特許法の八衢

2024-01-01から1年間の記事一覧

システムクレームについて、サービス顧客による「使用」を認める一方、サービス提供者の代位責任を否定したCAFC判決 ― CloudofChange v. NCR (Fed. Cir. 2024)

1. はじめに 本件は、米国において、システムクレームに関する分割侵害(divided infringement)が問題となり、CAFC判決に至った事案である。本判決では、分割侵害に関わる種々の先例が参照され、各先例の位置づけが明確化される*1等、重要性の高いものだと思…

特許法104条に関する判断が傍論として示された事案 ― 東京地判令和6年9月26日(令和5年(ワ)第70178号)

1 はじめに 本判決(東京地判令和6年9月26日 令和5年(ワ)第70178号)は、医薬品の製法に係る特許発明について、その特許権侵害が争われた事案である。裁判所は構成要件充足性を認めなかったが、「念のため」特許法104条による推定が認められるか否かも判断し…

特許権者に特許発明実施能力がなくても102条2項の適用が認められた事案 ― 知財高判令和6年7月4日(令和5年(ネ)第10053号)

はじめに 本件判決 知財高判令和6年7月4日(令和5年(ネ)第10053号)は、金融商品取引に関する発明*1の特許権について、その侵害による損害額が大きな争点となった事案である。特許権者(1審原告;株式会社マネースクエアHD)は、外国為替取引業、外国為替…

中山信弘「特許法における過失の推定」(2024)への疑問

本稿の目的 中山信弘「特許法における過失の推定」ジュリスト1600号(2024)110頁以下(以下、中山論文)は、特許法103条「他人の特許権又は専用実施権を侵害した者は、その侵害の行為について過失があつたものと推定する。」の現行の解釈について、問題提起…

人体を用いた「生産」

本稿の目的 2024年6月24日、知財高裁は、令和5年(ネ)第10040号事件につき、特許法105条の2の11第2項に基づく、第三者意見募集を開始した。本稿は、その意見募集事項のうち「意見募集事項 (3)ウ」(後掲)について、検討を行うものである。 知財高裁による「…

パラメータ発明について先使用権の成立を緩やかに認めた事案 ― 知財高判令和6年4月25日(令和3年(ネ)第10086号) ―

1. はじめに 本判決 知財高判令和6年4月25日(令和3年(ネ)第10086号)は、様々な争点があるが、最も重要なのは、先使用権の成否についての判示である。このことは、知財高裁ウェブページで掲載されている本判決の要旨*1からも窺える。原判決である大阪地判令…

事件番号には裁判所名を付記すべし

法律文書には、裁判例が引用されることが多い。そして、引用の際、裁判所名・判決等の年月日・掲載判例集の頁を用いるのが一般的である。しかし、同じ裁判所で同じ年月日に複数の判決が言い渡される場合があること・判例集へのアクセス性(そもそも判例集に…

優先権主張を伴う「実施例補充型」出願について国内優先権の有効性が判断された事案 ― 知財高判令和6年3月26日(令和5年(行ケ)第10057号)

1. はじめに 知財高判令和6年3月26日(令和5年(行ケ)第10057号)は、国内優先権の主張を伴う「実施例補充型」の特許出願について、国内優先権の有効性が問題となった事案である。本件で対象となった特許出願(本件出願)は、2つの日本出願(優先権出願1[20…

続続・先使用権についての一考

井関涼子「≪先行公開版≫先使用権の緩やかな認定?―特許権の緩慢な死?」別冊パテント30号(2024年03月29日公開)は、次のように述べる(強調は引用者による)。 先使用発明が特許発明の一部であって、先使用権がその一部にしか及ばない例としては、例えば、…

続・先使用権についての一考

はじめに 先使用権について述べた、先の記事を補足するため、次の3つのケースにおいて、「A成分, B成分, C成分 及び D成分 を含む塗料であって、D成分の含有量が0.01~0.05質量%である、塗料。」という特許発明に係る特許権Xを、《A成分, B成分, C成分 及び…

先使用権についての一考

はじめに 想特一三『そーとく日記』2023年09月07日記事によれば、2023年3月3日に開かれた、弁理士会第20回公開フォーラム『先使用権 -主要論点 大激論』のパネルディスカッションにおいて、次の設例について、議論されたという。 「A成分, B成分, C成分 及…

製法発明につき、104条を適用して、製法を特定しない物に差止めを認めた事案 ― 知財高判令和5年12月27日(令和4年(ネ)第10055号)

はじめに 本件判決 知財高判令和5年12月27日(令和4年(ネ)第10055号)は、構成要件充足性判断や102条2項の損害額算定に関する判示にも興味深い点があるが、本稿では、別の点について述べたい。 以下、「雑感」の項を除き、判決の引用である*1。 なお、本件の…

「printed publication」該当性について判断された事案 ― Weber v. Provisur Technologies (Fed. Cir. 2024)

はじめに 本稿の目的は、実務において重要と思われる、最近のCAFC判決 Weber, Inc. v. Provisur Technologies, Inc. (Fed. Cir. Feb. 8, 2024)*1の紹介である。 本件では、旧特許法(Pre-AIA 35 USC)102条の「printed publication」に該当するか否かが、争点…

AIを「壁打ち」に用いる時代の進歩性判断

はじめに 生成系AIの普及により、創作の場面で、AIを「壁打ち」に用いるのは、一般的になった*1。 そこで、AIとの「壁打ち」の結果生まれた(生まれうる)発明(発明それ自体がAIに関係するものか否かは問わない)に対する進歩性判断*2について、雑感を記す*…

Bruce Schneier『ハッキング思考』

セキュリティの専門家であるブルース・シュナイアー(Bruce Schneier)の最新著書の邦訳(翻訳:高橋聡)、『ハッキング思考 強者はいかにしてルールを歪めるのか、それを正すにはどうしたらいいのか』(2023,日経BP)*1を読んだ。 「ハッキング」という書名…