特許法の八衢

2021-01-01から1年間の記事一覧

自由技術の抗弁の現代的意義

はじめに 自由技術の抗弁は、侵害訴訟裁判所が特許無効を判断できないとされていた時代において、特許権侵害成否について妥当な結論を導くために提唱されたものであり*1、いわゆる特許無効の抗弁(特許法104条の3)が法定された現在、「ほぼ役割を終えた」*2…

特許裁判例を読む―インクタンク事件を素材に(1)

はじめに 本稿は、(特許法初学者である)私が普段、特許裁判例*1をどのように読んでいるかを、ただただ述べたものである(これが正しい読み方だというつもりは毛頭ない)。素材としては、インクタンク事件判決(東京地判平成16年12月8日(平成16年(ワ)第855…

特許権者による差止請求および損害賠償請求が権利濫用に当たり許されないとされた東京地判令和2年7月22日について

2021-03-21 はじめに 本件東京地判令和2年7月22日(平成29年(ワ)第40337号)〔情報記憶装置〕は、被告の行為が特許権侵害である場合においても、特許権者である原告の差止請求および損害賠償請求が権利濫用(民法1条3項)に当たり許されないと判断された、極…

部分意匠に係る意匠権侵害を認めた東京地判令和2年11月30日について

はじめに 東京地判令和2年11月30日(平成30年(ワ)第26166号)は、意匠権――意匠に係る物品が「組立家屋」である部分意匠――を有する原告が、被告による建物の製造等が意匠権侵害に当たるとして、当該行為の差止めおよび損害賠償を求めた事案である。裁判所は、…

独立要件説 v. 二次的考慮説 ― 議論の実益

田村善之「「進歩性」(非容易推考性)要件の意義:顕著な効果の取扱い」パテント69巻5号(別冊15号)(2016)5頁以下には、進歩性判断において独立要件説を採るか、二次的考慮説を採るかにより、結論が異なる(可能性のある)3つの場面が示されている。これらに…

効果の『非予測性』および『顕著性』

はじめに 最高裁判決 最三小判令和元年8月27日集民262号51頁(平成30年(行ヒ)第69号)には、次の判示がある。「原審は,結局のところ,本件各発明の効果,取り分けその程度が,予測できない顕著なものであるかについて,優先日当時本件各発明の構成が奏する…

初学者から見た『標準 特許法』

2023-12-16追記 本稿は、『標準 特許法』第7版に対するものであるが、第8版*1では、本稿で指摘した事項の多くが修正されていることを確認した。2023-12-16追記ここまで。 はじめに 本書 高林龍『標準 特許法〔第7版〕』(有斐閣,2020)は、2002年の初版刊行…