特許法の八衢

日本

方法の発明の102条1項適用について ― 令和5年不競法改正を踏まえて ―

特許法102条1項 特許法102条1項は、次のものである。特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為を組成した物を譲渡し…

Dedication法理と文言解釈

マキサカルシトール事件最判=最二判平成29年3月24日(平成28年(受)第1242号)民集71巻3号359頁は、 《明細書に記載しながら、クレームには記載していない事項は、公衆へ提供(Dedication to the Public)されているため、当該事項を権利範囲に含むという主張…

訂正要件の判断に誤りがあるとして審決を取り消した事案 ― 知財高判令和5年10月5日(令和4年(行ケ)第10126号)

判決概要 X(原告)の特許権について、Y(被告)が特許無効審判を請求した。審判においてXは訂正請求を行なったが、特許庁は、この訂正請求を認めず、さらに(訂正前の)本件発明1および2はサポート要件を満たさないと判断して、特許無効審決をなした。そ…

「除くクレーム」への訂正について判断された事案 ― 知財高判令和5年10月5日(令和4年(行ケ)第10125号)

はじめに 本判決(知財高判令和5年10月5日(令和4年(行ケ)第10125号))*1は、「除くクレーム」への訂正を認めなかった審決を、知財高裁が取り消したという事案である。その判示内容には、知財高大判平成20年5月30日(平成18年(行ケ)第10563号)[ソルダーレ…

サポート要件と「課題」との関係 ― 知財高判令和5年10月5日(令和4年(ネ)第10094号)

本件の概要 本件(知財高判令和5年10月5日(令和4年(ネ)第10094号))は、特許権者である原告=控訴人が、被告=被控訴人の行為は本件発明にかかる特許権の侵害に当たるとして、被告製品の販売等差止および廃棄を求めた事案である。原判決(東京地判令和4年8…

化学物質特許の保護範囲についての雑感 ― 東京地判令和5年7月28日(令和4年(ワ)第9716号)に接して ―

1 はじめに 本件 東京地判令和5年7月28日(令和4年(ワ)第9716号)は、特許権者である原告が、被告による被告製品の製造等は特許権侵害に当たると主張し、被告の行為の差止め等を求めた事案であり、結論として、裁判所は原告の請求を認めたものである。判決を…

国境を跨ぐ行為が「生産」に当たると判断された事案 ― 知財高大判令和5年5月26日(令和4年(ネ)第10046号)

1 はじめに 知財高大判令和5年5月26日(令和4年(ネ)第10046号)につき、判決要旨のみが裁判所ウェブページに掲載された時点で記事を書いたが、今般、判決全文が掲載されたため、あらためて記事を記す。判決文の一部を枠で囲んで引用し(強調は引用者による)…

国境を跨ぐ行為が「生産」に当たると判断された事案の「判決要旨」 ― 知財高大判令和5年5月26日(令和4年(ネ)第10046号)

はじめに 知財高大判令和5年5月26日(令和4年(ネ)第10046号)[コメント配信システム]につき、判決言渡日当日、知財高裁ウェブページにおいて「判決要旨」が掲載された一方、判決文については現時点(2023年5月28日)では掲載されていない。【2023-07-02追…

ソフトウエア関連発明の発明該当性に関する審査基準等について

はじめに 「特許・実用新案審査基準」(以下、単に「審査基準」)および「特許・実用新案審査ハンドブック」(以下、単に「審査ハンドブック」)は、法規範ではない1とは言え、特許審査における影響力を考えると、実務者にとってはこれらを理解することが重…

用途発明に関する特許権について差止請求が認容された事案 ― 東京地判令和5年2月28日(令和2(ワ)19221)

1 はじめに 本件(東京地判令和5年2月28日[令和2(ワ)19221])は、特許権者である原告が、被告の行為が特許法101条2号規定の間接侵害に当たるとして、差止めを求めた1事案である。 東京地裁は、原告の請求を一部認容2した。しかしそれは過剰差止めのように…

共有特許権の損害賠償額の算定について示された事案 ― 知財高判令和4年3月14日(平成30年(ネ)第10034号)

1 はじめに 知財高判令和4年3月14日(平成30年(ネ)第10034号)[ソレノイド]1は、特許権の二者の共有者のうち一者(原告=控訴人)のみが、被告=被控訴人の行為が特許権侵害に当たると主張し、102条1項から3項2に基づく額の損害賠償を求めた事案3である。…

競業者の取引先に対する特許権侵害警告が信用毀損行為に当たると判断された事案 ― 東京地判令和4年10月28日(令和3年(ワ)第22940号)

はじめに 本判決(東京地判令和4年10月28日[令和3年(ワ)第22940号])は、競業者の取引先に対する特許権侵害の告知・侵害警告につき、不正競争防止法2条1項21号(信用毀損行為)の該当性が認められた事案である。とくにその判断枠組みが目を惹いたため、備…

特許権の「共同侵害」 ― 国際知財司法シンポジウム2022 模擬裁判への雑感

はじめに 『国際知財司法シンポジウム2022』裁判所パート(2022年10月27日開催)では、模擬裁判が行なわれ、「判決要旨」も示された。 しょせん“模擬”裁判であり、「お遊び」に過ぎないのかも知れない。しかし、本イベントは、最高裁および知財高裁も主催者…

NTP事件CAFC判決、及びそれを引用する2つのCAFC判決の紹介 ― ドワンゴ v. FC2事件控訴審(令和4年(ネ)第10046号)第三者意見募集に関連して

はじめに 本ウェブログの以前の記事で言及した東京地判令和4年3月24日(令和元年(ワ)第25152号)の控訴審である、令和4年(ネ)第10046号事件について、2022年9月30日に特許法105条の2の11に基づく第三者意見募集1が開始された2。 意見募集事項は、以下のもの…

特許権の「共同侵害」が認められた事案 ― 知財高判令和4年7月20日(平成30年(ネ)第10077号)

本件知財高判令和4年7月20日(平成30年(ネ)第10077号)は、別稿で記した点のほか、2者の被疑侵害者=被告ら=被控訴人らがおり、(両被控訴人の関係は以下に見るとおり特殊なものであるが)特許権の「共同侵害」が認められた点でも興味深いと思われるので、…

国境を跨ぐ「配信」が特許権侵害に当たると判断された事案 ― 知財高判令和4年7月20日(平成30年(ネ)第10077号)

はじめに 標記事件の判決(の一部のみ)を読む幸運に恵まれ、また本判決書は第三者も閲覧可能となっているようなので、本裁判例についての雑感を以下に記す。 もっとも、本判決書は裁判所ウェブページでは本稿執筆時点(2022年9月23日)では未だ公開されてい…

特許法における「輸入」

はじめに 特許法2条3項1号は「実施」の一態様として、「輸入」を規定している。この「輸入」の解釈につき、一般的には、「日本国の領域外たる外国から貨物を本邦に引き取る行為,すなわち日本国内に貨物を搬入する行為」*1等とされている。さて、外国に居る…

国境を跨ぐ実施相当行為が特許権侵害に当たらないと判断された事案 ― 東京地判令和4年3月24日(令和元年(ワ)第25152号)

はじめに 東京地判令和4年3月24日(令和元年(ワ)第25152号)*1は、特許権者である原告(株式会社ドワンゴ)が、「FC2動画」(被告サービス1)に係るシステム(被告システム1)などは特許発明の技術的範囲に属し、被告ら(FC2, INC.および株式会社ホーム…

自由技術の抗弁の現代的意義

はじめに 自由技術の抗弁は、侵害訴訟裁判所が特許無効を判断できないとされていた時代において、特許権侵害成否について妥当な結論を導くために提唱されたものであり*1、いわゆる特許無効の抗弁(特許法104条の3)が法定された現在、「ほぼ役割を終えた」*2…

特許裁判例を読む―インクタンク事件を素材に(1)

はじめに 本稿は、(特許法初学者である)私が普段、特許裁判例*1をどのように読んでいるかを、ただただ述べたものである(これが正しい読み方だというつもりは毛頭ない)。素材としては、インクタンク事件判決(東京地判平成16年12月8日(平成16年(ワ)第855…

特許権者による差止請求および損害賠償請求が権利濫用に当たり許されないとされた東京地判令和2年7月22日について

2021-03-21 はじめに 本件東京地判令和2年7月22日(平成29年(ワ)第40337号)〔情報記憶装置〕は、被告の行為が特許権侵害である場合においても、特許権者である原告の差止請求および損害賠償請求が権利濫用(民法1条3項)に当たり許されないと判断された、極…

部分意匠に係る意匠権侵害を認めた東京地判令和2年11月30日について

はじめに 東京地判令和2年11月30日(平成30年(ワ)第26166号)は、意匠権――意匠に係る物品が「組立家屋」である部分意匠――を有する原告が、被告による建物の製造等が意匠権侵害に当たるとして、当該行為の差止めおよび損害賠償を求めた事案である。裁判所は、…

独立要件説 v. 二次的考慮説 ― 議論の実益

田村善之「「進歩性」(非容易推考性)要件の意義:顕著な効果の取扱い」パテント69巻5号(別冊15号)(2016)5頁以下には、進歩性判断において独立要件説を採るか、二次的考慮説を採るかにより、結論が異なる(可能性のある)3つの場面が示されている。これらに…

効果の『非予測性』および『顕著性』

はじめに 最高裁判決 最三小判令和元年8月27日集民262号51頁(平成30年(行ヒ)第69号)には、次の判示がある。「原審は,結局のところ,本件各発明の効果,取り分けその程度が,予測できない顕著なものであるかについて,優先日当時本件各発明の構成が奏する…

発明の予測できない顕著な効果の有無の判断において、「顕著性」に加え「非予測性」を検討する意義

発明の予測できない顕著な効果について判断した、最高裁判決最三小判令和元年8月27日集民262号51頁(平成30年(行ヒ)第69号)には、次の判示がある。「原審は,結局のところ,本件各発明の効果,取り分けその程度が,予測できない顕著なものであるかについて…

続・カプコン v. コーエーテクモゲームス事件控訴審判決

はじめに 以前のブログ記事において、私が特許法101条4号による間接侵害成立を認めたことを批判的に述べた知財高判令和元年9月11日(平成30年(ネ)第10006号等)(以下、本判決)について、興味深い評釈が公刊された。朱子音「ゲームのシステムに関する特許発…

知財高判令和2年5月27日(平成30年(ネ)第10016号) ― 特許発明が侵害品の一部分のみに過ぎない場合において102条2項の推定覆滅を認めた事案

はじめに 知財高判令和2年5月27日(平成30年(ネ)第10016号)は、特許権者[原審原告;訴訟承継前控訴人]からその権利義務を包括承継した控訴人(以下、訴訟承継前控訴人と控訴人とを区別せず「控訴人」と表記する)が、被控訴人[原審被告]による本件噴霧…

『知的財産法の挑戦II』

はじめに 同志社大学知的財産法研究会10周年記念論文集『知的財産法の挑戦II』(弘文堂)が発刊された。各知財法分野について興味深い論文が納められた論文集*1であるが、ここでは「第II部 特許法」の各論文についてのみ簡単な紹介を行なう(論文の解釈に誤…

物の発明および方法の発明についての記すまでもない話

「発明は本質的に方法という性質を有している」*1。たとえば、次の【装置クレーム】は、【方法クレーム】を実現する上での「道具」を規定しているに過ぎない。【装置クレーム】 アイコンの機能説明を表示させる機能を実行させる第1のアイコン、および所定の…

Eli Lilly v. Teva Parenteral Medicines (Fed. Cir. 2017)と日本法制とに関する覚書

Eli Lilly v. Teva Parenteral Medicines (Fed. Cir. 2017) はじめに 本件Eli Lilly and Co. v. Teva Parenteral Medicines, Inc., 845 F.3d 1357 (Fed. Cir. 2017)は、先発医薬品企業である特許権者=原告Eli Lilly and Co.が、後発医薬品企業=被告Teva Pare…