特許法の八衢

多機能品型間接侵害規定はいかにして生まれたか ― 平成14年特許法改正について

はじめに

特許法等の一部を改正する法律案(平成14法律24)に関する法律案審議録に含まれる行政文書のうち、特許庁から内閣法制局に提出されたもの。」について、私が開示請求を行ない入手した文書のうち、間接侵害規定および実施の定義の見直し(「プログラム等」の取り扱い含む)に関する内容を、整理してみた。

とくにその解釈が問題となりやすい(にも拘わらず、令和元年改正により意匠法にも似た規定が導入された)現行101条2号,5号の規定(いわゆる多機能品型間接侵害規定)がどのように生まれたかを知ることは、何らかの意味があるように思われる。

以下では引用符を記していないが、節名および「田中コメント」の部分を除いては、おおむね当該文書からの引用と思っていただいて構わない*1

なお、入手した文書は、大部にも拘わらず目次も存在せず、OCR処理もされていないもの*2であったため、情報抽出に非常に手間取った。その結果、本稿は誤りを含んでいる可能性がある。誤りに気づかれたかた*3は、コメント欄等でご連絡いただければ有り難い。

平成13年8月30日 「部長への中間説明①」と題された文書

実施の定義の見直し

改正の必要性

民法において「物」とは「有体物」と定義されている(民法第85条)。したがって、民法の特別法である特許法において、プログラムのような無体物が「物」に含まれるか明確でない。
②「物の発明」「方法の発明」という規定は、発明の対象が「物」である発明と、発明の対象が「方法」である発明とを二分する規定であることが明確でなく、発明自体が「物」か「方法」かに二分されるとの誤解を与えかねない。
③「譲渡」は所有権の移転を意味し、オリジナルデータが事業者の手元に残るようなデジタル情報の流通に対応しているかが明確ではない。

条文案

  1. 「物」→「物(管理支配可能なものをいう。以下同じ。)」、「物(無体物を含む。以下同じ。)」又は「製品」
  2. 「物の発明にあっては、その物を」→「発明に係る物を」又は「発明の対象である物を」等
  3. 以下のいずれかの形に改める。
    1. 「供給(譲渡、貸渡し、情報通信ネットワークを通じた提供を含む。以下同じ。)」
    2. 「供給し」
    3. 「提供(譲渡、貸渡し、情報通信ネットワークを通じた提供を含む。以下同じ。)」
    4. 「譲渡等(譲渡、貸渡し、情報通信ネットワークを通じた提供を含む。以下同じ。)をし」

間接侵害規定の見直し

101条 次に掲げる行為は、当該特許権又は専用実施権を侵害するものとみなす。

一 特許が物の発明についてされている場合において、その物の生産又は使用に欠くことができない物を、その物を業として生産又は使用する権限*4を有さない者によりその物の生産又は使用のために用いられることを知りながら、業として、生産し、供給をし、若しくは輸入し、又はその供給の申出をする行為

二 特許が方法の発明についてされている場合において、その方法の使用に欠くことができない物を、その方法を業として使用する権限を有さない者によりその方法の使用のために用いられることを知りながら、業として、生産し、供給をし、若しくは輸入し、又はその供給の申出をする行為

特許法等についての部長の指摘(実施の定義の見直しおよび間接侵害規定の見直しに関する部分のみの抜粋)

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特許法等についての部長の指摘」抜粋

田中コメント

当初は、101条に新たな号を追加するのではなく、既存の規定を書き換える案であった。また、主観的要件について、最終改正条文の「その発明が特許発明であること」とは異なり、特許権の存在の認識については規定されていない。

それにしても、「部長の指摘」は大変興味深い。なお、「部長」とは山本内閣法制局第四部長(当時)*5を指すものと思われる。

平成13年11月9日 「部長への中間説明②」と題された文書

実施の定義の見直し

2条3項1号 物(プログラム等を含む。以下同じ。)の発明にあつては、その物を生産し、使用し、供給(譲渡又は貸渡しをいい、その物がプログラム等である場合には、電気通信回線を通じた供給を含む。以下同じ。)をし、若しくは輸入し、又はその供給の申出(供給のための展示を含む。以下同じ。)をする行為。

同条4項 この法律で「プログラム等」とは、プログラム(電子計算機に対する指令であつて、一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいう。)その他電子計算機による処理の用に供する情報をいう。

田中コメント

最終改正条文と同様、「物(プログラム等を含む。以下同じ。)」という規定となった。「プログラム等の発明を第3カテゴリとした場合の問題点」との節では、プログラム等を新たなカテゴリーとして規定すると、101条や112条の3等の実施行為を列挙した条文や37条が非常に冗長・煩雑になること等が述べられている。
「プログラム等」の定義は、最終改正条文とほぼ同様である*6

また、今回の条文案では、「供給」という文言を用いている(が、「供給」の部分に手書きが×が付けられている;この手書きが「部長」によるものかは不明である。以下の手書きについても同)。

なお、「部長への中間説明②」においては、間接侵害規定の改正について(上記の実施の定義変更に伴う部分以外の)言及はない。

平成13年12月10日 「部長への中間説明③」と題された文書

実施の定義の見直し

2条3項1号 物(プログラム等を含む。以下同じ。)の発明にあつては、その物を生産し、使用し、譲渡等(譲渡又は貸渡しをいい、その物がプログラム等である場合には、電気通信回線を通じた提供を含む。以下同じ。)をし、輸入し又はその供給の申出(譲渡等のための展示を含む。以下同じ。)をする行為。

同条4項 この法律で「プログラム等」とは、プログラム(電子計算機に対する指令であつて、一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいう。)その他電子計算機による処理の用に供する情報をいう。

間接侵害規定の見直し

三 特許が物の発明についてされている場合において、業として、その物の生産又は使用に使用する物(多様な用途に供される物であつて広く一般に入手可能なものを除く)であつてその発明の本質的部分と密接な関連を有するものにつき、その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に使用されることを知つて、又は重大な過失により知らないで、その生産、譲渡等、輸入又は譲渡等の申出をする行為

四 特許が方法の発明についてされている場合において、業として、その方法の使用に使用する物(多様な用途に供されるものであって広く一般に入手可能なものを除く)であってその発明の本質的部分と密接な関連を有するものにつき、その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に使用されることを知つて、又は重大な過失により知らないで、その生産、譲渡等、輸入又は譲渡等の申出をする行為

田中コメント

2条3項1号については、「供給」という文言が消え、「譲渡等」となった。

101条については、最終改正条文にかなり近い形となった。
「その発明の本質的部分と密接な関連を有するもの」との表現に目が行く。また、主観的要件については、最終改正条文と同様「その発明が特許発明であること」が規定された一方で、最終改正条文とは異なり「又は重大な過失により知らないで」とも規定されている。
なお、号番号を一部ずらした最終改正条文とは異なり、この時点では、3号,4号を追加する案であった。

平成13年12月13日 特許庁内での検討文書

実施の定義の見直し

2条3項1号 物(プログラム等を含む。以下同じ。)の発明にあつては、その物の生産、使用、譲渡等(譲渡及び貸渡しをいい、その物がプログラム等である場合には、電気通信回線を通じた提供を含む。以下同じ。)若しくは輸入又は譲渡等の申出(譲渡等のための展示を含む。以下同じ。)をする行為

同条4項 この法律で「プログラム等」とは、プログラム(電子計算機に対する指令であつて、一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいう。)その他電子計算機による処理の用に供する情報をいう。

間接侵害規定の見直し

三 特許が物の発明についてされている場合において、業として、その物の生産に使用する物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く。)であつてその発明の解決しようとする課題に照らして重要なものにつき、その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に使用されることを知りながら、その生産、譲渡等、輸入又は譲渡等の申出をする行為

四 特許が方法の発明についてされている場合において、業として、その方法の使用に使用する物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く。)であってその発明の解決しようとする課題に照らして重要なものにつき、その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に使用されることを知りながら、その生産、譲渡等、輸入又は譲渡等の申出をする行為

田中コメント

ここで初めて、「日本国内において広く一般に流通しているものを除く。」という最終改正条文と同じ文言が出てきた。また、「その発明の解決しようとする課題に照らして重要なもの」という表現となった。

平成13年12月19日 特許庁内での検討文書

間接侵害規定の見直し

三 特許が物の発明についてされている場合において、業として、その物の生産に使用する物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く。)であつてその発明の技術的意義に照らして重要なものにつき、その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に使用されることを知りながら、その生産、譲渡等、輸入又は譲渡等の申出をする行為

四 特許が方法の発明についてされている場合において、業として、その方法の使用に使用する物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く。)であってその発明の技術的意義に照らして重要なものにつき、その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に使用されることを知りながら、その生産、譲渡等、輸入又は譲渡等の申出をする行為

田中コメント

「その発明の技術的意義に照らして重要なもの」との文言が現れた。この文言が後ほど問題となる。

平成13年12月22日 特許庁内での検討文書

田中コメント

この文書では、条文案に変化はないが、101条2号と3号との間に弧状の両矢印が手書きされている。2号と3号との順序を入れ替えるという意味であろう。

平成13年12月28日 特許庁内での検討文書

「プログラム等」の定義

「「電子計算機による処理の用に供する情報」が、「電子情報」以外の部分を含んでいる可能性がある。「プログラム」は例示に過ぎず、「その他電子計算機による処理の用に供する情報」に、それ以外の限定がないため広すぎる印象がある。」とのコメントが記載された後、いくつかの条文案が示されている*7

田中コメント

最終改正条文では、「その他電子計算機による処理の用に供する情報であつてプログラムに準ずるもの」と規定されているところ、その萌芽を見ることができる。

平成14年1月4日 特許庁内での検討文書

「プログラム等」の定義

2条4項 この法律で「プログラム等」とは、プログラム(電子計算機に対する指令であつて、一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいう。)その他これに準ずる情報であつて、電子計算機を用いて処理することができるように構成したものをいう。

間接侵害規定の見直し

二 特許が物の発明についてされている場合において、業として、その物の生産に使用する物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く。)であつてその発明の技術的意義に照らして重要なものにつき、その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に使用されることを知りながら、その生産、譲渡等、輸入又は譲渡等の申出をする行為

四 特許が方法の発明についてされている場合において、業として、その方法の使用に使用する物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く。)であってその発明の技術的意義に照らして重要なものにつき、その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に使用されることを知りながら、その生産、譲渡等、輸入又は譲渡等の申出をする行為

田中コメント

101条については、2号および4号を追加するという、最終改正条文と同じ構造となった。

平成14年1月13日 特許庁内での検討文書

「プログラム等」の定義

2条4項 この法律で「プログラム等」とは、プログラム(電子計算機に対する指令であつて、一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいう。以下本項において同じ。)その他電子計算機による処理の用に供する情報であつてプログラムに準ずるものをいう。

間接侵害規定の見直し

二 特許が物の発明についてされている場合において、業として、その物の生産に使用する物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く。)であつてその発明の技術的意義に照らして重要なものにつき、その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に使用されることを知りながら、その生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為

四 特許が方法の発明についてされている場合において、業として、その方法の使用に使用する物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く。)であってその発明の技術的意義に照らして重要なものにつき、その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に使用されることを知りながら、その生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為

田中コメント

2条4項は、最終改正条文で使われている文言「プログラムに準ずるもの」が現れた。前の条文案の文言「その他これに準ずる情報」では「これ」を指すものが不明確といった問題があるため、修正されたようである。
101条2号,4号は、「譲渡等、輸入」が「譲渡等若しくは輸入」に変化したのみである。

平成14年1月17日 特許庁内での検討

「プログラム等」の定義

2条4項 この法律で「プログラム等」とは、プログラム(電子計算機に対する指令であつて、一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいう。以下この項において同じ。)その他電子計算機による処理の用に供する情報であつてプログラムに準ずるものをいう。

田中コメント

2条4項につき、「以下本項において同じ。」が「以下この項において同じ。」に修正され、最終改正条文と完全に同じものとなった。以下では、もっぱら間接侵害規定のみが問題となる。

平成14年1月28日 「第四部長説明」と題された文書

101条改正案

二 特許が物の発明についてされている場合において、業として、その物の生産に使用する物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く。)であつてその発明の技術的意義に照らして重要なものにつき、その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に使用されることを知りながら、その生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為

四 特許が方法の発明についてされている場合において、業として、その方法の使用に使用する物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く。)であってその発明の技術的意義に照らして重要なものにつき、その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に使用されることを知りながら、その生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為

田中コメント

「技術的意義に照らして」に対しては「(実施に必要かつ不可欠な)といった感じか」」と、「重要な」に対しては「これが最もダメ」と、手書きされている。この時に「不可欠な」という表現が生まれたものと思われる。

さらに「業として」は「知りながら」の後ろに移動させる指示、および、「使用する」を「用いる」に、「使用させる」を「用いられる」に、各々変更させる指示も、手書きされている。

なお、2条3項1号および4項の条文案については、とくに問題とされていない。

平成14年1月*8内閣法制局山本第四部長御説明(平成14年1月28日)後の修正事項」と題された文書

101条に関する前回条文案からの修正

二号を追加する規定のうち

  1. 『業として、』を、『知りながら、』の後に移す。
  2. 『その物の生産に使用する物(……)であってその発明の技術的意義に照らして重要なものにつき、』を『その物の生産に用いる物(……)であってその発明の技術的意義に照らして不可欠なものにつき、』に改める。
  3. 『発明の実施に使用される』を『発明の実施に用いられる』に改める。

四号を追加する規定のうち

  1. 『業として、』を、『知りながら、』の後に移す。
  2. 『その方法の使用に使用する物(……)であってその発明の技術的意義に照らして重要なものにっき、』を『その方法の使用に用いる物(……)であってその発明の技術的意義に照らして不可欠なものにっき、』に改める。
  3. 『使用される』を『用いられる』に改める。

間接侵害の対象を制限する客観的要件

案1
  • その物の生産に用いる物であつてその発明の技術的意義に照らして不可欠なもの
  • その方法の使用に用いる物であつてその発明の技術的意義に照らして不可欠なもの

「技術的意義」という用語は、判例上も多用されておリ、解釈上特に問題はない。法曹関係者(飯村敏明東京地裁判事、牧野利秋弁護士(元東京高裁判事)、竹田稔弁護士(元東京高裁判事)、松尾和子弁護士等)の間でも、分かり易い基準として評判が良かった表現である。
①発明のポイントに関係のないもの、②発明のポイントには関係するが些末なものを排除可能。

案2
  • その物の生産に用いる物であつてその発明の効果の発揮のために不可欠なもの
  • その方法の使用に用いる物であつてその発明の効果の発揮のために不可欠なもの

「効果の発揮のために不可欠」という用例はある。
「発明の効果」については、平成6年改正で記載要件から外した点との整合性に若干の問題がある。
①発明のポイントに関係のないもの、②発明のポイントには関係するが些末なものを排除可能。

案3
  • その物の生産に用いる物であってその発明の課題の解決に不可欠なもの
  • その方法の使用に用いる物であってその発明の課題の解決に不可欠なもの

「発明の(解決しようとする)課題」の用例はあるが、課題のない発明もあると整理した平成6年改正との整合性に若干の問題がある。
①発明のポイントに関係のないもの、②発明のポイントには関係するが些末なものを排除可能。

案4
  • その物の生産に用いる物であつてその発明の実施に不可欠なもの
  • その方法の使用に用いる物であつてその発明の実施に不可欠なもの

「不可欠」の範囲は明確になるが、①発明のポイントに関係のないもの、②発明のポイントには関係するが些末なものを排除できない可能性。
2条3項で「発明の実施」が定義されていることから、「発明の実施に不可欠」が、「発明の実現」という観点から不可欠なのか、「当該物の生産、譲渡等」に不可欠なのか、意図するところが不明確となる。

田中コメント

特許庁としては、「技術的意義」という用語がイチオシであることが分かる。案3に「その発明の課題の解決に不可欠なもの」という最終改正条文とほぼ同じ文言があるが、この文言については、特許庁としては36条に係る平成6年改正との整合性を気にしている。

平成14年1月31日 「部長説明」と題された文書

101条改正案

二 特許が物の発明についてされている場合において、その物の生産に用いる物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く。)であつてその発明の技術的意義に照らして不可欠なものにつき、その発明が特許発明であること及びその物が発明の実施に用いられることを知りながら、業として、その生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為

四 特許が方法の発明についてされている場合において、その方法の使用に用いる物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く。)であつてその発明の技術的意義に照らして不可欠なものにつき、その発明が特許発明であること及びその物が発明の実施に用いられることを知りながら、業として、その生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為

田中コメント

「技術的意義に照らして」の横には「×」と手書きされている。

また、「その物」「その方法」の前に「く」の字が手書きされている。「業として」をここに移動させよとの指示であろう。

平成14年2月1日 「部長説明後の条文修正」と題された文書

間接侵害の対象を制限する客観的要件

案1
  • その物の生産に用いる物であつてその発明による課題の解決に不可欠なもの
  • その方法の使用に用いる物であつてその発明による課題の解決に不可欠なもの

「発明の(解決しようとする)課題」の用例はある。
課題のない発明もあると整理した平成6年改正との整合性に若干の問題はあるが、実際に課題が把握できない発明というものは殆どなく、実務上の問題はない。
①発明のポイントに関係のないもの、②発明のポイントには関係するが些末なものを排除可能。

案2
  • その物の生産に用いる物であつてその発明の実現に不可欠なもの
  • その方法の使用に用いる物であつてその発明の実現に不可欠なもの
案2’
  • その物の生産に用いる物であつてその発明の具体化に不可欠なもの
  • その方法の使用に用いる物であつてその発明の具体化に不可欠なもの
案2”
  • その物の生産に用いる物であつてその発明を具現するために不可欠なもの
  • その方法の使用に用いる物であつてその発明を具現するために不可欠なもの

「発明の実施」とした場合、2条3項で「発明の実施」が定義されていることからその意図することが不明確となることを避けるため、「実施」に代わる他の用語を用いる案。
①発明のポイントに関係のないもの、②発明のポイントには関係するが些末なものを排除可能と考えられるが、そのような趣旨であることが、条文上の表現からは若干わかリにくい可能性がある。

案3
  • その物の生産に用いる物であつてその発明の目的の達成に不可欠なもの
  • その方法の使用に用いる物であつてその発明の目的の達成に不可欠なもの

目的や効果の記載を求めないとして、条文から発明の目的、構成、効果の語を削除した平成6年改正との整合性に若干の問題はあるが、実際に目的が把握できない発明というものは殆どなく、実務上の問題はない。
①発明のポイントに関係のないもの、②発明のポイントには関係するが些末なものを排除可能。

案4
  • その物の生産に用いる物であつてその発明の性質上不可欠なもの
  • その方法の使用に用いる物であつてその発明の性質上不可欠なもの

「発明の性質」を、その発明特有の技術的特徴のように解すれば、①発明のポイントに関係のないもの、②発明のポイントには関係するが些末なものを排除可能と考えられるが、「発明の性質」の語をどのように解釈するべきかについては若干不明瞭。

田中コメント

結局、この「案1」が最終改正条文に採用された。このように現行特許法101条2号,5号(本改正当時4号)が生まれたのである。

更新履歴

2020-05-06 公開
2020-05-07 表現の微修正

*1:一部記号の変更等は行なった。

*2:388枚および662枚のスキャンページからなる、2つのPDFファイル。

*3:私と同様の開示請求を行なったかたに限られるが……。

*4:田中注:「権原」の誤記か?

*5:そして、後の……。

*6:最終改正条文と比して、「以下この項において同じ。」および「であつてプログラムに準ずるものをいう。」が欠けている。

*7:この一文は、引用ではなく、本稿執筆者(田中)による文書の内容説明である。

*8:具体的な日にちの記載はない。