特許法の八衢

2020-01-01から1年間の記事一覧

発明の予測できない顕著な効果の有無の判断において、「顕著性」に加え「非予測性」を検討する意義

発明の予測できない顕著な効果について判断した、最高裁判決最三小判令和元年8月27日集民262号51頁(平成30年(行ヒ)第69号)には、次の判示がある。「原審は,結局のところ,本件各発明の効果,取り分けその程度が,予測できない顕著なものであるかについて…

続・カプコン v. コーエーテクモゲームス事件控訴審判決

はじめに 以前のブログ記事において、私が特許法101条4号による間接侵害成立を認めたことを批判的に述べた知財高判令和元年9月11日(平成30年(ネ)第10006号等)(以下、本判決)について、興味深い評釈が公刊された。朱子音「ゲームのシステムに関する特許発…

American Axle & Manufacturing v. Neapco Holdings ― 米国における特許適格性について

はじめに 米国CAFCにおいて、ついに機械系の発明についても特許適格性が否定されたとして話題となった事案*1について、ごく最近新たな動きがあり、興味をそそられたため、以下に記す。 英語および米国法制に対する私の理解不足により、誤りがある可能性があ…

知財高判令和2年5月27日(平成30年(ネ)第10016号) ― 特許発明が侵害品の一部分のみに過ぎない場合において102条2項の推定覆滅を認めた事案

はじめに 知財高判令和2年5月27日(平成30年(ネ)第10016号)は、特許権者[原審原告;訴訟承継前控訴人]からその権利義務を包括承継した控訴人(以下、訴訟承継前控訴人と控訴人とを区別せず「控訴人」と表記する)が、被控訴人[原審被告]による本件噴霧…

特許発明が侵害品の一部分のみに過ぎない場合における102条2項に基づく賠償額算定

はじめに 令和元年特許法改正により、102条2項による損害賠償額の推定について覆滅が認められたとしても、その填補が認められる場合があると考えられている(詳細は後述)。それでは、特許発明が侵害品の一部分のみに過ぎないことが理由により推定覆滅が認め…

『知的財産法の挑戦II』

はじめに 同志社大学知的財産法研究会10周年記念論文集『知的財産法の挑戦II』(弘文堂)が発刊された。各知財法分野について興味深い論文が納められた論文集*1であるが、ここでは「第II部 特許法」の各論文についてのみ簡単な紹介を行なう(論文の解釈に誤…

Ginsburg判事と国際消尽

はじめに 2020年9月18日、Ruth Bader Ginsburg連邦最高裁判事が亡くなった。彼女はその反対意見が注目されることも多かったが、知的財産法関係でも「国際消尽」について2度、反対意見を述べている。 Kirtsaeng事件 1度目の反対意見は、著作権の国際消尽を認…

最二小判令和2年9月7日[平成31年(受)第619号]を読む前に

はじめに 明日令和2(2020)年9月7日、特許権侵害に関する新たな最高裁判決が言い渡される予定である*1。そこで、本件事案および第一審および第二審の判決内容を概観してみた。 事案の概要 当事者関係図Y(被告・被控訴人)は、樹脂フィルムの製造機械装置等に関…

物の発明および方法の発明についての記すまでもない話

「発明は本質的に方法という性質を有している」*1。たとえば、次の【装置クレーム】は、【方法クレーム】を実現する上での「道具」を規定しているに過ぎない。【装置クレーム】 アイコンの機能説明を表示させる機能を実行させる第1のアイコン、および所定の…

Bio-Rad Laboratories, Inc. v. 10x Genomics Inc. (Fed. Cir. 2020) ― 差止請求権の制限が認められた事案 ―

はじめに 米国においては、特許権侵害が認められても、当然に差止請求が認容されるわけではない。eBay事件連邦最高裁判決*1において示されたように、終局的差止め(permanent injunction)が認められるためには、(特許権侵害以外の場合と同様)equityの原則に…

Eli Lilly v. Teva Parenteral Medicines (Fed. Cir. 2017)と日本法制とに関する覚書

Eli Lilly v. Teva Parenteral Medicines (Fed. Cir. 2017) はじめに 本件Eli Lilly and Co. v. Teva Parenteral Medicines, Inc., 845 F.3d 1357 (Fed. Cir. 2017)は、先発医薬品企業である特許権者=原告Eli Lilly and Co.が、後発医薬品企業=被告Teva Pare…

Eli Lilly v. Teva Parenteral Medicines (Fed. Cir. 2017)と日本法制とに関する覚書

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法学文書における「据わり」の意義

法学文書において「据わり」という表現が用いられることがある。例えば、以下のものである(強調は引用者;以下同)。「知的創作や努力のためのインセンティブ確保」を正当化理由の一類型として掲げる書物は少ない。その原因のひとつは、日本の独禁法に21条…

特許法102条1項2号括弧書きについての覚書

はじめに 特許庁総務部総務課制度審議室編『令和元年特許法等の一部改正 産業財産権法の解説』(発明推進協会,2020)発行*1を機に、令和元年改正*2で現れた特許法102条1項2号括弧書きについて整理してみたい。その前に条文を確認しよう。本改正前の特許法10…

多機能品型間接侵害規定はいかにして生まれたか ― 平成14年特許法改正について

はじめに 「特許法等の一部を改正する法律案(平成14法律24)に関する法律案審議録に含まれる行政文書のうち、特許庁から内閣法制局に提出されたもの。」について、私が開示請求を行ない入手した文書のうち、間接侵害規定および実施の定義の見直し(「プログ…

続続・最高裁は効果の独立要件説を採ったのか?

最三小判令和元年8月27日集民262号51頁(平成30年(行ヒ)第69号)は民集に登載されないため、いわゆる調査官解説は出ないものと考えていたところ、Law & Technology 87号に、大寄麻代最高裁調査官による本判決の「解説」(以下、本調査官解説)が掲載された*1…

知財高大判令和2年2月28日(平成31年(ネ)第10003号)[美容器]に関する雑感

はじめに 知財高大判令和2年2月28日(平成31年(ネ)第10003号)は、知財高裁が示した判決要旨からも特許法102条1項の判示部分が最重要であることが理解できる。本判決で示された、102条1項に基づく損害額の計算式・証明責任等の判断枠組みは、下図のようにな…

意匠法における間接侵害規定の拡充についての疑問

はじめに 令和元年改正*1により、意匠法にもいわゆる多機能品型間接侵害規定が導入され、例えば38条2号は以下のものとなった*2:登録意匠又はこれに類似する意匠に係る物品の製造に用いる物品又はプログラム等若しくはプログラム等記録媒体等(これらが日本…

田村善之『知財の理論』に対する雑感

田村善之『知財の理論』(有斐閣,2019)は、次の10編の既発表論文(および「あとがき」)が収められた論文集である*1。著者の膨大な著作のなかから、著者の思想・方法論を知る上で重要な論文が選ばれたのであろう。第1章 知的財産法総論 1 知的財産法政策学…