特許法の八衢

日本

多機能品型間接侵害規定はいかにして生まれたか ― 平成14年特許法改正について

はじめに 「特許法等の一部を改正する法律案(平成14法律24)に関する法律案審議録に含まれる行政文書のうち、特許庁から内閣法制局に提出されたもの。」について、私が開示請求を行ない入手した文書のうち、間接侵害規定および実施の定義の見直し(「プログ…

続続・最高裁は効果の独立要件説を採ったのか?

最三小判令和元年8月27日集民262号51頁(平成30年(行ヒ)第69号)は民集に登載されないため、いわゆる調査官解説は出ないものと考えていたところ、Law & Technology 87号に、大寄麻代最高裁調査官による本判決の「解説」(以下、本調査官解説)が掲載された*1…

知財高大判令和2年2月28日(平成31年(ネ)第10003号)[美容器]に関する雑感

はじめに 知財高大判令和2年2月28日(平成31年(ネ)第10003号)は、知財高裁が示した判決要旨からも特許法102条1項の判示部分が最重要であることが理解できる。本判決で示された、102条1項に基づく損害額の計算式・証明責任等の判断枠組みは、下図のようにな…

意匠法における間接侵害規定の拡充についての疑問

はじめに 令和元年改正*1により、意匠法にもいわゆる多機能品型間接侵害規定が導入され、例えば38条2号は以下のものとなった*2:登録意匠又はこれに類似する意匠に係る物品の製造に用いる物品又はプログラム等若しくはプログラム等記録媒体等(これらが日本…

大阪地判平成30年11月29日(平成28年(ワ)第5345号)[美容器]に関する備忘録

2020-03-23追記:本件の控訴審判決について、次の記事を作成しました。 patent-law.hatenablog.com追記ここまで。 はじめに 大阪地判平成30年11月29日(平成28年(ワ)第5345号)の控訴事件が知財高裁大合議事件に指定された*1。大合議事件とされた理由は、特…

特許法101条4号による間接侵害成立の妥当性 ― カプコン v. コーエーテクモゲームス事件控訴審判決

(本稿は、同名の前回記事が分かりにくかったため、前回記事の文章構成を全面的に見直したものです。) 問題の所在 特許法101条4号は「特許が方法の発明についてされている場合において、業として、その方法の使用にのみ用いる物の生産、譲渡等若しくは輸入…

【新版あり】特許法101条4号による間接侵害成立の妥当性 ― カプコン v. コーエーテクモゲームス事件控訴審判決

(2019-11-10追記:本稿が分かりにくかったため、新たな記事を作成しました。本稿は記録のために残してあります。) はじめに 本判決 知財高判令和元年9月11日(平成30年(ネ)第10006号等)にはいくつかの論点があるが、本稿では、方法の特許発明に関し特許法…

日本裁判所への米国特許権侵害訴訟提起についての覚書

はじめに 外国特許権、とくに米国特許権に基づく特許権侵害訴訟を日本の裁判所に提起した場合に、請求認容判決が得られるのか。本稿はこの問題を判例・裁判例に基づいて整理することを目的とする。初歩的な内容だと思われるが、執筆者が初学者ゆえ誤りを含ん…

続・最高裁は効果の独立要件説を採ったのか?

はじめに 飯島歩弁護士の「進歩性判断における予測できない顕著な効果の位置付けに関するドキセピン誘導体含有局所的眼科用処方物事件最高裁判決について」という論考(以下、飯島最判判批と称する)が公表された。そこでは次のように、本最高裁判決(最三小…

最三小判令和元年8月27日(平成30年(行ヒ)第69号)後の差戻審についての覚書

最三小判令和元年8月27日(平成30年(行ヒ)第69号)を受けて、差戻審では、新たな手法により効果顕著性を判断することとなるところ、最終的に出される結論は(和解を除くと)次の3通りだろう: 効果顕著性の存在を認めず、進歩性否定 効果顕著性の存在を認め…

最高裁は効果の独立要件説を採ったのか?

はじめに 最三小判令和元年8月27日(平成30年(行ヒ)第69号)において、最高裁は、進歩性判断での発明の効果の取り扱いにつき(「二次的考慮説」ではなく)「独立要件説」を採ったという見解がある*1 *2。しかし、私には、最高裁が独立要件説を採ったとは感じ…

日本特許法制におけるClaim Differentiation

目的 本稿では、米国特許法制におけるDoctrine of Claim Differentiationが、日本特許法制においても許容されるか否かを検討する*1。 Doctrine of Claim Differentiationとは何か Doctrine of Claim Differentiationとは、同一出願中の異なるクレームは全く…

特許法29条1項各号の謎

某企業の研究室を紹介するテレビ番組で、研究者のPCディスプレイに表示されていた、エンジンの設計図(CADデータ)が映り込んだ。映り込んだ設計図は、当業者であればその技術的内容が理解できるものの、それ以外の者にとっては理解が困難であった。 そして…

特許法と行政法との関係(2014年行政不服審査法改正対応版)

(日本における)特許法と行政法との関係は、例えば、吉藤幸朔『特許法概説〔第10版〕』(有斐閣,1994)563頁以下や木村耕太郎弁護士のウェブログにまとめられているが、2014年行政不服審査法改正前のものなので、改正後のものを整理してみた*1。主な情報ソ…

そーとく日記

想特 一三さんの特許権存続期間延長についての論考は、いつも大変勉強になる。(↓最高裁の「高」が「はしごだか」で書かれているため、文字化けしているな……。 2017-02-12追記:いつの間にか「高」が修正されていた!) thinkpat.seesaa.net

実施可能要件とサポート要件との関係―知財高判平成29年2月2日(平成27年(行ケ)第10249号等)

本件は特許有効審決に対する審決取消訴訟事件であり、判決は審決を維持した*1。知財高裁第4部 高部コートの判決である*2。進歩性も論じられているが、注目すべきは、実施可能要件とサポート要件との関係を述べた点にあるだろう。 特許請求の範囲の記載がサポ…