平成11年特許法改正により、出願審査請求可能期間が出願後7年間から3年間に短縮された*1際、立案担当者は次の説明をしていた(強調は引用者による)*2:
現行の審査請求制度では、審査請求の多くが出願から6~7年目に集中しているため、7年という長期間にわたり、権利の帰趨が未確定な出願が大量に存在する。
現時点では、審査請求されていないが、今後審査請求がされる可能性のある特許出願件数は平成9年末では214万件(平成10年末で約205万件)にのぼっている。
こうした大量の不安定な出願が存在するため、以下のような不利益を第三者に与えている。
① 審査請求を未だ行っていない段階では、明細書の範囲内で特許請求の範囲(以下、「クレーム」という。)を自由に変更できる。事業を進める第三者にとっては、未請求案件が膨大であり、その発明の詳細な説明に記載された技術内容まで精査することは不可能なため、特許権を侵害してしまうおそれがある
② 特許侵害をおそれるあまり、不当に広いクレームであっても製品の設計変更や代替手段の準備を強いられる
③ 審査請求や補正の有無を常に監視する必要がある
そのため、研究開発への支障が多いとともに、特許侵害の懸念を抱くことなく事業化を推進することが困難となり、創造性の高い技術、基本技術の開発へのインセンティブを弱め、知的創造活動の促進、新規産業の創出に逆効果となる。
「不安定な出願」は、特許法がクレームの補正を認めている(17条の2第1項)以上、許容されている存在といえる。
クレーム補正を認める理由は、〈先願主義のもと、出願人はいち早く出願する必要があるため、出願時から完全なクレームを出願人に求めるのは酷であり、出願時のクレームのミスは許される〉と特許法が考えていることにあろう。
もっとも、クレーム補正が可能な範囲は、当初明細書等に記載された内容に絞られている(17条の2第3項)。
その趣旨は、先願主義の潜脱を防ぐとともに、第三者に不測の不利益を及ぼさせないため、と考えられる。
すなわち、当初明細書等の内容は出願から1年半後には公開されるため(64条1項)、事業を予定する当業者(第三者)は、理論的には、出願公開された内容に基づいて、特許権侵害リスクを回避可能なはずだからである*3。
しかし現実は、上記①で述べられているように、いわゆるクリアランス調査において「発明の詳細な説明に記載された技術内容まで精査することは不可能」である。
それは、クリアランス調査で確認すべき範囲が、クレームのみから明細書・図面までに広がるから、という“量”の問題のみではない。
仮に明細書・図面を「精査」できたとしても、そこからどのような内容が将来クレームアップされる(補正後クレームとなる)のかを予測するのは ―― 当初明細書等の一部記載をそのままクレームアップするのではなく、上位概念化されたものがクレームアップされる場合もある(むしろ多い)ため ―― 現実的には不可能である。
そのような現実を踏まえ、平成11年法改正では、「不安定な出願」を減らすため、出願審査請求期間が短縮された。
しかし、平成11年法改正では考慮されなかった「不安定な出願」がある。
分割出願である*4。
(以上)
更新履歴
- 2026-01-25公開
*1:施行は平成13(2001)年10月1日。
*2:特許庁総務部総務課工業所有権制度改正審議室編『平成11年改正 工業所有権法の解説』(発明協会,1999)11~12頁。
*3:ただし、特許出願から出願公開までの間に(準備)開始された事業についてはリスク回避できない。
*4:平成18年特許法改正により、分割出願の時期的要件が緩和され、法が分割出願の利用を促すことになった。加えて、同改正で導入されたシフト補正禁止(17条の2第4項)も、分割出願を後押ししている可能性がある。