特許法の八衢

ReissueのRecapture ruleについて判断された事案 ― In re McDonald (Fed. Cir. 2022)

はじめに

米国特許法制において特徴的な制度の一つが、Reissue(米国特許法(35 U.S.C.)1 251条)である。日本における訂正審判制度(日本特許法126条)と同様、特許登録後にクレーム等を訂正できるものであるが、Reissueは、クレーム減縮のみならず、クレーム拡張もできる点が大きく異なる。

もっとも、Reissueにおけるクレーム拡張には一定の制限が課せられている。

本件、In re McDonald (Fed. Cir. August 10, 2022)2では、その制限の一つであるRecapture ruleが主な争点となった。

本件の経緯

本件上訴人(Appellant)3は、特許出願における審査過程で101条違反との拒絶理由に対応するため、「processor」との文言をクレームに追加した。

さらに、上訴人は、上記特許出願(親出願)に基づく、継続出願(continuation application)を行なった。 この継続出願では、出願時点からクレームに「processor」との文言が含まれており、上訴人は、クレーム補正することなく、特許権を得た。

その後、上訴人は、上記継続出願に係る特許権について、クレームの「processor」の削除等を目的とするReissue出願を行なったところ、審査官は103条違反で拒絶した4。そこで、上訴人は審判部(Patent Trial and Appeal Board; PTAB)へ不服を申立てた結果、PTABは(103条違反との判断は一部覆したものの)新たにRecapture ruleに違反する等との審決を下した。

これを不服として、CAFCへ上訴した5のが、本件である。

CAFCの判断

結論

CAFCは、「processor」の削除はRecapture ruleに反するとして、上訴人の主張を退け、Reissue出願に係る特許権の成立を認めなかった。その主な理由は、以下の通りである。

ReissueおよびRecapture ruleの趣旨

ReissueおよびRecapture ruleの趣旨について、CAFCは過去の判例を引用しつつ、次のように説明する:

1世紀以上前、最高裁は、特許権者が誤って元の特許権においてクレーム(claim)できる範囲より狭い範囲をクレームしていた場合、特許権者は特許の再発行(reissue)を求めると認めており、その後、その法理は成文化された。すなわち、特許法251条は、「詐欺的意図のない錯誤(error without any deceptive intention)6があったために、特許がその全部若しくは一部において効力を生じない若しくは無効とみなされた場合においては」特許のreissueが可能だと規定している。

Reissue制定法は、「衡平性および公平性の基本原則(fundamental principles of equity and fairness)」に基づくものである。議会は、特許権者に不適当なクレーム範囲の誤りを訂正する機会を与えるという競争的な利益(competing interest)と、特許権の最終性および確実性という公共の利益(public interest)との間でバランスを取り、必要に応じて特許権者がクレーム拡張によって誤りを訂正することを認める立法した。

Recapture ruleは、特許権者が権利化手続きにおいて放棄した主題(subject matter)をReissueにより取り戻すことを防止し、公衆が特許の公的記録(審査経過)に依拠することを可能とするものである。

錯誤

制定法における「錯誤(error)」の要件は「不注意または誤り(inadvertence or mistake)」を意味するところ、親出願における「processor」の文言の追加は、101条違反との拒絶理由を解消するために意図的になされたものであり、「錯誤」に当たらない。

Reissue出願をトロイの木馬として使い、意識的に(クレーム補正して)放棄したものを取り戻す(recapture)ことはできない。

パテントファミリーの審査経過の参照

Recapture ruleおよび審査経過禁反言は共に、審査経過に依拠する公衆の利益を保護するためのものであるため、Reissue特許におけるrecaptreを防止するためには、パテントファミリー全体の審査経過をレビューすることが衡平法上必要である。Recapture ruleのレビューの対象は、Reissueにより訂正される特許権の審査経過に止まらない。

Recapture ruleが適用されるのは先行技術を回避するための補正のみか

公衆の信頼利益(reliance interest)は、102条, 103条違反を解消するため(クレーム補正して)放棄された主題のみならず、101条違反を解消するため放棄された主題にも及ぶ。

雑感

数少ないAIA後のReissueに関するCAFC判決であり、ReissueおよびRecapture ruleについてその趣旨から述べ、Recapture ruleが101条違反を解消するための補正にも適用される点、および、Recapture ruleの判断においてパテントファミリーの審査経過の参照も必要となる点を明示した、実務上参考になる判決である。

特許出願人・特許権者寄りの判断をする傾向のある、Newman判事も反対意見を執筆していないことから、本判例は強固なものであるように思われる。

なお、112条違反を解消するための補正についてもRecapture ruleが適用されるか否かが気になるところ、112条違反解消のための補正にはRecapture ruleが適用されないと判断したように見えるCAFC判決がある。Cubist Pharms., Inc. v. Hospira, Inc., 805 F.3d 1112 (Fed. Cir. 2015)である7。このCubist判決は本件In re McDonaldで上訴人が引用し(Recapture ruleが適用されるのは先行技術を回避するための補正のみであると主張し)たが、In re McDonaldでは、Cubist判決につき、不明瞭性拒絶への応答としてクレームをキャンセルすることは意図的な放棄を構成しないと判断したもの、と評価された。

更新履歴

  • 2022-08-12 公開
  • 2022-08-12 記事見出しを含め微修正

  1. 以下、「米国特許法」との記載を省いて条数のみを記す。

  2. 裁判体は、Newman判事, Stoll判事, Cunningham判事。Cunningham判事が判決執筆。全員一致。

  3. 正確に言えば、本件上訴人はReissue出願の出願人ではない(詳細は省く)が、以下、便宜上このように記載をする。

  4. Reissue出願には特許有効性の推定(presumption of validity)は、働かない。In re Doyle (CCPA 1973), In re Sneed(Fed. Cir. 1983).

  5. CAFCへの上訴前に、PTAB審決について再審理(rehearing)を請求したが、拒絶された。

  6. Leahy-Smith America Invents Act(AIA)による法改正により「詐欺的意図のない(without any deceptive intention)」との文言が削除された。本件で適用されるのは、AIA後の法であるが、この改正によるRecapture ruleの影響は争点となっていない。ただし、判決では、本改正につき若干の言及がある。

  7. 「The prosecution history thus makes it clear that the applicants withdrew claim 24 from the application because of the indefiniteness rejection, not to avoid prior art. Accordingly, the recapture rule does not render claims 18 and 26 of the ‘071 patent invalid」(強調引用者)との判示がある(Id. at 1121-22)。