特許法の八衢

2024-01-01から1年間の記事一覧

優先権主張を伴う「実施例補充型」出願について国内優先権の有効性が判断された事案 ― 知財高判令和6年3月26日(令和5年(行ケ)第10057号)

1. はじめに 知財高判令和6年3月26日(令和5年(行ケ)第10057号)は、国内優先権の主張を伴う「実施例補充型」の特許出願について、国内優先権の有効性が問題となった事案である。本件で対象となった特許出願(本件出願)は、2つの日本出願(優先権出願1[20…

続続・先使用権についての一考

井関涼子「≪先行公開版≫先使用権の緩やかな認定?―特許権の緩慢な死?」別冊パテント30号(2024年03月29日公開)は、次のように述べる(強調は引用者による)。 先使用発明が特許発明の一部であって、先使用権がその一部にしか及ばない例としては、例えば、…

続・先使用権についての一考

はじめに 先使用権について述べた、先の記事を補足するため、次の3つのケースにおいて、「A成分, B成分, C成分 及び D成分 を含む塗料であって、D成分の含有量が0.01~0.05質量%である、塗料。」という特許発明に係る特許権Xを、《A成分, B成分, C成分 及び…

先使用権についての一考

はじめに 想特一三『そーとく日記』2023年09月07日記事によれば、2023年3月3日に開かれた、弁理士会第20回公開フォーラム『先使用権 -主要論点 大激論』のパネルディスカッションにおいて、次の設例について、議論されたという。 「A成分, B成分, C成分 及…

製法発明につき、104条を適用して、製法を特定しない物に差止めを認めた事案 ― 知財高判令和5年12月27日(令和4年(ネ)第10055号)

はじめに 本件判決 知財高判令和5年12月27日(令和4年(ネ)第10055号)は、構成要件充足性判断や102条2項の損害額算定に関する判示にも興味深い点があるが、本稿では、別の点について述べたい。 以下、「雑感」の項を除き、判決の引用である*1。 なお、本件の…

「printed publication」該当性について判断された事案 ― Weber v. Provisur Technologies (Fed. Cir. 2024)

はじめに 本稿の目的は、実務において重要と思われる、最近のCAFC判決 Weber, Inc. v. Provisur Technologies, Inc. (Fed. Cir. Feb. 8, 2024)*1の紹介である。 本件では、旧特許法(Pre-AIA 35 USC)102条の「printed publication」に該当するか否かが、争点…

AIを「壁打ち」に用いる時代の進歩性判断

はじめに 生成系AIの普及により、創作の場面で、AIを「壁打ち」に用いるのは、一般的になった*1。 そこで、AIとの「壁打ち」の結果生まれた(生まれうる)発明(発明それ自体がAIに関係するものか否かは問わない)に対する進歩性判断*2について、雑感を記す*…

Bruce Schneier『ハッキング思考』

セキュリティの専門家であるブルース・シュナイアー(Bruce Schneier)の最新著書の邦訳(翻訳:高橋聡)、『ハッキング思考 強者はいかにしてルールを歪めるのか、それを正すにはどうしたらいいのか』(2023,日経BP)*1を読んだ。 「ハッキング」という書名…