特許法の八衢

ソフトウエア関連発明の発明該当性に関する審査基準等について

はじめに

「特許・実用新案審査基準」(以下、単に「審査基準」)および「特許・実用新案審査ハンドブック」(以下、単に「審査ハンドブック」)は、法規範ではない1とは言え、特許審査における影響力を考えると、実務者にとってはこれらを理解することが重要である。もっとも、審査基準・審査ハンドブックには理解が難しい箇所も少なくない。

本稿では、そのような箇所の一つと考えられる、「ソフトウエア関連発明」2の発明該当性判断に関する審査基準・審査ハンドブックの記載について、疑問を記すとともに、その回答を試みる。

現行審査基準についての疑問

ある特許出願が特許権として成立するには、請求項に係る発明が、特許法上の「発明」、すなわち「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」(2条1項)でなければならず(29条1項柱書)、審査官はこの要件も審査する必要がある(49条2号)。

現行審査基準3はこれを「発明該当性」と呼び、第III部 第1章 2.1において、「発明」に該当しないものとして、以下の6類型を挙げている4

  • 自然法則自体
  • 単なる発見であって創作でないもの
  • 自然法則に反するもの
  • 自然法則を利用していないもの
  • 技術的思想でないもの
  • 発明の課題を解決するための手段は示されているものの、その手段によっては、課題を解決することが明らかに不可能なもの

もっとも、現行審査基準(2018年) 同2.2には、「コンピュータソフトウエアを利用するものの審査に当たっての留意事項」として、以下の事項が記載されている(強調は引用者;なお「(注)」の表記を省いて引用する):

(1) コンピュータソフトウエアを利用するものであっても、以下の(i)又は(ii)のように、全体として自然法則を利用しており、「自然法則を利用した技術的思想の創作」と認められるものは、コンピュータソフトウエアという観点から検討されるまでもなく、「発明」に該当する。
  • (i) 機器等(例:炊飯器、洗濯機、エンジン、ハードディスク装置、化学反応装置、核酸増幅装置)に対する制御又は制御に伴う処理を具体的に行うもの
  • (ii) 対象の物理的性質、化学的性質、生物学的性質、電気的性質等の技術的性質(例:エンジン回転数、圧延温度、生体の遺伝子配列と形質発現との関係、物質同士の物理的又は化学的な結合関係)に基づく情報処理を具体的に行うもの
(2) 上記(i)又は(ii)と判断されないような、ビジネスを行う方法、ゲームを行う方法又は数式を演算する方法に関連するものであっても、ビジネス用コンピュータソフトウエア、ゲーム用コンピュータソフトウエア又は数式演算用コンピュータソフトウエアというように、全体としてみると、コンピュータソフトウエアを利用するものとして創作されたものは、「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当する可能性がある。そのようなものについては、審査官は、ビジネスを行う方法等といった形式にとらわれることなく、コンピュータソフトウエアを利用するものという観点から自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当するか否かを検討する。すなわち、コンピュータソフトウエアを利用するものは、「ソフトウエアによる情報処理が、ハードウエア資源を用いて具体的に実現されている」場合は、「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当するため、この観点から検討する。

さらに、現行審査ハンドブック(2018年) 附属書B 第1章の冒頭には、以下の記載もある:

ソフトウエア関連発明の特許要件(発明該当性、新規性、進歩性)の判断については、2.を参照する。特に、発明該当性の判断について2.を参照する際に、審査官は、2.1.1.1 の(1)及び(2)に記載されるように、審査基準「第III部第1章発明該当性及び産業上の利用可能性」により、請求項に係るソフトウエア関連発明が「自然法則を利用した技術的思想の創作」であるか否かの判断がされる場合は、2.1.1.2に記載される「ソフトウエアの観点に基づく考え方」による検討を行わない点に留意する。

すなわち、現行審査基準・審査ハンドブックに従うと、ソフトウエア関連発明の発明該当性は、
①まず、「(i) 機器等に対する制御又は制御に伴う処理を具体的に行うもの」または「(ii) 対象の技術的性質に基づく情報処理を具体的に行うもの」か否かという「ソフトウエアの観点に基づく考え方」ではない観点での判断が行なわれ((i)または(ii)であると判断されると発明該当性が認められる)、
②次いで、①において(i)または(ii)と判断されなかった場合、「ソフトウエアの観点に基づく考え方」で判断される、
という2段階のステップを踏む5

ここで、【α】「(i) 機器等に対する制御又は制御に伴う処理を具体的に行うもの」および「(ii) 対象の技術的性質に基づく情報処理を具体的に行うもの」という類型は何に由来するのか(何らかの裁判例を元にしたものなのか)、【β】そもそも、なぜ2段階の判断ステップを踏む必要があるのか(一度に全ての要素を判断してはいけないのか)、疑問が沸く。

以下、ソフトウエア関連発明の発明該当性に関する審査基準等の変遷を概観し6、その答えを探る。

1993年審査基準

特許庁は、1993(平成5)年、これまでの審査基準を全面的に見直した、新たな審査基準を公表した。

この1993年審査基準では、コンピュータ・ソフトウエア関連発明に関し、以下の類型に当たるものであれば、発明該当性を認めることが規定された7

  • (I) ソフトウエアによる情報処理に自然法則が利用されている発明
    • (1) ハードウエア資源に対する制御又は制御に伴う処理を行うもの
      • ① コンピュータにより制御を行うもの
      • ② コンピュータ自体のオペレーションに関するもの
    • (2) 対象の物理的性質又は技術的性質に基づいて情報処理を行うもの
  • (II) ハードウエア資源が利用されている発明

さらに、「(II) ハードウエア資源が利用されている発明」については、「ハードウエア資源の単なる使用」8は発明該当性を認める対象から除く旨の記載がある。

1997年運用指針

ついで1997(平成9)年、特許庁は「特定技術分野の審査の運用指針」を公表した。

この運用指針(のうちソフトウエア関連発明に関する部分)の最大の特徴は、これまでの特許庁運用を改め、「媒体」クレームを認めた点にあるが、発明該当性の記載についても、1993年審査基準とは若干の相違がある。

具体的には、1997年運用指針では、「解決手段9が例えば以下のものである場合には、その手段が自然法則を利用しているといえる。」として、次の3類型が挙げられている:

  • (i) ハードウエア資源に対する制御又は制御に伴う処理
  • (ii) 対象の物理的性質又は技術的性質に基づく情報処理
  • (iii) ハードウエア資源を用いて処理すること

加えて、以下の注記も存在する:

ただし、解決手段が自然法則を利用した手段であっても、その手段が、「コンピュータを用いて処理すること」のみである場合(例えば実例3請求項1)、「媒体にプログラム又はデータを記録すること」のみである場合、又は、「コンピュータを用いて処理すること」及び「媒体にプログラム又はデータを記録すること」のみである場合には、「発明」とはしない。

請求項に係る発明がコンピュータを用いて処理を行うものであっても、請求項において、コンピュータのハードウエア資源がどのように(how to)用いられて処理されるかを直接的又は間接的に示す具体的な事項が記載されていない場合には、その処理は2.2.1④[引用者注:直前に引用した段落]の「コンピュータを用いて処理すること」である。

2000年審査基準

さらに2000(平成12)年、特許庁は新たな審査基準を公表した。この審査基準は、特許法上の「物」(2条3項1号)に「プログラム等」が含まれることとなった2002(平成14)年法改正に先立ち、「プログラム」クレームを認めた点で画期的なものであった。

2000年審査基準では、ソフトウエア関連発明の発明該当性判断につき、次のように記述されている:

ソフトウエア関連発明において、請求項に係る発明が「自然法則を利用した技術的思想の創作」であるか否か(「発明」に該当するか否か)を判断する具体的な手法は以下のとおり。

(1)請求項に記載された事項に基づいて、請求項に係る発明を把握する。なお、把握された発明が「自然法則を利用した技術的思想の創作」であるか否かの判断に際し、ソフトウエア関連発明に特有の判断、取扱いが必要でない場合には、「第II部第1章産業上利用することができる発明」により判断を行う。(注参照)

(2)請求項に係る発明において、ソフトウエアによる情報処理が、ハードウエア資源(例:CPU等の演算手段、メモリ等の記憶手段)を用いて具体的に実現されている場合、つまり、ソフトウエアとハードウエア資源とが協働した具体的手段によって、使用目的に応じた情報の演算又は加工を実現することにより、使用目的に応じた特有の情報処理装置(機械)又はその動作方法が構築されている場合、当該発明は「自然法則を利用した技術的思想の創作」である。

(3)一方、ソフトウエアによる情報処理がハードウエア資源を用いて具体的に実現されていない場合、当該発明は「自然法則を利用した技術的思想の創作」ではない。

……

(注)ソフトウエア関連発明に特有の判断、取扱いが必要でなく、「第II部第1章産業上利用することができる発明」により判断を行う例を次に示す。

(1)「自然法則を利用した技術的思想の創作」ではない例
請求項に係る発明が、「第II部第1章1.1「発明」に該当しないものの類型」のうちいずれか一に当たる場合、例えば、 (a)経済法則、人為的な取決め、数学上の公式、人間の精神活動、又は(b)デジタルカメラで撮影された画像データ、文書作成装置によって作成した運動会のプログラム、コンピュータ・プログラムリストなど、情報の単なる提示に当たる場合は、「自然法則を利用した技術的思想の創作」ではない。

(2)「自然法則を利用した技術的思想の創作」である例
請求項に係る発明が、
(a)機器等(例:炊飯器、洗濯機、エンジン、ハードディスク装置)に対する制御又は制御に伴う処理を具体的に行うもの、又は
(b)対象の物理的性質又は技術的性質(例:エンジン回転数、圧延温度)に基づく情報処理を具体的に行うもの
に当たる場合は、「自然法則を利用した技術的思想の創作」である。

また、2000年審査基準と同時に公表された「コンピュータ・ソフトウエア関連発明の改訂審査基準に関するQ&A」には、以下の記載がある:

前回の審査基準[引用者注:1997年運用指針]では、ソフトウエア関連発明が特許法上の「発明」であるか否かを判断する際に、発明が「解決しようとする課題」を明らかにすることを前提に、その課題をハードウエア資源を如何に利用して解決しようとしているのかという視点からアプローチしています。すなわち、当該請求項に係る課題の解決のために、ハードウエア資源(CPU、メモリ等)を如何に(how to)用いているかを具体的に請求項に記載しなければ「発明」に該当しないとしていました。

……

一方、今回の審査基準では、「ソフトウエア」自体の創作を「発明」として扱うことを明確化した[引用者注:プログラムクレームを認めたことを指すと思われる]のに伴い、如何なる「ソフトウエア」を創作したのかという視点からアプローチしています。

……

ソフトウェアの創作とは、ハードウェア資源の利用によりあるアイデアを実現しようとする技術的創作であり、これまでの審査基準に基づき「ハードウェア」側からアプローチするか、今回の審査基準に基づき「ソフトウェア」側からアプローチするかによって、「発明」に該当するか否かの審査結果が異なることはありません。

検討

1993年審査基準では、ソフトウエア関連発明について発明該当性が認められる類型を「(I) ソフトウエアによる情報処理に自然法則が利用されている発明」および「(II) ハードウエア資源が利用されている発明(「ハードウエア資源の単なる使用」は除く)」の2つに分け、前者についてさらに、「(1) ハードウエア資源に対する制御又は制御に伴う処理を行うもの」と「(2) 対象の物理的性質又は技術的性質に基づいて情報処理を行うもの」とに分類していた。

続く1997年運用指針では、「(I) ソフトウエアによる情報処理に自然法則が利用されている」という類型がなくなったが、これは「(i) ハードウエア資源に対する制御又は制御に伴う処理」および「(ii) 対象の物理的性質又は技術的性質に基づく情報処理」に展開されただけであり、この部分については、1993年審査基準と実質的な変更はない。

また、2000年審査基準でも、「ハードウエア資源に対する制御又は制御に伴う処理」から「機器等(例:……)に対する制御又は制御に伴う処理を具体的に行うもの」に、「対象の物理的性質又は技術的性質に基づく情報処理」から「対象の物理的性質又は技術的性質(例:……)に基づく情報処理を具体的に行うもの」に、それぞれ表現が僅かに変更されたのみである。すなわち、2000年審査基準においても、1993年審査基準の「(I) ソフトウエアによる情報処理に自然法則が利用されている発明」という類型が生き続けている。ただし、2000年審査基準では、この類型は「ソフトウエア関連発明に特有の判断、取扱いが必要でな」いものと整理された。このように整理された理由は明らかではない。

一方で、1993年審査基準の「(II) ハードウエア資源が利用されている発明(「ハードウエア資源の単なる使用」は除く)」という類型は、1997年運用指針では「ハードウエア資源を用いて処理すること」と表現が微妙に変化するとともに、(「ハードウエア資源の単なる使用」を除く旨の記載に代えて)「請求項に係る発明がコンピュータを用いて処理を行うものであっても、請求項において、コンピュータのハードウエア資源がどのように(how to)用いられて処理されるかを直接的又は間接的に示す具体的な事項が記載されていない場合には、その処理は……「コンピュータを用いて処理すること」であ[るため、発明該当性を認めない]」との注意書きが付された。「how to」等の記載振りから、この類型についての特許庁の苦心の様子がうかがえる。

さらに、2000年審査基準では、この類型につき「ソフトウエアによる情報処理が、ハードウエア資源を用いて具体的に実現されている場合」と表現が修正された上で、本類型のみが「ソフトウエア関連発明に特有の判断、取扱いが必要」なものと整理され(上記のようにその理由は明示されていない)、現行審査基準・審査ハンドブックもこの立場(「ソフトウエアによる情報処理が、ハードウエア資源を用いて具体的に実現されている」か否かで発明該当性を判断することのみを「ソフトウエアの観点に基づく考え方」とする立場)を維持している。

現行審査基準についての疑問への回答

以上を踏まえると、本稿冒頭の疑問への回答は次のものになると考えられる。

【α】「(i) 機器等に対する制御又は制御に伴う処理を具体的に行うもの」および「(ii) 対象の技術的性質に基づく情報処理を具体的に行うもの」の由来は、(少なくとも直接には)1993年審査基準である。このような類型を示した裁判例が存在するわけではない。もっとも、1993年以来その表現をほとんど変えずに、現行審査基準・審査ハンドブックでも用いられている類型であるため、一定程度有効に機能しているものだと考えられる。

【β】《まず、「(i) 機器等に対する制御又は制御に伴う処理を具体的に行うもの」または「(ii) 対象の技術的性質に基づく情報処理を具体的に行うもの」か否かという「ソフトウエアの観点に基づく考え方」ではない観点での判断を行ない、次いで、①において(i)または(ii)と判断されなかった場合、「ソフトウエアの観点に基づく考え方」で判断を行なう》という2段階のステップを踏む必然性は見いだせない。ソフトウエア関連発明の発明該当性を、「(i) 機器等に対する制御又は制御に伴う処理を具体的に行うもの」か、「(ii) 対象の技術的性質に基づく情報処理を具体的に行うもの」か、あるいは「ソフトウエアの観点に基づく考え方」を用いて「発明」に当たるか(「ソフトウエアによる情報処理が、ハードウエア資源を用いて具体的に実現されている場合」か否か)の3要素を、一度に(1段階で)判断しても構わない。
なぜならば、1993年審査基準および1997年運用指針ではそのような1段階での判断が行なわれており、かつ、2000年審査基準で2段階の判断が導入された合理的な理由が何も述べられていないからである。もっとも、「(i) 機器等に対する制御又は制御に伴う処理を具体的に行うもの」または「(ii) 対象の技術的性質に基づく情報処理を具体的に行うもの」か否かという判断は、「ソフトウエアの観点に基づく考え方」を用いた判断よりも、相対的に容易だと考えられるため、2段階ステップによる判断をあえて否定する理由もないであろう10

更新履歴

  • 2023-05-07 公開

  1. 知財高大判平成17年11月11日(平成17年11月11日)[偏光フイルムの製造法]参照。
  2. 現行審査ハンドブック 附属書B 第1章において「その発明の実施においてソフトウエアを利用する発明」と定義されている。なお、「ソフトウア」との記載は原文のままである。
  3. 後掲2000年審査基準の公表後、審査基準は、2015(平成27)年、全面改訂(ソフトウエア関連発明についての記載の多くは審査基準から審査ハンドブックに移行)され、さらに2018(平成30)年、審査ハンドブックも含め微修正(ソフトウエア関連発明に関する記載の明確化)がなされた。本稿では、明記がない場合を除き、2015年改訂のものと2018年改訂のものとを区別せず、「現行審査基準」や「現行審査ハンドブック」と称する。
  4. この6類型は、後掲の1993年審査基準から(表現に若干の変更があるものの)基本的に変わっていない(後掲1997年運用指針では8類型が示されたが、これは「技術的思想でないもの」を「技能」「情報の単なる掲示」「単なる美的創造物」の3類型に分けたものである)。
  5. ①について、正確に述べると、第一に、審査基準の「(i)又は(ii)のように、全体として自然法則を利用しており、「自然法則を利用した技術的思想の創作」と認められるもの」との記載から、(i)(ii)以外にも「ソフトウエアの観点に基づく考え方」ではない観点で「自然法則を利用した技術的思想の創作」と判断できるものがあることを審査基準を想定しているようにも思われる(この点につき、後掲2001年審査基準では例示である旨が明記されていた)。第二に、審査基準 第III部 第1章 2.1に挙げられた「発明」に該当しない6類型に当たるかも判断され、ここで6類型のいずれかに当たると判断されると、その時点で発明該当性が認められない(もっとも、6類型のうち、とくに「自然法則を利用していないもの」「技術的思想でないもの」と①の段階で判断することは、「ソフトウエアの観点に基づく考え方」を審査基準が導入した趣旨が没却されるように思われる)。
  6. ソフトウエア関連発明に関する審査基準等の変遷は以下のものが詳しい:竹田稔ほか編『ビジネス方法特許』(青林書院,2004)116頁以下[三品岩男・鈴木正剛]、日本国際知的財産保護協会『コンピュータ・ソフトウエア関連およびビジネス分野等における保護の在り方に関する調査研究報告書』(2010)21頁以下[中山一郎]、酒井宏明「コンピュータ・プログラム保護態様の史的変遷」中山信弘先生古稀記念論文集(弘文堂,2015)154頁以下、谷義一ほか『世界のソフトウエア特許〔改訂版〕』(発明推進協会,2017)51頁以下[牛久健司]。
  7. 1993年審査基準よりも前に、コンピュータ・ソフトウエア関連発明(に相当する発明)の審査基準およびそれに類するものとして、「コンピュータ・プログラムに関する発明についての審査基準(その1)」(1975年),「マイクロコンピュータ応用技術に関する発明についての運用指針」(1982年),「コンピュータ・ソフトウエア関連発明の審査上の取扱い(案)」(1988年)が存在した。これらと1993年審査基準との関係(1993年審査基準はこれまでの審査基準等を整理しただけのものか、それとも新たな考え方を追加したものか等)の評価は論者によって様々である一方、少なくとも「対象の……技術的性質」という現行審査基準・審査ハンドブックでも用いられる語が導入されたのは1993年審査基準からであるため、本稿では、1993年審査基準から検討を始めることとする。
  8. 「請求項の記載がコンピュータの構成要素や装置等のハードウエア資源により限定されていても、この限定が、何らかの形でハードウエア資源を使用することを明示した、ということ以上の内容を有していないとき、すなわち、ハードウエア資源が単に使用されているにすぎないとき」と定義されている。
  9. 引用者注:1997年運用指針では、発明該当性判断ステップにつき、「発明の詳細な説明に記載された当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項から総合的に……把握した請求項に係る発明が解決しようとする課題を把握し、次に、その解決手段を把握する。その際には出願時の技術常識も参酌する。」「把握した解決手段(例えばプログラムの処理)が自然法則を利用した手段であれば、発明が「自然法則を利用した技術的思想の創作」であることとする。」と述べ、「請求項に係る発明」と「解決手段」とを区別していた。
  10. ただし、すでに注釈で記したように、第1ステップで「発明」に該当しない6類型に当たるかをも判断することは、本来は(「ソフトウエアの観点に基づく考え方」では)「発明」と判断されるものにつき、発明該当性が否定される虞があるため、好ましいものではないと考える。