特許法の八衢

特許権の「共同侵害」が認められた事案 ― 知財高判令和4年7月20日(平成30年(ネ)第10077号)

本件知財高判令和4年7月20日(平成30年(ネ)第10077号)は、別稿で記した点のほか、2者の被疑侵害者=被告ら=被控訴人らがおり、(両被控訴人の関係は以下に見るとおり特殊なものであるが)特許権の「共同侵害」が認められた点でも興味深いと思われるので、以下、この点を中心に判示事項を見ていく。

判示事項1

両被控訴人の関係

被控訴人FC2は、Aにより、平成11年7月20日、米国ネバダ州法に基づいて設立された。Aは、設立以来現在に至るまで、被控訴人FC2の実質的な代表者の地位にある。……Aの実弟であるBは、Aの助言を受け、平成14年1月21日、被控訴人FC2の日本における業務代行拠点として、被控訴人HPSを設立し(設立当時の商号・有限会社ホームページシステム(平成20年1月25日商号変更))、その代表取締役に就任した。

……被控訴人HPSは、被控訴人FC2の日本における拠点ないし一部門として設立され、被控訴人FC2からFC2サービスに係る業務を全面的に委託され、対外的には被控訴人FC2を名乗りながらこれを遂行する一方、被控訴人FC2は、被控訴人HPSの従業員を介してFC2サービスに係る業務を管理・運営し、被控訴人HPSの経営及び業務、FC2サービスの運営等に係る意思決定権限を有していたといえ、そのような体制の中で、被控訴人HPSは、被控訴人らプログラム1の開発、被控訴人ら各サービスの運営等に従事してきたのであるから、被控訴人らは、互いに意思を通じ合い、相互の行為を利用し、共同して被控訴人らプログラム1を開発し、被控訴人ら各サービスを運営するなどしてきたものと認めるのが相当である。そうすると、被控訴人らは、民法719条1項により、控訴人に対し、被控訴人らの後記不法行為について、これらにより控訴人に生じた損害を連帯して賠償する責任を負うというべきである。

被控訴人ら各プログラムの電気通信回線を通じた提供

……本件配信は、その一部に日本国の領域外で行われる部分があるとしても、これを実質的かつ全体的に考察すれば、日本国の領域内で行われたものと評価するのが相当である。……以上によれば、本件配信は、日本国特許法2条3項1号にいう「提供」に該当する。なお、これは、以下に検討する被控訴人らのその余の不法行為(形式的にはその一部が日本国の領域外で行われるもの)についても当てはまるものである。

……被控訴人らは、本件配信をすることにより、被控訴人ら各プログラムの提供をしているといえる(特許法2条3項1号)。

被控訴人ら各プログラムの提供の申出

被控訴人らは、被控訴人ら各サービス(……)の提供のため、ウェブサイトを設けて多数の動画コンテンツのサムネイル又はリンクを表示しているところ(……)、これは、「提供の申出」に該当する(特許法2条3項1号)。

被控訴人ら各装置の生産

……被控訴人ら各サービス、被控訴人ら各プログラム及び被控訴人ら各装置の内容並びに弁論の全趣旨に照らすと、被控訴人ら各プログラムは、被控訴人ら各装置の生産にのみ用いられる物であると認めるのが相当であり、また、被控訴人らが業として本件配信を行っていることは明らかであるから、被控訴人らによる本件配信は、特許法101条1号により、本件特許権1を侵害するものとみなされる。

被控訴人ら各プログラムの生産(開発)

……被控訴人HPSは、被控訴人FC2と共同して、被控訴人らプログラム1を開発したものと認められるところ、これが被控訴人らプログラム1の生産に当たることは明らかである(特許法2条3項1号)。

被控訴人ら各プログラムの譲渡及び譲渡の申出(被控訴人HPSによる被控訴人ら各プログラムの納品)

……被控訴人HPSは、被控訴人らプログラム1を開発し、これを被控訴人FC2に納品したものと認められるが、……被控訴人らが互いに意思を通じ合い、相互の行為を利用し、共同して被控訴人らプログラム1を開発し、被控訴人ら各サービスを運営するなどしてきたものと認められることに照らすと、被控訴人HPSが被控訴人FC2に対して被控訴人らプログラム1を納品する行為は、共同侵害者間の内部行為であると評価することができるから、これを独立した実施行為とみるのは相当でない。

不法行為についての小括

以上によると、被控訴人らには、被控訴人らプログラム1の生産並びに被控訴人ら各プログラムの提供及び提供の申出を行うことによる本件特許権1の直接侵害と被控訴人ら各プログラムの提供を行うことによる本件特許権1の間接侵害が成立し、被控訴人らは、これらの侵害行為によって控訴人に生じた損害を連帯して賠償する責任を負うというべきである。

差止請求及び抹消請求

……被控訴人らは、被控訴人らサービス1に関し、本件特許権1を侵害する者に該当する。……そうすると、被控訴人らサービス1については、被控訴人らに対し、被控訴人らプログラム1の生産、譲渡等及び譲渡等の申出の差止め並びに被控訴人らプログラム1の抹消を命じるのが相当である。

雑感

まず、(共同侵害と直接の関係はないが)「ウェブサイトを設けて多数の動画コンテンツのサムネイル又はリンクを表示している」という行為を、「譲渡等の申出」に該当すると認めた理由について、判決は何も述べていないので、知財高裁が当該行為を(「配信」と同様)「その一部に日本国の領域外で行われる部分があるとしても、これを実質的かつ全体的に考察すれば、日本国の領域内で行われたものと評価」したのか否か、不明である。

他方、「プログラムの生産(開発)」について、日本特許権の侵害(「生産」)であると知財高裁が認めたのは、プログラムの開発行為は、日本に存するHPSが行なった2ものだからであろう。

上記判示で特に目を惹くのは、「被控訴人HPSが被控訴人FC2に対して被控訴人らプログラム1を納品する行為は、共同侵害者間の内部行為であると評価することができるから、これを独立した実施行為とみるのは相当でない。」と判示した部分だろう。あえて「独立した実施行為」とみない理由はあるのだろうか。

加えて、共同不法行為による損害賠償請求のみならず、差止め請求をも認めた点も、注目すべきように思われる。

更新履歴

  • 2022-09-28 公開

  1. 強調は引用者による。また一部の項名も引用者による。

  2. それゆえに、HPSからFC2へのプログラムの納品が特許権侵害に当たるか否かも争点となっている。