特許法の八衢

特許権侵害警告が不競法2条1項21号の不正競争にあたると判断された事案 ― 東京地判令和7年10月9日(令和6年(ワ)第70096号等)

1 事案の概要

本件 東京地判令和7年10月9日(令和6年(ワ)第70096号[本訴事件]・令和6年(ワ)第70274号[反訴事件])は、複雑な事案である。


まず、特許権者である本訴原告(以下、単に「原告」)が、本訴被告(被告山創および被告ライフテック;「被告ら」)に対して、差止め及び損害賠償を求め、東京地裁へ訴訟提起した。

これに対し、被告らは反訴を提起した。
その内容は、原告が自身の取引先への電子データを配布した行為(「本件告知」)が不競法2条1項21号規定の不正競争に当たるため、差止め・損害賠償等を求める、というものである。
電子データには、被告らが原告特許権を侵害し又は侵害している可能性がある旨が記載されていた。


原告特許権に係る発明は、「凹凸素材の遮熱構造」であり、
主な被疑侵害行為は、被告山創により行なわれた、工場屋根の遮熱工事である(被告ライフテックは、被告山創へ、工事用部材の一部を提供していた)。

ここで、被告山創による工事は、「当初施工」および「是正工事」の、2度行なわれた。
「当初施工」後に、(訴外)顧客から苦情があり、「是正工事」が行なわれたのである。

そして、裁判所は、「当初施工」については、被告山創による特許権侵害を認めた(被告ライフテックの行為については特許権侵害を認めなかった)一方、
「是正工事」については特許権侵害を否定した。

裁判所は、さらに、原告による本件告知が、「競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為」(不競法2条1項21号)であることを認めた。

以下では、不競法2条1項21号該当性に関する判決文を紹介する。

2 判決文*1

2-1 原告による本件告知

原告は、……、原告のフランチャイズ加盟店に対し、……「遮熱ニュース」と題する電子データ(以下「本件遮熱ニュース」という。)を送付した(……)。

遮熱ニュース(判決別紙より)

2-2 「競争関係」該当性

争いのない事実、証拠(……)及び弁論の全趣旨によれば、原告が遮熱材であるトップヒートバリアを販売する会社であること、被告ライフテックが遮熱材であるサーモバリアを販売する会社であること、被告山創がサーモバリアを販売・施工する代理店であること、以上の事実が認められる。
上記認定事実によれば、原告と被告らは、少なくとも遮熱材を販売するという点において、その需要者又は取引者を共通にする可能性があるといえるから、不競法2条1項21号の規定する「競争関係」にあるというべきである。

これに対し、原告は、原告とフランチャイズ加盟店との間で締結する契約書(……)を根拠として、原告と被告らは、それぞれ異なる流通網を構築しているから「競争関係」にない旨主張する。しかしながら、上記競争関係とは、現在の商品販売上の具体的競争関係にとどまらず、その需要者又は取引者を共通にする可能性があれば足りることは、上記において説示したとおりである。
そして、原告の主張に立ったとしても、契約期間満了(7条)等の事由によりフランチャイズ契約が終了することもあり得るのであるから、その需要者又は取引者を共通にする可能性を直ちに否定することはできないというべきである。
したがって、原告の主張は、採用することができない。

2-3 「虚偽の事実」該当性

競争関係にある者が、競業者の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し又は流布する行為は、競業者を不利な立場に置き、自ら競争上有利な地位に立とうとするものであるから、公正な競争を阻害することになる。このような結果を防止し、事業者間の公正な競争を確保する観点から、不競法2条1項21号は、上記行為を不正競争の一類型と定めるものである。
そして、競争関係にある者において、知的財産権を侵害しないという裁判所の判断が示される前に、当該知的財産権を侵害する旨を事前に告知し又は流布する行為は、知的財産権侵害の結果の重大性に鑑みると、競業者の営業上の信用を害することによって、上記と同様に、公正な競争を阻害することは明らかである。

上記の同号に係る趣旨目的に鑑みると、法的な見解の表明それ自体は、意見ないし論評の表明に当たるものであるとしても(最高裁平成15年(受)第1793号、第1794号同16年7月15日第一小法廷判決・民集58巻5号1615頁参照)、上記行為は、不正競争の一類型に含まれると解するのが相当である。

そうすると、競争関係にある者が、知的財産権を侵害しないという裁判所の判断が示される前に、当該知的財産権を侵害する旨を告知又は流布する行為は、同号にいう「虚偽の事実」の告知又は流布に該当するものと解するのが相当である。

……認定事実によれば、本件遮熱ニュースには、「兼ねてより、(株)ライフテックには特許侵害の疑いありと特許事務所より通告していました。ところが、あちこちで特許侵害が見受けられたので特許侵害訴訟を行うものです。」、「今回は、短期間に終わらすため、室内天井や壁に両面テープを使用して直貼りした件に関しての訴訟とします。」と記載されているほか(文言1)、「今回の訴訟で勝利すればサーモバリアを使用している全ての会社が特許侵害の可能性がある事になり」などと記載されている(文言3)。

……

このうち、「兼ねてより、(株)ライフテックには特許侵害の疑いありと特許事務所より通告していました。ところが、あちこちで特許侵害が見受けられたので特許侵害訴訟を行うものです。」(文言1)と記載されている部分は、一般の読み手の普通の注意と読み方を基準とすれば、被告ライフテックが各所で特許権侵害行為をしたものと理解されるものといえる。
しかしながら、被告ライフテックによる特許権侵害が認められないことは、上記……において説示したとおりであるから、原告は、特許権を侵害しないという裁判所の判断が示される前に、当該特許権を侵害する旨を告知したものといえるから、上記の送付行為は、不競法2条1項21号にいう「虚偽の事実」の告知に該当するものといえる。
そして、特許権を侵害したという虚偽の事実は、被告ライフテックの社会的評価を低下させるものであるから、上記送付行為は、被告ライフテックの「営業上の信用を害する虚偽の事実」の告知に該当する。

……

また、「今回は、短期間に終わらすため、室内天井や壁に両面テープを使用して直貼りした件に関しての訴訟とします。」(文言1)、「今回の訴訟で勝利すればサーモバリアを使用している全ての会社が特許侵害の可能性がある事になり」(文言3)と記載されている部分は、「今回は、室内側の直貼り工法が対象」、「直貼り工法を見たら特許侵害を疑う」といった本件遮熱ニュースのその他の記載と併せてみると、一般の読み手の普通の注意と読み方を基準とすれば、少なくともサーモバリアを室内側に直貼りすれば、特許権侵害行為に該当し、被告山創が、室内天井のみならず、室内側の直貼りにより特許権侵害を行ったものと理解されるものといえる。
しかしながら、本件特許は、折板屋根材等の凹凸のある素材に遮熱材を接着手段により取り付けた遮熱構造を対象とするものであるにすぎないから、サーモバリアを室内側に直貼りしたことによって、その態様を問わず、特許権侵害を構成するものではなく、また、被告山創が壁にサーモバリアを直貼りしたことによって特許権侵害を行ったと認めることもできない。

そうすると、上記記載のある本件遮熱ニュースを送付した行為は、不競法2条1項21号にいう「虚偽の事実」の告知に該当するといえる。
そして、上記の事実は、サーモバリアを販売又は施工する被告らの社会的評価を低下させるものであるから、上記送付行為は、被告らの「営業上の信用を害する虚偽の事実」の告知に該当するというべきである。

2-4 知的財産権の正当な権利行使の一環としてなされたものか否か

競業者が知的財産権を侵害していないにもかかわらず、その権利者において当該競業者が当該知的財産権を侵害する旨告知し又は流布する行為が、知的財産権の正当な権利行使の一環としてなされたものと認められる場合には、知的財産権の重要性に鑑み、違法性を欠くものというべきである。

しかしながら、本件遮熱ニュースには、上記に掲げた記載のほか、「特許侵害は犯罪、懲役刑(10年以下)有。」、「サーモバリアを使用している全ての会社が特許侵害の可能性」、「加盟店様に置かれましては、直貼りの情報を得ましたら特許侵害の話をすると受注し易くなると思います。」、「サーモバリアを使用している全ての会社が特許侵害の可能性がある事になり、大手企業等からは排除されること大になると思います。」などの記載があることが認められる。

これらの記載によれば、原告は、外形的には加盟店への情報提供という形式をとりつつも、「犯罪、懲役刑」という文言を冒頭赤字の大見出しで掲げた上、「サーモバリアを使用している全ての会社が特許権侵害の可能性がある」という明らかに根拠なき事実を述べていることからすると、実質的には被告らを不利な立場に置き、自ら競争上有利な地位に立とうとするものであることは明らかであり、その態様は極めて悪質であるといわざるを得ない。

これらの事情を踏まえると、原告が本件遮熱ニュースを告知した行為は、特許権の正当な権利行使の一環としてなされたものであるとは認めることはできない。

2-5 結論

したがって、本件遮熱ニュースの送付行為は、不正競争(不競法2条1項21号)に該当するものといえる。
そして、上記認定に係る本件遮熱ニュースの内容及び態様によれば、原告には明らかに過失があったものと認められる。

3 雑感

本判決は、不競法2条1項21号の不正行為に(形式上)該当する行為であっても「知的財産権の正当な権利行使の一環としてなされたものと認められる場合には、知的財産権の重要性に鑑み、違法性を欠くものというべきである。」と述べている。

この判断枠組みは、本判決と同じ東京地裁民事第40部=中島基至コートによる*2東京地判令和4年10月28日(令和3年(ワ)第22940号)と同様のものである。

この判断枠組みについては、上記令和4年東京地判についての拙記事で、簡単に触れた。
また、金子敏哉「侵害警告と不競法上の虚偽事実告知に係る裁判例」別冊パテント29号(2023)169頁以下では、裁判例の動向について詳細な検討がなされている。


ところで、
本判決(令和7年東京地判)の、「競争関係にある者が、知的財産権を侵害しないという裁判所の判断が示される前に、当該知的財産権を侵害する旨を告知又は流布する行為は、同号[引用者注:不競法2条1項21号]にいう「虚偽の事実」の告知又は流布に該当するものと解するのが相当である。」(下線は引用者付記)という裁判所の示した一般論につき、「侵害しない」という部分は、正しいのか?
それとも、「侵害する」の誤記か?

「侵害する」の誤記であるならば、この一般論は分かりやすい。
(被疑侵害者の顧客等への)知財権侵害の警告等は、知財権侵害すると裁判所がお墨付きを与えるまで、不競法2条1項21号の不正競争に当たる*3、ということだ。

「侵害しない」という記載のまま正しいとしたら、本事案では侵害しないと裁判所は判断した*4ので、単にその事実を記載した、ということであろうか。
そうであれば、それを一般論のように記載することは、大いに疑問がある。

なお、上記令和4年東京地判では、「競争関係にある者が、裁判所が知的財産権侵害に係る判断を示す前に当該判断とは異なる法的な見解を事前に告知し又は流布する場合には、当該見解は、不正競争防止法2条1項21号にいう「虚偽の事実」に含まれるものと解するのが相当である。」と判示していた(下線は引用者付記、以下同じ)。
ただし、令和4年東京地判でも、(一般論ではなく結論を示す判決文において)「本件通知書の内容は、裁判所において……本件特許権を侵害しない旨の判断を示す前に当該判断とは異なる法的な見解を事前に告知するものとして、不正競争防止法2条1項21号にいう「虚偽の事実」を含むものと認めるのが相当である。」という説示はある。

更新履歴

  • 2025-12-30 公開

*1:項見出しは、引用者が作成した。また、強調は、引用者による。さらに、改行の一部は、引用者が追加したものである。

*2:ただし、中島裁判長以外の裁判官は異なる。

*3:ただし、「判断が示される」という文言からすると、判決の確定までは求めないのだろう。

*4:もっとも、「当初施工」については侵害する、と裁判所は判断しているのであるが。