特許法の八衢

国境を跨ぐ行為が「生産」に当たると判断された事案の「判決要旨」 ― 知財高大判令和5年5月26日(令和4年(ネ)第10046号)

はじめに

知財高大判令和5年5月26日(令和4年(ネ)第10046号)[コメント配信システム]につき、判決言渡日当日、知財高裁ウェブページにおいて「判決要旨」が掲載された一方、判決文については現時点(2023年5月28日)では掲載されていない。

【2023-07-02追記】判決全文が裁判所ウェブページに掲載されたため、新たな記事を記した。

本判決について多数の報道がなされてはいるが、「判決要旨」を読むと多くの疑問が沸く。(いずれ掲載されるであろう)判決文を見れば解決する疑問もあるだろうし、そもそも便宜的に用意された「判決要旨」を細かく分析することに意味はないかも知れないが、私個人の備忘録として、これら疑問を記すのが本稿の目的である。

判決要旨を見ていく前に、本件で侵害が認められた特許権に係る発明(の1つ)である「本件発明1」のクレームを確認しておく*1

  • 1A サーバと、これとネットワークを介して接続された複数の端末装置と、を備えるコメント配信システムであって、
  • 1B 前記サーバは、前記サーバから送信された動画を視聴中のユーザから付与された前記動画に対する第1コメント及び第2コメントを受信し、
  • 1C 前記端末装置に、前記動画と、コメント情報とを送信し、
  • 1D 前記コメント情報は、前記第1コメント及び前記第2コメントと、前記第1コメント及び前記第2コメントのそれぞれが付与された時点に対応する、前記動画の最初を基準とした動画の経過時間を表す動画再生時間であるコメント付与時間と、を含み、
  • 1E 前記動画及び前記コメント情報に基づいて、前記動画と、前記コメント付与時間に対応する動画再生時間において、前記動画の少なくとも一部と重なって、水平方向に移動する前記第1コメント及び前記第2コメントと、を前記端末装置の表示装置に表示させる手段と、
  • 1F 前記第2コメントを前記1の動画上に表示させる際の表示位置が、前記第1コメントの表示位置と重なるか否かを判定する判定部と、
  • 1G 重なると判定された場合に、前記第1コメントと前記第2コメントとが重ならない位置に表示されるよう調整する表示位置制御部と、を備えるコメント配信システムにおいて、
  • 1H 前記サーバが、前記動画と、前記コメント情報とを前記端末装置に送信することにより、前記端末装置の表示装置には、前記動画と、前記コメント付与時間に対応する動画再生時間において、前記動画の少なくとも一部と重なって、水平方向に移動する前記第1コメント及び前記第2コメントと、が前記第1コメントと前記第2コメントとが重ならないように表示される、
  • 1I コメント配信システム。

この後すぐ見るように、知財高裁はこの発明を「インターネット等のネットワークを介して、サーバと端末が接続され、全体としてまとまった機能を発揮するシステム(ネットワーク型システム)」と述べている。

以下、「判決要旨」の内容を枠で囲んで引用する(強調は引用者による)とともに、それに対する私の疑問等を述べる。

発明の技術的範囲に属する物を新たに作り出す行為

本件発明1は、サーバとネットワークを介して接続された複数の端末装置を備えるコメント配信システムの発明であり、発明の種類は、物の発明であるところ、その実施行為としての物の「生産」(特許法2条3項1号)とは、発明の技術的範囲に属する物を新たに作り出す行為をいうものと解される。

そして、本件発明1のように、インターネット等のネットワークを介して、サーバと端末が接続され、全体としてまとまった機能を発揮するシステム(ネットワーク型システム)の発明における「生産」とは、単独では当該発明の全ての構成要件を充足しない複数の要素が、ネットワークを介して接続することによって互いに有機的な関係を持ち、全体として当該発明の全ての構成要件を充足する機能を有するようになることによって、当該システムを新たに作り出す行為をいうものと解される。

被告サービス1のFLASH版*2においては、ユーザが、国内のユーザ端末のブラウザにおいて、所望の動画を表示させるための被告サービス1のウェブページを指定すると、被控訴人Y1のウェブサーバが上記ウェブページのHTMLファイル及びSWFファイルをユーザ端末に送信し、ユーザ端末が受信した、これらのファイルはブラウザのキャッシュに保存され、その後、ユーザが、ユーザ端末において、ブラウザ上に表示されたウェブページにおける当該動画の再生ボタンを押すと、上記SWFファイルに格納された命令に従い、ブラウザが、被控訴人Y1の動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバに対しリクエストを行い、上記リクエストに応じて、上記各サーバが、それぞれ動画ファイル及びコメントファイルをユーザ端末に送信し、ユーザ端末が、上記各ファイルを受信することにより、ブラウザにおいて動画上にコメントをオーバーレイ表示させることが可能となる。このように、ユーザ端末が上記各ファイルを受信した時点において、被控訴人Y1の上記各サーバとユーザ端末はインターネットを利用したネットワークを介して接続されており、ユーザ端末のブラウザにおいて動画上にコメントをオーバーレイ表示させることが可能となるから、ユーザ端末が上記各ファイルを受信した時点で、本件発明1の全ての構成要件を充足する機能を備えた被告システム1が新たに作り出されたものということができる(以下、被告システム1を新たに作り出す上記行為を「本件生産1の1」という。)。

知財高裁は、まず特許法2条3項1号の「生産」について、「発明の技術的範囲に属する物を新たに作り出す行為」と解釈した上で、「ネットワーク型システム」の発明における「生産」とは、「単独では当該発明の全ての構成要件を充足しない複数の要素が、ネットワークを介して接続することによって互いに有機的な関係を持ち、全体として当該発明の全ての構成要件を充足する機能を有するようになることによって、当該システムを新たに作り出す行為」だと述べる。

そして、被疑侵害システム(「被告システム1」)においては、ユーザ端末が動画ファイル及びコメントファイル(「各ファイル」)を受信した時点をもって、《被告システム1を新たに作り出す行為》がなされた(システムが完成した)旨を説いている。なお、ここではまだ、この行為が特許法上の「生産」に当たるとは判断していない。

上記引用部分で私が理解できなかったのは、《被告システム1を新たに作り出す行為》(「本件生産1の1」)の起点である。上記を素直に読むと、「ユーザが、国内のユーザ端末のブラウザにおいて、所望の動画を表示させるための被告サービス1のウェブページを指定する」行為、すなわちユーザの行為が起点となっている(「本件生産1の1」はユーザの行為から始まる)と知財高裁は考えているように読めるが、この読み方で正しいのだろうか。

属地主義との関係

特許権についての属地主義の原則とは、各国の特許権が、その成立、移転、効力等につき当該国の法律によって定められ、特許権の効力が当該国の領域内においてのみ認められることを意味するものであるところ、我が国の特許法においても、上記原則が妥当するものと解される。

本件生産1の1において、各ファイルが米国に存在するサーバから国内のユーザ端末へ送信され、ユーザ端末がこれらを受信することは、米国と我が国にまたがって行われるものであり、また、新たに作り出される被告システム1は、米国と我が国にわたって存在するものである。そこで、属地主義の原則から、本件生産1の1が、我が国の特許法2条3項1号の「生産」に該当するか否かが問題となる。

特許権についての属地主義の原則」が「各国の特許権が、その成立、移転、効力等につき当該国の法律によって定められ、特許権の効力が当該国の領域内においてのみ認められることを意味するもの」との解釈は、BBS事件最判*3およびカードリーダー事件最判*4と同様のものである。

ネットワーク型システムの発明における「実施」

ネットワーク型システムにおいて、サーバが日本国外(国外)に設置されることは、現在、一般的に行われており、また、サーバがどの国に存在するかは、ネットワーク型システムの利用に当たって障害とならないことからすれば、被疑侵害物件であるネットワーク型システムを構成するサーバが国外に存在していたとしても、当該システムを構成する端末が日本国内(国内)に存在すれば、これを用いて当該システムを国内で利用することは可能であり、その利用は、特許権者が当該発明を国内で実施して得ることができる経済的利益に影響を及ぼし得るものである。

そうすると、ネットワーク型システムの発明について、属地主義の原則を厳格に解釈し、当該システムを構成する要素の一部であるサーバが国外に存在することを理由に、一律に我が国の特許法2条3項の「実施」に該当しないと解することは、サーバを国外に設置さえすれば特許を容易に回避し得ることとなり、当該システムの発明に係る特許権について十分な保護を図ることができないこととなって、妥当ではない。

他方で、当該システムを構成する要素の一部である端末が国内に存在することを理由に、一律に特許法2条3項の「実施」に該当すると解することは、当該特許権の過剰な保護となり、経済活動に支障を生じる事態となり得るものであって、これも妥当ではない。

「ネットワーク型システムを構成するサーバが国外に存在していたとしても、当該システムを構成する端末が日本国内(国内)に存在すれば、これを用いて当該システムを国内で利用することは可能であり、その利用は、特許権者が当該発明を国内で実施して得ることができる経済的利益に影響を及ぼし得るものである。」という部分からは、本判決の射程を、被疑侵害システムサーバが国外に存在する場合、あるいは、(前記場合とイコールなのかも知れないが)被疑侵害システムを国内で「利用」することが可能な場合に絞っているようにも読める。もっとも、「利用」とは具体的にどのような行為であるのか判然としない。(本事案とは逆に)《サーバは国内に存在する一方、端末は国外に存在する》場合は、被疑侵害システムが国内で「利用」できるとは言えず、射程外なのだろうか。また、「サーバ」と「端末」という主従関係が明確ではないシステムもあろうが、そのようなシステムはどのように判断されるのだろうか。

次いで、「属地主義の原則を厳格に解釈し、当該システムを構成する要素の一部であるサーバが国外に存在することを理由に、一律に我が国の特許法2条3項の「実施」に該当しないと解することは、サーバを国外に設置さえすれば特許を容易に回避し得ることとなり、当該システムの発明に係る特許権について十分な保護を図ることができない」と、「生産」ではなく「実施」と一般化しているのは、「生産」以外にも「属地主義の原則を厳格に解釈」すると「特許権について十分な保護を図ることができない」場合があることを示唆しているのだろう(もっとも、以降の判決要旨では「生産」についての言及しかない)。

上記引用最後の「当該システムを構成する要素の一部である端末が国内に存在することを理由に、一律に特許法2条3項の「実施」に該当すると解することは、当該特許権の過剰な保護となり、経済活動に支障を生じる事態となり得るものであって、これも妥当ではない。」という部分は、「特許権の過剰な保護」と「経済活動に支障を生じる事態となり得る」との関係が不分明なように思われる(過剰な保護だから経済活動に支障を生じるのか、経済活動に支障を生じるから過剰な保護だと言えるのか、前者だとすると「過剰な保護」であるとどのような基準をもって判断したのか)。

特許権者が当該発明を国内で実施して得ることができる経済的利益」についての疑問は、後述する。

ネットワーク型システムの発明における「生産」該当性判断

これらを踏まえると、ネットワーク型システムの発明に係る特許権を適切に保護する観点から、ネットワーク型システムを新たに作り出す行為が、特許法2条3項1号の「生産」に該当するか否かについては、当該システムを構成する要素の一部であるサーバが国外に存在する場合であっても、当該行為の具体的態様、当該システムを構成する各要素のうち国内に存在するものが当該発明において果たす機能・役割、当該システムの利用によって当該発明の効果が得られる場所、その利用が当該発明の特許権者の経済的利益に与える影響等を総合考慮し、当該行為が我が国の領域内で行われたものとみることができるときは、特許法2条3項1号の「生産」に該当すると解するのが相当である。

「システムを構成する要素の一部であるサーバが国外に存在する場合であっても」、「総合考慮」により「ネットワーク型システムを新たに作り出す行為」が「我が国の領域内で行われたものとみることができるときは」、特許法上の「生産」に該当し得ると述べている。

「当該システムを構成する要素の一部であるサーバが国外に存在する場合であっても」という記述は、この判断枠組みの射程(適用範囲)を限定するものか、それとも単なる例示か、ここでも判然としない。

考慮要素として、(1)「当該行為の具体的態様」,(2)「当該システムを構成する各要素のうち国内に存在するものが当該発明において果たす機能・役割」,(3)「当該システムの利用によって当該発明の効果が得られる場所」,(4)「その利用が当該発明の特許権者の経済的利益に与える影響」の4要素を挙げているが、これらの要素がどのような理由により導かれたのかは述べられていない。

また、「を総合考慮」との説示から、上記4要素以外も考慮可能なことが示されている。

原判決(東京地判令和4年3月24日[令和元年(ワ)第25152号])では、「被告FC2が本件特許権の侵害の責任を回避するために動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバを日本国外に設置し、実質的には日本国内から管理していたといった、結論として著しく妥当性を欠くとの評価を基礎付けるような事情は認められない」と、「結論として著しく妥当性を欠くとの評価を基礎付けるような事情」があれば侵害判断に影響を与えることを示唆するような判示があった。このような「事情」は、知財高裁判決が今回示した総合考慮の枠組みでも考慮されうるのだろうか。

考慮要素(1) ― 当該行為の具体的態様

本件生産1の1の具体的態様は、米国に存在するサーバから国内のユーザ端末に各ファイルが送信され、国内のユーザ端末がこれらを受信することによって行われるものであって、当該送信及び受信(送受信)は一体として行われ、国内のユーザ端末が各ファイルを受信することによって被告システム1が完成することからすれば、上記送受信は国内で行われたものと観念することができる。

まず、「具体的態様」が何を意味するのか不明である。上記「米国に存在するサーバから国内のユーザ端末に各ファイルが送信され、国内のユーザ端末がこれらを受信することによって行われるもの」とは、「具体的」と言うよりはむしろ、行為(本件生産1の1)の一部のみを採り上げ、さらにそれを抽象化したもののように感じる。

ついで、「行為の具体的態様」について、どのような考慮が求められるのかも分からない。「行為の具体的態様」が「国内で行われたものと観念することができる」か否かを判断するということなのか。

「国内で行われたものと観念することができる」か否かの判断方法についても疑問がある。「国内のユーザ端末が各ファイルを受信することによって被告システム1が完成することからすれば」と述べていることからすると、行為の(起点ではなく)終点となる場所が国内であることが「国内で行われたものと観念することができる」ためには必要(あるいは重要)なのだろうか。

そもそも、ある行為を「国内で行われたものと観念することができる」ならば、もはや、それ以外の要素は考慮せず、その行為は(日本国内における)「実施」と認めても良いように思われる。すなわち、この「国内で行われたものと観念することができる」と、(総合考慮の判断結果である)上記「我が国の領域内で行われたものとみることができる」との違いが、私には理解できない。

考慮要素(2) ― 当該システムを構成する各要素のうち国内に存在するものが当該発明において果たす機能・役割

次に、被告システム1は、米国に存在する被控訴人Y1のサーバと国内に存在するユーザ端末とから構成されるものであるところ、国内に存在する上記ユーザ端末は、本件発明1の主要な機能である動画上に表示されるコメント同士が重ならない位置に表示されるようにするために必要とされる構成要件1Fの判定部の機能と構成要件1Gの表示位置制御部の機能を果たしている。

特許発明の「主要な機能」とはどのように判断するものなのか、均等論の「本質的部分」や101条2号の「その発明による課題の解決に不可欠なもの」に関連するものなのか否か、上記のみでは分からない。

考慮要素(3) ― 当該システムの利用によって当該発明の効果が得られる場所

さらに、被告システム1は、上記ユーザ端末を介して国内から利用することができるものであって、コメントを利用したコミュニケーションにおける娯楽性の向上という本件発明1の効果は国内で発現しており、

上記の通り、システムの「利用」とはどのような行為かは判然としない(特許法上の「使用」とは区別されるのであろう)が、特許発明の効果の発現地を考慮する点は、多くの学説も述べているものであり、これを考慮要素としたことは妥当であると考える。

考慮要素(4) ― その利用が当該発明の特許権者の経済的利益に与える影響

また、その国内における利用は、控訴人が本件発明1に係るシステムを国内で利用して得る経済的利益に影響を及ぼし得るものである。

「控訴人が本件発明1に係るシステムを国内で利用して得る経済的利益」という記載からすると、特許権者が特許発明を実施している必要がある(実施していると被疑侵害者の行為が「生産」と認められやすくなる)のだろうか。そうであるならば、特許権者の行為に応じて、特許権侵害の成否が変わる(ことがあり得る)という不可解な判断枠組みとなるように思われる。

この要素が特許権者の行為とは無関係だとすれば、先の「当該システムを構成する端末が日本国内(国内)に存在すれば、これを用いて当該システムを国内で利用することは可能であり、その利用は、特許権者が当該発明を国内で実施して得ることができる経済的利益に影響を及ぼし得るものである。」との記述からして、本考慮要素は、端末が国内に存在しさえすれば、「生産」該当性に肯定的に考慮される程度の、ほとんど意義を持たないものなのだろうか。

あるいは、(サーバのみならず)端末も国外にある場合にあっても(さらには、被疑侵害システムが国内で利用できなくても)なお、「生産」に該当する余地を残すために、この要素が存在するのであろうか。そうであるならば、本考慮要素は大きな意味を持つ可能性がある。

総合考慮の結果

以上の事情を総合考慮すると、本件生産1の1は、我が国の領域内で行われたものとみることができるから、本件発明1との関係で、特許法2条3項1号の「生産」に該当するものと認められる。

本事案では4要素全てについて「生産」該当に肯定的な判断がなされたので、「生産」該当との判断は当然なのであろうが、その結果、4要素間に軽重があるのか否かは一切不明である。

例えば、国外のサーバに特許発明の「主要な機能」が存在する(考慮要素2は生産該当に否定的)ものの、発明の効果は国内で発現している(考慮要素3は生産該当に肯定的)という場合は、どちらの要素が重視されるのだろうか。

「生産」の主体

被告システム1は、前記イ[引用者注:上記「被告サービス1のFLASH版においては、」から「(以下、被告システム1を新たに作り出す上記行為を「本件生産1の1」という。)。」までの部分]のプロセスを経て新たに作り出されたものであるところ、被控訴人Y1が、被告システム1に係るウェブサーバ、動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバを設置及び管理しており、これらのサーバが、HTMLファイル及びSWFファイル、動画ファイル並びにコメントファイルをユーザ端末に送信し、ユーザ端末による各ファイルの受信は、ユーザによる別途の操作を介することなく、被控訴人Y1がサーバにアップロードしたプログラムの記述に従い、自動的に行われるものであることからすれば、被告システム1を「生産」した主体は、被控訴人Y1であるというべきである。

被告システム1を新たに作り出す行為(「本件生産1の1」)=「生産」=直接侵害行為の主体を、規範的に捉え、ユーザではなく、被控訴人Y1(FC2)であることを述べている。この主体判断については、国境を跨ぐ行為でなくとも(国内で完結する行為であっても)適用可能なものと思われる。

先に、被告システム1を新たに作り出す行為(最終的に「生産」に判断するとされた行為)の起点はどこからか(ユーザの行為が起点であるのか)、という疑問を提示したが、ここでもその点は明らかではない。

知財高裁は、「HTMLファイル及びSWFファイル、動画ファイル並びにコメントファイル」という(「発明の全ての構成要件を充足する機能を有する」ために必要となる)プログラムに相当する情報の、端末への「インストール」(類似)行為*5を、(ユーザではなく)サーバが行なっていると考えており*6、だからこそ、「生産」行為の起点に関わらず、そのサーバを「設置及び管理」している者(=「インストール」を行なうよう仕向けた者)が、「生産」の主体だと判断したのかも知れない。

なお、仮にユーザを「生産」行為の主体と捉えた場合は、サーバが間接侵害品(101条1号の「のみ品」あるいは101条2号の不可欠品)と言えるとしても、海外にあるサーバの《生産》を日本法の間接侵害行為に問えるのかという更なる問題に直面することになりかねない*7

ところで、知財高判令和4年7月20日(平成30年(ネ)第10077号)[表示装置]では、「表示装置」クレームについては、「被控訴人ら各プログラムは、ユーザが被控訴人ら各サービスのウェブサイトにアクセスすることにより、ユーザの端末装置にインストールされるものである(……)。そうすると、被控訴人らによる本件配信及びユーザによる上記インストールにより、被控訴人ら各装置(……)が生産されるものと認められる。……被控訴人ら各プログラムは、被控訴人ら各装置の生産にのみ用いられる物であると認めるのが相当であり、また、被控訴人らが業として本件配信を行っていることは明らかであるから、被控訴人らによる本件配信は、特許法101条1号により、本件特許権1を侵害するものとみなされる。」として、直接侵害ではなく間接侵害が認められた*8。明示されていないが、当該判決では、「表示装置」の「生産」主体はユーザと捉えていると考えられる*9。しかし、本知財高裁大合議判決と同様の基準を採るならば、「表示装置」クレームの「生産」の主体は、被控訴人(ら)となるであろう。

その他の雑感

本件において、特許権者は、被告各ファイルの日本国内に存在するユーザ端末への配信の差止め、被告各サーバ用プログラムの抹消及び被告各サーバの除却を求めていたが、「動画ファイル及びコメントファイルを配信することの差止め」のみ認められ、「被告各サーバ用プログラムの抹消及び被告各サーバの除却」は認められなかった。また、10億円の損害賠償を請求していたが、認容された額は1000万円強に止まる。さらに、被控訴人Y2(HPS)に対する請求は全て棄却されている。

他方、両当事者も被疑侵害サービスも本件と同じ、知財高判令和4年7月20日(平成30年(ネ)第10077号)[表示装置]では、差止めの他、プログラム(ただしサーバ用ではなくサーバから端末に配信されるプログラム)の抹消も認められ、1億円の損害賠償請求は全額認容、加えて、HPSの責任(FC2とHPSとの「共同侵害」)も認められている。

たしかに両訴訟の対象特許権の発明内容は異なるが、動画とともに表示されるコメントに関する発明であることは共通する。結論に大きな違いが出るほどの相違はどこにあるのだろうか。

更新履歴

  • 2023-05-28 公開
  • 2023-06-04 「「生産」の主体」の項について追記・修正。
  • 2023-07-02 判決全文の裁判所ウェブページ掲載に伴う追記。

*1:「1A」等の符号は原判決において付記されていたものだが、判決要旨を見る限り、本判決(控訴審判決)でも同じ符号を用いているようである。

*2:引用者注:他に「HTML5版」が存在する。

*3:最三小判平成9年7月1日(平成7年(オ)第1988号)民集第51巻6号2299頁。

*4:最一小判平成14年9月26日(平成12年(受)第580号)民集第56巻7号1551頁。

*5:知財高大判平成17年9月30日(平成17年(ネ)第10040号)ではソフトウェアの「インストール」が「情報処理装置」クレームの「生産」に当たると判示されている(ただし、同事案ではインストール(生産)の主体はユーザである)。

*6:「ユーザによる別途の操作を介することなく」とは、ユーザは「インストール」を行なっていないことを意味するのであろう。

*7:あるいは、国内にある端末を間接侵害品として問うことも可能かも知れないが、この場合は、端末を生産しているのもユーザで、被告が送信している各ファイルは間接侵害品をつくるためのものという、いわゆる間接の間接(再間接)の問題が生じるおそれがある。

*8:プログラムクレームについては、「生産」等の直接侵害を認めている。

*9:小池眞一「判批」AIPPI68巻3号(2023)215頁参照。