特許法の八衢

2022-01-01から1年間の記事一覧

共有特許権の損害賠償額の算定について示された事案 ― 知財高判令和4年3月14日(平成30年(ネ)第10034号)

1 はじめに 知財高判令和4年3月14日(平成30年(ネ)第10034号)[ソレノイド]1は、特許権の二者の共有者のうち一者(原告=控訴人)のみが、被告=被控訴人の行為が特許権侵害に当たると主張し、102条1項から3項2に基づく額の損害賠償を求めた事案3である。…

競業者の取引先に対する特許権侵害警告が信用毀損行為に当たると判断された事案 ― 東京地判令和4年10月28日(令和3年(ワ)第22940号)

はじめに 本判決(東京地判令和4年10月28日[令和3年(ワ)第22940号])は、競業者の取引先に対する特許権侵害の告知・侵害警告につき、不正競争防止法2条1項21号(信用毀損行為)の該当性が認められた事案である。とくにその判断枠組みが目を惹いたため、備…

特許権の「共同侵害」 ― 国際知財司法シンポジウム2022 模擬裁判への雑感

はじめに 『国際知財司法シンポジウム2022』裁判所パート(2022年10月27日開催)では、模擬裁判が行なわれ、「判決要旨」も示された。 しょせん“模擬”裁判であり、「お遊び」に過ぎないのかも知れない。しかし、本イベントは、最高裁および知財高裁も主催者…

102条2項と3項との重畳適用を認めた事案 ― 知財高大判令和4年10月20日(令和2年(ネ)第10024号)

はじめに 2022年10月20日に、新たな知財高裁大合議事件の判決言渡しがなされた。裁判所ウェブページには、いまだ本判決(知財高大判令和4年10月20日[令和2年(ネ)第10024号])が掲載されていない。もっとも、「判決要旨」は知財高裁ウェブページに掲載され…

知財高判令和4年8月8日(平成31年(ネ)第10007号)における特許法102条1項の判示についての雑感

はじめに 先の記事で、知財高判令和4年8月8日(平成31年(ネ)第10007号)(以下、本判決)の興味深い判示部分を摘示した。ここでは、そのうち特許法102条1項に関する判示について、私の雑感を記す。 特許法102条1項2号の性質 本判決は、「改正後の特許法10…

多機能型間接侵害および間接侵害への特許法102条の適用について判示した事案 ― 知財高判令和4年8月8日(平成31年(ネ)第10007号)

はじめに 本判決(知財高判令和4年8月8日[平成31年(ネ)第10007号])は、多機能型間接侵害(特許法101条2号)および特許法102条について、興味深い判示をしているため、備忘録として本稿を記す。 「記す」と言っても、「事件の経緯」以下、項名以外は、全て…

NTP事件CAFC判決、及びそれを引用する2つのCAFC判決の紹介 ― ドワンゴ v. FC2事件控訴審(令和4年(ネ)第10046号)第三者意見募集に関連して

はじめに 本ウェブログの以前の記事で言及した東京地判令和4年3月24日(令和元年(ワ)第25152号)の控訴審である、令和4年(ネ)第10046号事件について、2022年9月30日に特許法105条の2の11に基づく第三者意見募集1が開始された2。 意見募集事項は、以下のもの…

特許権の「共同侵害」が認められた事案 ― 知財高判令和4年7月20日(平成30年(ネ)第10077号)

本件知財高判令和4年7月20日(平成30年(ネ)第10077号)は、別稿で記した点のほか、2者の被疑侵害者=被告ら=被控訴人らがおり、(両被控訴人の関係は以下に見るとおり特殊なものであるが)特許権の「共同侵害」が認められた点でも興味深いと思われるので、…

国境を跨ぐ「配信」が特許権侵害に当たると判断された事案 ― 知財高判令和4年7月20日(平成30年(ネ)第10077号)

はじめに 標記事件の判決(の一部のみ)を読む幸運に恵まれ、また本判決書は第三者も閲覧可能となっているようなので、本裁判例についての雑感を以下に記す。 もっとも、本判決書は裁判所ウェブページでは本稿執筆時点(2022年9月23日)では未だ公開されてい…

ReissueのRecapture ruleについて判断された事案 ― In re McDonald (Fed. Cir. 2022)

はじめに 米国特許法制において特徴的な制度の一つが、Reissue(米国特許法(35 U.S.C.)1 251条)である。日本における訂正審判制度(日本特許法126条)と同様、特許登録後にクレーム等を訂正できるものであるが、Reissueは、クレーム減縮のみならず、クレー…

特許法における「輸入」

はじめに 特許法2条3項1号は「実施」の一態様として、「輸入」を規定している。この「輸入」の解釈につき、一般的には、「日本国の領域外たる外国から貨物を本邦に引き取る行為,すなわち日本国内に貨物を搬入する行為」*1等とされている。さて、外国に居る…

国境を跨ぐ実施相当行為が特許権侵害に当たらないと判断された事案 ― 東京地判令和4年3月24日(令和元年(ワ)第25152号)

はじめに 東京地判令和4年3月24日(令和元年(ワ)第25152号)*1は、特許権者である原告(株式会社ドワンゴ)が、「FC2動画」(被告サービス1)に係るシステム(被告システム1)などは特許発明の技術的範囲に属し、被告ら(FC2, INC.および株式会社ホーム…

Means-Plus-Functionについての覚書

はじめに 米国特許法は、クレーム要素(claim element)につき、物理的な構造等を特定せず、その要素の機能のみによって特定することを認めている一方で、当該クレーム要素については、明細書に開示された、対応する構造等およびその均等物として解釈される、…