特許法の八衢

American Axle & Manufacturing v. Neapco Holdings ― 米国における特許適格性について

はじめに

米国CAFCにおいて、ついに機械系の発明についても特許適格性が否定されたとして話題となった事案*1について、ごく最近新たな動きがあり、興味をそそられたため、以下に記す。
英語および米国法制に対する私の理解不足により、誤りがある可能性があるので、ご注意いただきたい。

背景

2015年12月18日、特許権者であるAmerican Axle & Manufacturing, Inc.は、Neapco Holdings LLCおよびNeapco Drivelines LLCが特許権を侵害しているとしてデラウエア州連邦裁判所へ訴訟を提起した。当該特許権*2は、自動車のプロペラシャフトの製造方法に関するものである。

地裁は、本件の対象クレームはすべて、特許適格性がないというSummary Judgmentを下したため、原告はこれを不服として、CAFCへ控訴した。

2019年10月3日、CAFCのパネル(Dyk, Moore, Taranto)は、本件の対象全クレームは自然法則(フックの法則)の利用に向けられている(directed to)等として特許適格性を認めず、地裁判断を是認する判決を下した(Dyk判事の執筆;Moore判事の反対意見あり)*3

これに対し、原告=控訴人は、大法廷(en banc)による再審理(rehearing)およびパネルによる再審理を申立てた。大法廷による再審理申立については、CAFCの12名の常勤判事(active judge)の判断が6対6に割れ*4認められなかった*5が、パネルによる再審理申立は認められ*6、2020年7月31日、同じパネル(Dyk, Moore, Taranto)による修正された判決が下された(修正前判決と同様、Dyk判事の執筆;Moore判事の反対意見あり)*7

この修正されたパネル判決では、Claim 22等については(修正前判決と同様)自然法則の利用に向けられているとして特許適格性を認めなかった一方、Claim 1およびその従属クレームについては、特定の自然法則に向けられているとは言えない;被告=被控訴人は自然法則と抽象的アイデア(abstract idea)との両観点から特許適格性がないことを主張しているが、地裁の審理では、抽象的アイデアの観点については適切に扱われていないため、Claim 1および従属クレームについては地裁へ差戻す、とされた。

これを受け、原告=控訴人は、裁量上告を行なう意思があり、連邦最高裁はこれを受理しCAFC判決を覆す可能性が高いこと等を理由として、stay the mandate pending the filing of a petition for a writ of certiorari in the Supreme Courtを申立てた*8

2020年10月23日、CAFCのパネルは、これを認めない決定(order)を下した(Dyk判事執筆)*9。これに対して、(これまでパネルの多数意見に対して反対してきた)Moore判事は、同意意見(concurring opinion)を寄せた。以下、同意意見のうち興味深い点を抜粋して(さらに逐語訳ではなく適宜省略等して)記す。

Moore判事の同意意見の抜粋

米国唯一の特許裁判所(patent court)として、我々は、101条を統一的に(uniformly)適用する方法について途方に暮れている。CAFCの12名の常勤判事全員が、診断方法の特許適格性の判断ガイダンスを求め、Athena事件について最高裁に裁量上告を受理するよう要請した。特に101条については、我々12名が同意見となることはほとんどない。(しかし)我々は、ガイダンスを求めることに全員一致した。

本件は、Alice事件やMayo事件の子孫(progeny)ではなく、101条の例外(judicial exception)に対する我々自身による劇的な拡張である。我々は例外の解釈を一貫性をもって101条に適用するよう苦闘してきたが、しだいにパネル依存の判断となり、予測可能性をもって米国企業が投資することができなくなっていった。我々の混乱は、当裁判所の全判事らに、最高裁に対して(判断基準の)明確化を要求することを促している。裁判所間の判断の分断(circuit split)が上告受理に値するのであれば、唯一の特許裁判所内における分断も同様である。本件は、我々の判断が分断していることを示す典型例である。……。我々は制定法文から大きく外れてしまった。……。裁量上告が受理される可能性が合理的にありうることを原告が示した、と私は考える。

本件クレームは、Alice事件・Bilski事件のようなビジネス方法に関するものでも、Mayo事件・Ariosa事件・Athena事件のような診断方法に関するものでもない。……。多数意見は、制定法全体を飲み込む(swallow the whole of the statute)ようなやり方で、特許適格性の例外を拡張した。……。このように制定法を否定して広大で曖昧な例外を認めることは、我々CAFC判事が法的原則(legal principles)のみならず科学それ自体の応用を新たに(de novo)判断することとなり許されない。原告は最高裁が本判決を覆す可能性が相当程度あることを示した。

本裁判所が、先例を無視したり、事実問題(factual issues)に支配権を及ぼして我々の権限(mandate)から外れたりしたときに、最高裁は、しばしば我々の過ちを正してきた。我々はまたこの過ちを犯そうとしている。我々は、法律問題(matter of law)として、クレームされた発明の結果(claimed result)が自然法則以上のものではない、と述べた。……。これは控訴審判事の役割ではない。我々が地裁の事実認定の役割を奪い、我々が制定法に反して自動車部品の製造方法について自然法則の例外を広げたことに対して、最高裁は我々の判断を覆す可能性が相当程度あることを、原告は示した。

(ただし)原告は(地裁への差戻しにより)かなりの出費や潜在的に重複したプロセスに直面するかも知れないが、それは回復不可能な損害(irreparable harm)ではない。そのため、私は、多数意見の決定に同意する。しかし、地裁に訴訟手続きを停止する権限(the power to stay proceedings)があることを述べておかなければならない。

更新履歴

  • 2020-10-25 公開
  • 2021-05-26 誤記修正

*1:日本語による解説として、さしあたり、https://www.jetro.go.jp/world/ipnews/us/2020/9770bf0645483f4a.html参照。

*2:U.S. Patent No. 7,774,911. 他の特許権も訴訟の対象となっていたが、控訴審の対象となっていないため、本稿では言及しない。

*3:http://www.cafc.uscourts.gov/sites/default/files/opinions-orders/18-1763.Opinion.10-3-2019.pdf

*4:Moore判事は、再審理請求を認める意見に参加(join)している。

*5:http://www.cafc.uscourts.gov/sites/default/files/opinions-orders/18-1763.ORDER.7-31-2020_1628780.pdf

*6:http://www.cafc.uscourts.gov/sites/default/files/opinions-orders/18-1763.ORDER.7-31-2020_1628771.pdf

*7:http://www.cafc.uscourts.gov/sites/default/files/opinions-orders/18-1763.OPINION.7-31-2020_1628791.pdf

*8:詳細は省くが、地裁への差戻しを防ぐ(延期される)ことを企図してのものである。

*9:http://www.cafc.uscourts.gov/sites/default/files/opinions-orders/18-1763.ORDER.10-23-2020_1674428.pdf