例えば、「断面が多角形の鉛筆」というクレームの「多角形」が、正多角形のみを指すのか、あるいは、それ以外の多角形も含むのかが争われた際、同一出願中に「断面が正多角形の鉛筆」とのクレームも存在したならば、「多角形」は正多角形以外も含むと解釈される*3。とくに、(被従属クレームを少なくとも文言上は限定した)従属クレームが存在する場合に、被従属クレームを従属クレームよりも広く解釈する理由づけとして用いられることが多い*4*5

Doctrine of Claim Differentiationの根拠は、複数クレーム間の異なる用語はそれらクレームが異なる範囲であることを意味するという常識*6、あるいは、(USPTOは各クレームに対し課金し、またクレームドラフトのために弁護士を出願人は雇うため)全くの同一物を指す2つのクレームを書いて出願人が金を浪費することはないと法が推定している(presume)点*7だと説明されている。

日本特許法36条5項後段

Doctrine of Claim Differentiationの日本法制への適用を考える上で問題となるのは、現行日本特許法*8 36条5項後段の「一の請求項に係る発明と他の請求項に係る発明とが同一である記載となることを妨げない。」との規定である。すなわち、日本特許法は、異なる請求項に係る発明が完全に同一のものになることを想定しており、出願人が異なる請求項には異なる発明を記載するであろうという推定すら許されないのではないか、という点が問題となる。

ここで、この特許法36条5項後段の規定は、いわゆる改善多項制の導入時に設けられたものである*9。立法担当者解説によれば、従前は「必須要件項としては、同一発明とされるもののうちからあるレベルでの発明についてのみ特許請求の範囲に記載することしかできず、その他のレベルの発明については、必須要件項との関係で一定の要件を満たすもの(必須要件項に記載された事項を技術的に限定し具現化したもの)に限り、実施態様項に記載できるにすぎないこととされていた」(強調は引用者による)*10ところ、改正後の特許法36条5項により「出願人が任意に選び出した発明を、各レベルの発明が相互に同一であるか否かを問わず、特許請求の範囲に記載できることとなる」*11

この立法担当者解説から、必須要件項に記載した発明と実施態様に記載した発明とは、「レベル」は異なるが、「同一発明」と認識されていたことが分かる。してみれば、特許法36条5項後段の存在が、Doctrine of Claim Differentiationを否定する根拠とはなり得ない。特許法36条5項後段は、「レベル」は異なる*12が「同一」の発明を複数の請求項に記載しても構わないとの趣旨だと考えるべきであり、また上述のように、Doctrine of Claim Differentiationは、多くの場合、「レベル」の相違する複数のクレームが存在する際に適用されるものだからである。

Doctrine of Claim Differentiationを日本特許法制で許容する根拠

特許法70条1項は、「特許発明の技術的範囲は、願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない。」と規定している。技術的範囲を定めようとする特許発明が書かれた請求項とは、別の請求項の記載も、「願書に添付した特許請求の範囲の記載」であることには変わりがないので、技術的の範囲の確定にあたり、別の請求項の記載を参酌するのは、許容されていると言えるだろう*13*14

さらに、米国においてDoctrine of Claim Differentiationを認める根拠は、日本においても共通している*15

判例

日本の裁判例においても、Doctrine of Claim Differentiationを適用したと見られる裁判例がいくつか見られる。

近時では、東京地判平成25年9月25日(平成22(ワ)17810)が、「本件特許権の請求項2の発明は,「前記フラットワーク物品を延伸するために,前記2つのキャリッジ(8,9)が対をなした状態で互いに離れるように移動される前に,当該キャリッジが前記レール手段(7)の中央に向かって共に移動されることを特徴とする請求項1〔引用者注:「記載」の漏れ〕の装置」(……)というものであり,請求項1の発明(本件発明)を中央展開方式に限定した請求項になっているのであるから,本件発明が,請求項2の中央展開方式に限定されない発明であることは明らかである」と判示している*16

まとめ

以上述べたように、Doctrine of Claim Differentiationは日本特許法制においても許容される余地があり、実際に適用された裁判例も存在する。

もっとも、このdoctrineは米国においても反証可能な推定(rebuttable presumption)に過ぎず、適用が否定(推定が反証)されている事案も多い*17

日本法制においても、Doctrine of Claim Differentiationを強い法理だと考えるべきではないだろう。

更新履歴

2019-05-02 作成

*1:先行研究として、中村彰吾「米国におけるclaim differentiation法理の日本の特許権侵害訴訟での主張の可否」知財管理53巻6号(2003年)889頁以下がある。本稿はこの先行研究の結論に賛成し、その理由づけを補強するものである。

*2:Claim Differentiationの法理と訳されることが多いが、後述するように「法理」というほど強固なものではないので、ここではdoctrineのままとしている。

*3:この例は、木村耕太郎『判例で読む米国特許法〔新版〕』(商事法務,2008)202-203頁から採った。

*4:クレーム解釈方法の一般則を判示した、Phillips v. AWH Corp. (Fed. Cir. 2005) (en banc)でも、この形でDoctrine of Claim Differentiationが用いられた。

*5:したがって、技術的範囲の確定(画定)の場面において特許権者側に有利なdoctrineとして使われることが多いが、日本でいう発明の要旨認定の場面でも用いられることがある。例えば、Knowles Electronics LLC v. Iancu (Fed. Cir. 2018).

*6:https://patentlyo.com/patent/2007/04/claim_different.html

*7:Mark A. Lemley, The Limits of Claim Differentiation, 22 Berkeley Tech. L.J. 1389, 1392 (2007).

*8:平成30年法律33号による改正までを反映したもの。以下、単に「特許法」と述べる際は、この現行法を指す。

*9:1987(昭和62年)改正(1988年1月1日施行)特許法36条5項「前項の規定は、その記載が一の請求項に係る発明と他の請求項に係る発明とが同一である特許請求の範囲の記載となることを妨げない。」この規定は、1990(平成2年)改正で同条6項に移動した後、1994年(平成6年)改正において同条5項後段に移され、現行法に至っている。

*10:新原浩朗編『改正特許法解説』(有斐閣,1987)25頁。

*11:新原浩朗編・前掲25頁。

*12:「レベル」の相違にはカテゴリーの相違も含められよう。

*13:なお、田中孝一「クレーム解釈」『最新裁判実務大系10 知的財産権訴訟I』(青林書院,2018)176頁(注3)は、「問題となる請求項の他の請求項の記載も,クレーム解釈の対象である請求項と,単一性を有し,技術的な関連性を有する関係にあるのであるから,クレーム解釈に用いる資料として,明細書の記載や図面と同じように,特許請求の範囲(クレーム)の解釈資料としての地位が与えられるとしてよいように思われる」と述べるが、発明の単一性を根拠とするのは疑問が残る。単一性要件(特許法37条)違反は特許無効理由ではなく(同法123条1項)、有効な特許であっても、発明の単一性が保証されているとは言えないからである。

*14:もっとも、発明の要旨認定の場面、とくに特許庁における審査の場面においても、Doctrine of Claim Differentiationが許されるとは断定しがたい。新原浩朗編・前掲24-25頁は「審査においては、一の請求項について判断しているときは、他の請求項はあたかも存在しないかのように、換言するとあたかも単項で記載されているかのように考えるというものであり、他の請求項との比較の問題は出てこない」(傍線は原文ママ)と述べている。

*15:「用語は、その有する普通の意味で使用し、かつ、明細書及び特許請求の範囲全体を通じて統一して使用する。」(特許法施行規則24条 様式29条の2〔備考〕9本文)との規定から、特許請求の範囲における異なる用語は異なる意味だと推定されよう。また、請求項数に応じて特許料が変わる点につき、特許法107条1項参照。

*16:控訴審判決 知財高判平成26年12月4日(平成25(ネ)10103)においても、この部分が引用・是認されている。

*17:例えば、Howmedica Osteonics Corp. v. Zimmer, Inc. (Fed. Cir. 2016).

特許法29条1項各号の謎

某企業の研究室を紹介するテレビ番組で、研究者のPCディスプレイに表示されていた、エンジンの設計図(CADデータ)が映り込んだ。映り込んだ設計図は、当業者であればその技術的内容が理解できるものの、それ以外の者にとっては理解が困難であった。
そして、このテレビ番組の放送後、某企業は、エンジンについて特許出願を行なった。

さて、当該特許出願の帰趨は?


どう考えても、新規性要件(29条1項)を充足しないために拒絶されることになりそうである。以下、念のため、29条1項の何号で拒絶されるかを確認しよう。

1号? そう言えば、同号の「公然知られた」には公然知られたという事実を必要とするという見解があった。この見解に立つと、(今回の場合は、単なる一般視聴者ではなく)当業者がテレビ番組を見ていたことを立証する必要があり、困難であろう。そして、この見解に立っても問題がないように、3号に「電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明」が追加されたのであった*1

という訳で、3号を見てみよう。むろん、この設計図は同号の「頒布された刊行物」には当たるまい。でも、「電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明」に当た……らない。立法担当者によれば、同号の「電気通信回線」に一般のテレビ放送は入らないからである*2

それでは、2号で拒絶できるのか。しかし、同号は発明の公然「実施」を必要とするところ、本件のような設計図の公開は実施(2条3項各号)には当たらない。

以上により、この特許出願は新規性要件を充足する……ん?

これではマズい、何でこんな結論が出たんだ?
そうだ、29条1項1号の「公然知られた」を「公然知られたという事実を必要とする」と考えたためだ。「公然知られた」を「公然知られ得る状態にあった」でよいと解釈すれば、こんなおかしな結論にはならない。でも、3号に「電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明」が追加されたのは、「公然知られたという事実を必要とする」説を採っても問題ないように、だったよな。あるいはせめて、3号の「電気通信回線」から放送は除かれる、なんて言わなければ……。

*1:特許庁総務部総務課工業所有権制度改正審議室編『平成11年改正工業所有権法の解説』(発明協会,1999)94頁参照。

*2:特許庁総務部総務課工業所有権制度改正審議室編・前掲93頁、特許庁編『工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第20版〕』(発明推進協会,2017)85頁。

米国知的財産権日記

suziefjpさんのウェブログ「米国知的財産権日記」、
特許権侵害の懈怠(laches)についての連邦最高裁判決である SCA Hygiene Products Aktiebolag v. First Quality Baby Products, LLCの解説が素晴らしい。

iptomodach.exblog.jp

このウェブログは2008年から始まっており、質の高い記事が多いのだけれども、本ウェブログの存在をあまり知られていない気がする(私の気のせいかもしれないが……)。

特許法と行政法との関係(2014年行政不服審査法改正対応版)

(日本における)特許法行政法との関係は、例えば、吉藤幸朔『特許法概説〔第10版〕』(有斐閣,1994)563頁以下や木村耕太郎弁護士のウェブログにまとめられているが、2014年行政不服審査法改正前のものなので、改正後のものを整理してみた*1。主な情報ソースは総務省の行政不服審査法改正に関する資料である。


特許庁長官,審査官,審判官といった行政庁のなした処分および不作為については、行政不服審査法4条の定める所定の行政庁への「審査請求」*2という形で不服申立てができる(行政不服審査法2条および3条)。

ただし、特許法では、「査定、取消決定若しくは審決及び特許異議申立書、審判若しくは再審の請求書若しくは第120条の5第2項若しくは第134条の2第1項の訂正の請求書の却下の決定並びにこの法律の規定により不服を申し立てることができないこととされている処分又はこれらの不作為については、行政不服審査法の規定による審査請求をすることができない。」(特許法195条の4)と例外を設けている。


また、処分の取消しを求める場合、上述の審査請求をしてもよいが、裁判所へ取消訴訟を提起してもよい(行政事件訴訟法8条1項本文;自由選択主義)。ただし、「法律に当該処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ処分の取消しの訴えを提起することができない旨の定めがあるときは、この限りでな」く(行政事件訴訟法8条1項ただし書き)、訴訟提起前の不服申立てを必要とする(不服申立前置)。

かつては多数の個別法で不服申立前置主義を採っていたが、2014年行政不服審査法改正に伴い、これらの多くで不服申立前置の廃止または縮小されることとなった(行政不服審査法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律)。

特許法においても、「この法律又はこの法律に基づく命令の規定による処分(第195条の4に規定する処分を除く。)の取消しの訴えは、当該処分についての異議申立て又は審査請求に対する決定又は裁決を経た後でなければ、提起することができない。」と規定する184条の2は削除された(行政不服審査法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律227条)。

もっとも、特許法は依然として、「拒絶査定」については、拒絶査定不服審判を経なければ(審決を受けなければ)、裁判所へ取消訴訟を提起できない(特許法121条1項および178条6項*3)。すなわち、「拒絶査定」については、不服申立前置が存置されている。この理由は、審判に「一審代替性」があり(審決に対する不服は[地裁ではなく]高裁に訴訟提起する;特許法178条1項)、国民の手続負担の軽減が図られているからだとされている。

*1:もっとも、筆者は、行政法については、特許法以上に初学者であるため、誤りが含まれている恐れがある。誤りを見つけた方は、是非コメント欄でご指摘いただきたい。

*2:不服申立ての方法として、従来は「審査請求」と「異議申立て」とが併存していたが、2014年行政不服審査法改正により「審査請求」に一元化された。

*3:木村弁護士は「特許法は、「拒絶査定」に対して審判を請求できるとは書いている(121条)が、いきなり取消訴訟を提起してはいけないという規定の仕方にはなっていない。なぜなのか、よくわからない。」と書かれているが、おそらく178条6項に由来するものだろう。