特許法の八衢

多機能型間接侵害および間接侵害への特許法102条の適用について判示した事案 ― 知財高判令和4年8月8日(平成31年(ネ)第10007号)

はじめに

本判決(知財高判令和4年8月8日[平成31年(ネ)第10007号])は、多機能型間接侵害(特許法101条2号)および特許法102条について、興味深い判示をしているため、備忘録として本稿を記す。

「記す」と言っても、「事件の経緯」以下、項名以外は、全て判決文の引用1(ただし強調は引用者による)である。なお、本判決は原判決(大阪地判平成30年12月13日[平成27年(ワ)第8974号])を引用している箇所が多々あるところ、以下では(本判決の引用する)原判決部分も特に断りを入れずに記載している2

事件の経緯

本件は、……発明の名称を「プログラマブル・コントローラにおける異常発生時にラダー回路を表示する装置」とする特許(本件第1特許)の請求項1に係る発明(本件発明1)についての特許権(本件特許権1)……を有する一審原告が、一審被告に対し、①原判決別紙被告製品目録記載1ないし3及び5ないし7の表示装置(被告製品1-1ないし3、被告製品2-1ないし3。被告表示器)、②同目録記載4及び8の、パソコンを画面操作装置として機能させるソフトウェアのライセンスキー(被告製品1-4及び2-4)、③同目録記載9及び10の、被告表示器用のOSやプロジェクトデータ作成等のためのソフトウェア(被告製品3-1及び2。両者を併せて被告製品3。)、並びに④同目録記載11の被告表示器用のプロジェクトデータ作成支援ツール(被告製品4)を生産、譲渡等することが本件特許権1ないし4の直接侵害又は間接侵害に当たるとして、特許法100条1項及び2項に基づいて、被告各製品の生産、譲渡、貸渡し等の差止めを求めるとともに、特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償として、内金5億5000万円及びこれに対する本件訴状送達日の翌日である平成27年9月26日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

……原判決は、被告製品3をインストールした被告製品1-1、被告製品1-2、被告製品2-1及び被告製品2-2(被告表示器A)が本件発明1の技術的範囲に属するとした上で、被告製品3の生産、譲渡等が本件特許権1に対する特許法101条2号の間接侵害に当たるとして、一審被告に対し、被告製品3の生産、譲渡の差止め、被告製品3に係るプログラムの使用許諾の差止め、及び被告製品3の廃棄を命じるとともに、損害賠償として4702万8368円及びこれに対する遅延損害金の支払を命じ、その余の一審原告の請求をいずれも棄却した。

……一審原告及び一審被告の双方が、原判決を不服として、原判決中の各敗訴部分全部の取消しを求めて、それぞれ本件各控訴を提起した。分全部の取消しを求めて、それぞれ本件各控訴を提起した。
当審係属中、一審原告は、本件特許権1……に係る差止め及び廃棄の請求を取り下げた3

本件発明1

一審被告は、……本件発明1についての特許について特許無効審判請求(無効2018-800131号)をした(……)。一審原告は、……訂正前発明1についての特許を無効とする旨の審決の予告を受けたので……訂正請求をした(以下、この訂正請求に係る訂正を「本件訂正」という。……)。……特許庁は、……、本件訂正を認め、一審被告の無効審判請求は成り立たない旨の審決(以下「本件審決」という。)をし、……、本件審決は確定した(……)。本件訂正後の本件第1特許の請求項1の発明(以下「本件発明1」という。)の構成要件は、次のとおり分説される(……)。

  • 1A 機械・装置・設備等の制御対象を制御するプログラマブル・コントローラにおいて用いられる表示装置であって、
  • 1B′前記制御対象の異常現象の発生をモニタするプログラムであって、当該異常現象が発生したのに対応して、前記プログラマブル・コントローラの対応するアドレスのデータが変化したことを認識するプログラムと、 -1C そのプログラムで異常現象の発生がモニタされたときにモニタされた異常現象に対応する異常種類を表示する手段と、
  • 1D 表示された1又は複数の異常種類から1の異常種類に係る異常名称をタッチして指定するタッチパネルと、
  • 1E 異常種類が当該タッチにより指定されたときにその指定された異常種類に対応する異常現象の発生をモニタしたラダー回路を表示する手段と、を有し、
  • 1F 前記ラダー回路を表示する手段は、表示されたラダー回路の入出力要素のいずれかをタッチして指定する前記タッチパネルと、表示されたラダー回路の入力要素が当該タッチにより指定されたときにその入力要素を出力要素とするラダー回路を検索して表示し、表示されたラダー回路の出力要素が当該タッチにより指定されたときにその出力要素を入力要素とするラダー回路を検索して表示する手段を含む
  • 1G ことを特徴とする表示装置。

被疑侵害製品

被告表示器は,プログラマブル表示器であり,工場等における設備機械を制御する制御装置であるプログラマブル・コントローラ(設備機械のアクチュエータ等の動作等のON/OFF信号,位置信号等を,設備機械の動作プログラムに従って受発信し,かつ当該動作プログラムが記憶されている装置。以下「PLC」という。)等の状態を表示(モニタ)するとともに,PLC等に指令信号を送る機器(表示操作装置)である。被告表示器は,PLCに接続することによって,PLCによる設備機械の制御状態を可視化するとともに,設備機械の操作盤としても機能するほか,マイコンボードやロボットコントローラー等にも接続することができ,その場合には,それらの設備機器について動作の制御やモニタを行うことができる。

……被告製品3は,被告表示器(……)専用の画面作成ソフトウェアである。これには被告表示器のOS(基本機能OS及び拡張/オプション機能OS)とその他のソフトウェアが含まれている。ユーザは,被告製品3をパソコンにインストールし,その中の「GT Designer3」というソフトウェアを使用して,パソコンで被告表示器のプロジェクトデータ(画面データや動作設定など,被告表示器に表示させるデータの集まり。……)を作成する。 そして,被告表示器は,ユーザが被告表示器に被告製品3を用いて基本機能OSをインストールしなければ全く機能しない。また,被告製品3に格納されているOS及び同製品によって作成されるプロジェクトデータは,被告表示器以外の表示器には全く適用できない。

構成要件充足性

当裁判所も、被告製品3のOSがインストールされた被告表示器Aは、本件発明1の構成要件を全て充足すると認定する。

……回路モニタ機能等が使用可能な状態となった被告表示器Aは,本件発明1の技術的範囲に属する。

なお,被告は,本件発明1の技術的範囲に属する物であるためには,所定のプロジェクトデータもインストールされた状態になっている必要があると主張する。確かに,実際に被告表示器が動作するには何らかのプロジェクトデータがインストールされる必要があるが,本件発明1においてプロジェクトデータ自体は発明特定事項とはされていないから,その技術的範囲に属する物としては,プロジェクトデータをインストールすれば回路モニタ機能等が使用できる表示装置であれば足り,プロジェクトデータ自体がインストールされている必要はなく,基本機能OSと拡張/オプション機能OSのうちの回路モニタ機能部分がインストールされていれば足りると解するのが相当である(ただし,前記認定事実からすると,回路モニタ機能等を使用するプロジェクトデータのインストールなしに,拡張/オプション機能OSのうちの回路モニタ機能部分がインストールされる事態が生じることは実際上は考え難いが,理論的には上記のとおりと解するのが相当である。)。

直接侵害の成否

当裁判所も、被告表示器A、被告製品3の製造、販売等の行為が本件特許権1についての直接侵害に該当するものではないと判断する。

……被告表示器A,被告製品3は,それらが個別に販売される場合はもとより,同一の機会に販売される場合であっても,被告製品3の基本機能OS及び拡張/オプション機能OSのうちの回路モニタ機能等部分のインストールがいまだされない状態であるから,それらは直接侵害品(実施品)としての構成を備えるに至っておらず,それを備えるにはユーザによるインストール行為が必要である。

このような場合,確かに,ユーザの行為により物の発明に係る特許権直接侵害品(すなわち実施品)が完成する場合であっても,そのための全ての構成部材を製造,販売する行為が,直接侵害行為と同視すべき場合があることは否定できない。

しかし,構成部材を製造,販売する行為を直接侵害行為(すなわち実施品の製造,販売行為)と同視するということは,ユーザが構成部材から実施品を完成させる行為をもって構成部材の製造,販売とは別個の生産行為と評価せず,構成部材の製造,販売による因果の流れとして,構成部材の製造,販売行為の中に実質的に包含されているものと評価するということであるから,そのように評価し得るためには,製造,販売された構成部材が,それだけでは特許権直接侵害品(実施品)として完成してはいないものの,ユーザが当然に予定された行為をしてそれを組み合わせるなどすれば,必ず発明の技術的範囲に属する直接侵害品が完成するものである必要があると解するのが相当である。換言すれば,ユーザの行為次第によって直接侵害品が完成するかどうかが左右されるような場合には,構成部材の製造,販売に包含され尽くされない選択行為をユーザが行っているのであるから,構成部材を製造,販売した者が間接侵害の責任を負うことはあっても,直接侵害の責任を負うことはないと解すべきである。

……以上のことを踏まえると,被告が販売した被告表示器Aや被告製品3だけでは,直ちに本件発明1の直接侵害品(実施品)が完成するわけではないし,ユーザが被告表示器Aを被告製のPLCに接続した上で,被告製品3の拡張/オプション機能OSのうちの回路モニタ機能等部分をインストールすることが必ず予定された行為であると認めることもできない。したがって,ユーザの行為によって直接侵害品が完成するかどうかが左右されるような場合に該当するといわざるを得ない。

……以上に対し原告は,被告が被告製品1や2等のカタログにおいて,回路モニタ機能等を強調していることや,被告表示器Aが他の被告製品と比べて高額であること等からすると,本件発明1を全く実施しないという使用態様が被告表示器Aと被告製品3のユーザの下で経済的,商業的又は実用的な使用形態としてあるとは認められないと主張している。……本件発明1を全く実施しないという使用態様が,被告表示器Aと被告製品3の経済的,商業的又は実用的な使用形態でないと認めることはできないから,原告の上記主張は採用できない。

……以上より,直接侵害の成立は認められない。したがって,仮に被告表示器Aと被告製品3の販売行為を実質的にセット販売と評価し得るとしても,その販売行為をもって本件特許権1の直接侵害行為と評価することはできない。……以上より,被告による被告表示器Aと被告製品3の製造,販売等の行為は本件特許権1の直接侵害行為に該当しない。

101条1号の間接侵害の成否

当裁判所も、被告表示器A及び被告製品3の製造、販売等の行為は、いずれも本件特許権1についての特許法101条1号の間接侵害に該当するものではないと判断する。

……本件発明1を全く実施しないという使用態様が,被告表示器Aと被告製品3の経済的,商業的又は実用的な使用形態でないと認めることはできない。なお,原告は,被告表示器Aや被告製品3のユーザにおいて,回路モニタ機能等を全く使わずにそれらを使用し続けることはあり得ないと主張するが,……そのような事態があり得ないとはいえない。

また,本件発明1は,「プログラマブル・コントローラにおいて用いられる表示装置」,すなわちPLCに接続される表示装置の発明であるところ,被告表示器AはPLC以外の機器にも接続可能であり,ユーザは被告製のC70シリーズの数値制御装置等と接続した場合にも回路モニタ機能等を使用することができる。それだけでなく,被告表示器Aは他社のPLCと接続することも可能であり,そのような接続をした場合には,そもそも回路モニタ機能等は使用できない。したがって,以上のような場合がある以上,必ずユーザによって直接侵害行為が惹起されるとは限らない。

そして,その他に被告表示器Aや被告製品3が本件特許権1の直接侵害品の生産に「のみ」用いる物に当たることを基礎付けるに足りる事情も認められない。

したがって,特許法101条1号の間接侵害は成立しない。

101条2号の間接侵害の成否

「生産に用いる物」

被告表示器Aや被告製品3は本件特許権1の直接侵害品(実施品)の「生産に用いる物」に当たると認められるが、本件では、これらが本件発明1による「課題の解決に不可欠なもの」(課題解決不可欠品)に当たるか否かが争いとなっている。

「発明による課題の解決に不可欠なもの」

課題解決不可欠品の意義

特許法101条2号において、その生産、譲渡等を侵害行為とみなす物を「発明による課題の解決に不可欠なもの」とした趣旨は、同号が対象とする物が、侵害用途のみならず非侵害用途にも用いることができるものであることから、特許権の効力の不当な拡張にならないよう、譲渡等の行為を侵害行為とみなす物(間接侵害品)を、発明という観点から見て重要な部品、道具、原料等(以下「部品等」という。)に限定する点にあり、そのために、単に「発明の実施に不可欠なもの」ではなく、「発明による課題の解決に不可欠なもの」と規定されていると解される。

この趣旨に照らせば、「発明による課題の解決に不可欠なもの」(課題解決不可欠品)とは、それを用いることにより初めて「発明の解決しようとする課題」が解決されるような部品等、換言すれば、従来技術の問題点を解決するための方法として、当該発明が新たに開示する特徴的技術手段について、当該手段を特徴付けている特有の構成等を直接もたらす特徴的な部品等が、これに該当するものと解するのが相当である。

……特許法101条2号は、間接侵害品を当該発明の特徴的部分を特徴付ける特有の構成等を直接もたらす特徴的な部品等に限定していると解されるが、「部品等」の範囲は、物理的又は機能的な一体性を有するか否かを社会的経済的な側面からの観察を含めて決定されるべきものであり、ある部材が既存の部品等であっても、当該発明の課題解決に供する部品等として用いるためのものとして製造販売等がされているような場合には、当該部材もまた当該発明による課題の解決に不可欠なものに該当すると解すべきものである。なぜならば、特徴的な部品等といえども公知の部品等が組み合わせられているにすぎない場合が多いところ、一体性を有するものも形式的に分離できるのであれば直ちに間接侵害の適用が排除されるとすると、間接侵害の規定が及ぶ範囲を極度に限定することとなり、特許法が間接侵害を特許権侵害とみなして特許権の保護を認めた趣旨に著しく反することになるからである。

……被告製品3は、拡張/オプション機能OSのうちの回路モニタ機能等部分を格納しており、これが被告表示器Aにインストールされることによって、被告表示器Aにおいて回路モニタ機能等の使用が可能となるものである。そして、被告製品3の回路モニタ機能等部分とこれを除く他の部分とは、物理的にかつ機能的にも一体性を有するものと認められる。

そうすると、被告製品3は、全体として、本件発明1の特徴的技術手段を直接もたらす特徴的部品であると認められる。

したがって、被告製品3は本件発明1の課題解決不可欠品に当たる。

……本件発明1が新たに開示する特徴的技術手段である、異常発生時のタッチによる接点検索との構成は、被告表示器Aと被告製品3の双方があって初めて実現し得る構成である。そして、一審被告が自認するとおり、回路モニタ機能等を実現するために被告表示器AにインストールできるOSは被告製品3のみであり、同機能の実現のために被告製品3がインストールできる表示器は被告表示器Aのみであるから(……)、上記構成を実現するように被告表示器Aが機能し得るのは、被告製品3のOSがインストールされた場合であり、かつ、その場合に限る。その上、被告表示器Aと被告製品3は、いずれも一審被告が生産、販売するものであり、一審被告は上記のような構成を熟知し、あえてこのような構成を選択し、かつ、顧客に両者を提供しているものといえる。

以上からすると、被告表示器Aと被告製品3とは、たまたま物理的に別個の製品とされたことにより、一つの機能が複数の部品に分属させられているものの、本来的には、被告表示器Aは、被告製品3と機能的一体不可分の関係にあるものであって、独立した製品とされていたとしても、本件発明1の特徴的技術手段を直接もたらす特徴的部品等を構成するものであるというべきである。

したがって、被告表示器Aは本件発明1の課題解決不可欠品である4

汎用品該当性

特許法101条2号が「日本国内において広く一般に流通しているもの」を間接侵害の対象物から除く趣旨は、市場において一般に入手可能な状態にある規格品や普及品まで間接侵害の対象とするのでは取引の安定性の確保の観点から好ましくないとの点にあるところ、被告表示器A及び被告製品3がそのような規格品、普及品であるとは認められないから、回路モニタ機能が汎用的な機能であったとしても、被告表示器A及び被告製品3が汎用品に該当することはない。

直接侵害品が生産される条件

「発明の実施に用いられることを知りながら」(主観的要件②)との検討に当たり、まず、被告表示器A及び被告製品3が本件発明1の実施(生産)に用いられる条件について検討する。

……このように、被告表示器Aを購入等するユーザは必ず被告製品3を購入等すること、回路モニタ機能がプログラマブル表示器に本来的に要請される機能であること、一審被告がワンタッチ回路ジャンプ機能を宣伝広告のポイントとしていたこと、被告表示器A及び被告製品3を購入等したユーザは回路モニタ機能等を用いることを強く動機付けられ、その機能がインストールされる可能性もかなり高いといえること、そして、回路モニタ機能等を利用できる機器環境にあるユーザの割合がかなり高く見込まれることに鑑みると、被告表示器A又は被告製品3を購入等するユーザのうち例外的とはいえない範囲の者が本件特許権1の直接侵害品の生産をする高度の蓋然性があると推認され、これを覆すに足りる主張立証はないというべきである。

主観的要件

当裁判所も、一審被告が、平成25年4月2日以降、本件発明1が「特許発明であることを知りながら」(主観的要件①)、かつ、本件特許権1の直接侵害品の生産に用いる被告表示器A及び被告製品3が本件発明1の「発明の実施に用いられることを知りながら」(主観的要件②)、それらを生産、譲渡等していたものと判断する。

……特許法101条2号においては,「発明が特許発明であること」(主観的要件①)及び発明に係る特許権直接侵害品の生産に用いる「物がその発明の実施に用いられること」(主観的要件②)を知りながら,その生産,譲渡等をすることが間接侵害の成立要件として規定されている。

「特許発明であることを知りながら」(主観的要件①)

……まず,特許発明について特許請求の範囲の訂正があった場合には,訂正後の特許請求の範囲に係る発明を知った時に主観的要件①を満たすことになるのか,それとも,訂正前の特許請求の範囲に係る発明を知っていれば,特許請求の範囲が訂正された後の発明との関係でも,主観的要件①を満たすことになるのかを検討する。

特許法101条2号が主観的要件①を間接侵害の要件とした趣旨は,同号の対象品は適法な用途にも使用することができる物であることから,部品等の販売業者に対して,部品等の供給先で行われる他人の実施内容についてまで,特許権が存在するか否かの注意義務を負わせることは酷であり,取引の安全を害するとの点にある。

他方,特許請求の範囲等の訂正は,特許請求の範囲の減縮や誤記等の訂正等を目的とするものに限られ(特許法126条1項),特許請求の範囲等の訂正は,願書に(最初に)添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならず(同条5項),かつ,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものであってはならないとされている(同条6項)。そして,特許請求の範囲等の訂正をすべき旨の審決が確定したときは,その訂正後における特許請求の範囲により特許権の設定の登録がされたものとみなされる(同法128条)。

以上のように,特許請求の範囲の訂正が認められる場合が上記のように限定されていることを踏まえると,訂正前の特許請求の範囲に係る特許発明を知っていれば,特許請求の範囲が訂正された後の特許発明との関係でも,主観的要件①を満たすことになると解するのが相当である。このように解しても,特許法101条2号が主観的要件①を求めた趣旨に反するわけではないし,第三者にとって不意打ちとなることもないからである。

……以上のような事実関係に照らせば,被告が本件第1特許の登録時に訂正前の本件発明1の存在を知っていたとまで推認することはできない。そして,平成25年4月2日にされた原告から被告への警告書の送付以外に,被告が訂正前の本件発明1の存在を認識し得たことをうかがわせる事情は認められない。

「発明の実施に用いられることを知りながら」(主観的要件②)

……まず、どのような場合に主観的要件②を満たすものと考えるべきか、すなわち、適法な用途にも使用することができる物の生産、譲渡等が「発明の実施に用いられることを知りながら」したといえるのはどのような場合かについて検討する。

特許法101条2号の間接侵害は、適法な用途にも使用することができる物(多用途品)の生産、譲渡等を間接侵害と位置付けたものであるが、その成立要件として、主観的要件②を必要としたのは、対象品(部品等)が適法な用途に使用されるか、特許権を侵害する用途ないし態様で使用されるかは、個々の使用者(ユーザ)の判断に委ねられていることから、当該物の生産、譲渡等をしようとする者にその点についてまで注意義務を負わせることは酷であり、取引の安全を著しく欠くおそれがあることから、いたずらに間接侵害が成立する範囲が拡大しないように配慮する趣旨と解される。

このような趣旨に照らせば、単に当該部品等が特許権を侵害する用途ないし態様で使用される一般的可能性があり、ある部品等の生産、譲渡等をした者において、そのような一般的可能性があることを認識、認容していただけで、主観的要件②を満たすと解するのでは、主観的要件②によって多用途品の取引の安全に配慮することとした趣旨を軽視することになり相当でなく、これを満たすためには、一般的可能性を超えて、当該部品等の譲渡等により特許権侵害が惹起される蓋然性が高い状況が現実にあり、そのことを当該部品等の生産、譲渡等をした者において認識、認容していることを要すると解するべきである。

他方、主観的要件②について、部品等の生産、譲渡等をする者において、当該部品等の個々の生産、譲渡等の行為の際に、当該部品等が個々の譲渡先等で現実に特許発明の実施に用いられることの認識を必要とすると解するのでは、当該部品等の譲渡等により特許権侵害が惹起される蓋然性が高い状況が現実にあることを認識、認容している場合でも、個別の譲渡先等の用途を現実に認識していない限り特許権の効力が及ばないこととなり、直接侵害につながる蓋然性の高い予備的行為に特許権の効力を及ぼすとの特許法101条2号のそもそもの趣旨に沿わないと解される。

以上を勘案すると、主観的要件②が認められるためには、当該部品等の性質、その客観的利用状況、提供方法等に照らし、当該部品等を購入等する者のうち例外的とはいえない範囲の者が当該製品を特許権侵害に利用する蓋然性が高い状況が現に存在し、部品等の生産、譲渡等をする者において、そのことを認識、認容していることを要し、またそれで足りると解するのが相当であり、このように解することは、「その物がその発明の実施に用いられることを知りながら」との文言に照らしても、不合理とはいえない。

……以上によれば、一審被告は、被告表示器A及び被告製品3が本件発明1の実施に用いられることを知りながら、その生産、譲渡等をし、また、被告製品3に係るコンピュータ・プログラムを使用許諾(プログラムにおいては、使用許諾が貸渡しに当たると解される。)したと認められる。

したがって、一審被告による平成25年4月2日以降の被告表示器A及び被告製品3の生産、譲渡等について特許法101条2号の間接侵害が成立する。

102条1項に基づく損害

適用関係

存続期間の満了により、本件特許権1の侵害行為は令和2年3月31日までに終了しているところ、令和元年法律第3号による改正後の特許法102条1項は令和2年4月1日から施行されたものであるが、改正法附則には経過措置がないことから、本件特許権1の侵害行為には、上記改正後の特許法102条1項が適用される。

一審被告は、改正法を遡及適用せずに旧1項を適用すべきであると主張するが(……)、改正後の特許法102条1項2号は、実施相応数量を超える数量又は特定数量(通常実施権を許諾し得た場合に限る)に応じた実施料相当額を損害の額とするものであるところ、その実施相当額の損害が実体法上生じ得ないものとはいえないから、改正法が実体法上の請求権を新たに創設したものとはいえない。したがって、同号は、客観的には改正前から損害を構成するといえた実体法上の損害を推定する規定にとどまるものといえるから、一審被告の上記主張を採用することはできない。

間接侵害への102条1項の適用可否

特許法102条1項本文は、侵害者が「侵害の行為を組成した物」を「譲渡した…数量」に、特許権者等が「その侵害行為がなければ販売することができた物」の「単位数量当たりの利益の額」を乗じて得た額を、特許権者等が受けた損害の額とすることができる旨を定める。この規定は、侵害行為がなければ特許権者等が利益を得たであろうという関係があり、そのために特許権者等に損害が発生したと認められることを前提に、特許権者等の損害額の立証負担を軽減する趣旨に基づくものであるが、そこに定める損害額の算定方法からすると、これにより算定される損害の額は、特許権者等の「その侵害行為がなければ販売することができた物」の逸失利益に係る損害の額であることを前提にしており、さらに、侵害者の「侵害の行為を組成した物」の譲渡行為と特許権者等の「その侵害行為がなければ販売することができた物」の販売行為とが同一の市場において競合する関係にあることも前提としているものと解される。

他方、物の発明に係る間接侵害が対象とするのは、実施品の「生産に用いる物」の譲渡等であり、実施品を構成する部品だけでなく、実施品を生産するための道具や原料等の譲渡等もこれに含まれるから、必ずしも侵害者の間接侵害品の譲渡行為と特許権者等の製品(部品等のこともあれば完成品のこともある)の販売行為とが同一の市場において競合するとは限らない。そして、本件のように間接侵害品が部品であり、特許権者等が販売する物が完成品である場合には、前者は部品市場、後者は完成品市場を対象とするものであるから、両者の譲渡・販売行為が、直接的には、同一の市場において競合するわけではない。しかし、この場合も、間接侵害品たる部品を用いて生産された直接侵害品たる実施品と、特許権者等が販売する完成品とは、間接的には、同一の完成品市場の利益をめぐって競合しており、いずれにも同じ機能を担う部品が包含されている。そうすると、完成品市場における部品相当部分の市場利益に関する限りでは、間接侵害品たる部品の譲渡行為は、それを用いた完成品の生産行為又は譲渡行為を介して、特許権者等の完成品に包含される部品相当部分の販売行為と競合する関係にあるといえるから、その限りにおいて本件のような間接侵害行為にも特許法102条1項を適用することができる。

「その侵害の行為がなければ販売することができた物」

「その侵害の行為がなければ販売することができた物」とは、侵害行為によってその販売数量に影響を受ける特許権者又は専用実施権者(以下「特許権者等」という。)の製品、すなわち、侵害品と市場において競合関係に立つ特許権者等の製品であれば足りると解すべきである。 そして、……、本件のような間接侵害の場合の「侵害の行為がなければ販売することができた物」とは、特許権者等が販売する完成品のうちの、侵害者の間接侵害品相当部分をいうものと解するのが相当である。

これを本件についてみると、……、原告の製品と被告製品3のOSをインストールした被告表示器Aは、その用途が同一である同等の代替品といえるから、原告の製品のソフトウェア部分に相当する部分は、被告製品3の生産等の「侵害の行為がなければ販売することができた物」といえ、原告の製品のハードウェア部分に相当する部分は、被告表示器Aの生産等の「侵害の行為がなければ販売することができた物」といえる。結局、本件においては、原告の製品全体が、「その侵害の行為がなければ販売することができた物」と認められる。

……「侵害の行為がなければ販売することができた物」に該当するためには、市場全体の構成からみて、侵害品と競合関係に立ち得る特許権者等の製品であれば足りるのであり、特定の顧客を念頭に置いて、仮に、当該侵害品がなければ当該顧客が権利者製品を代替として購入したとの関係までもが求められているものではない。プログラマブル・コントローラとプログラマブル表示器との間の適合性が限定されているとしても、いまだプログラマブル・コントローラを保持していない者、表示器に適合するプログラマブル・コントローラを既に保持している者ら(これらの者は原告の製品を購入するに支障を有していない。)も潜在的な顧客に含めて市場での競合関係を検討することで足りるから、原告の製品に適合するプログラマブル・コントローラを保持している者のみを対象として市場での競合関係を論ずべきものではない。

「単位数量当たりの利益の額」

原告の製品の1台当たりの限界利益の額が別紙……のとおりであることは、当事者間に争いがない。

「その侵害の行為を組成した物」の譲渡数量等

間接侵害行為は特許権を「侵害するものとみなす」(特許法101条)とされており、そして、特許権侵害の損害の額について、「その侵害の行為を組成した物」(同法102条1項)とされているところ、前記……のとおり、間接侵害にも同法102条の適用があると解する以上、「侵害の行為を組成した物」とは間接侵害品を指すものと解するべきである。

もっとも、特許法101条2号に係る間接侵害品たる部品等は、特許権を侵害しない用途ないし態様で使用することができるものである。そして、そのような部品等の譲渡は、当該部品等の譲渡等により特許権侵害が惹起される蓋然性が高いと認められる場合には、譲渡先での使用用途ないし態様のいかんを問わず、間接侵害行為を構成するが、実際に譲渡先で特許権を侵害する用途ないし態様で使用されていない場合には、結果的には、間接侵害品の売上げに当該特許権が寄与していない。そうすると、そのような譲渡先については、間接侵害行為がなければ特許権者の製品が販売できたとはいえないことになり、特許権者等に特許発明の物の譲渡による得べかりし利益の損害は発生しないので、当該物の譲渡によって得た利益の額を特許権者等が受けた損害の額と推定することはできないというべきである。そして、このような場合は同法102条1項1号の「販売することができないとする事情」に該当するものと解するのが相当である。一審被告の主張は、仮に、直接侵害品の生産に用いられた数量のみを損害算定の基礎とすべき主張が採用されない場合には、同一の事情を「販売することができないとする事情」として主張するとの趣旨も含むものと解され、その限度で採用することができる。

したがって、特許権者等の損害額の算定に当たっては、そのような販売数量は、特許法102条1項の「譲渡数量」から控除されると解するのが相当である。

「販売することができないとする事情」

販売することができないとする事情(その1)

一審被告は、①原告の製品が一審原告製のプログラマブル・コントローラにしか接続できないこと、②一審原告がプログラマブル・コントローラ用表示器の市場において意味のあるシェアを有しておらず、本件発明1の技術的特徴による販売への貢献も極めてわずかであるから、被告表示器A及び被告製品3の購入者のほとんどは、一審原告以外のメーカーの製品を購入する、③原告の製品は本件発明1の実施品ではないから本件特許権1の侵害によって一審原告に損害が発生する余地はない旨を主張する(以下、この主張に係る事情を「販売することができないとする事情(その1)」という。)。

特許法102条1項1号の「販売することができないとする事情」とは、侵害行為と特許権者の製品の販売減少との相当因果関係を阻害する事情をいうものである。

本件発明1の特徴的技術手段は、異常発生時におけるタッチによる接点検索にすぎず、回路モニタ機能全体ではないこと……は、……認定したとおりである。……加えて、本件発明1の特徴的技術手段である接点検索は、原告の製品にですら実施されていないものであり、この特徴的技術手段が原告の製品の販売に貢献していないことは明らかである。しかも、この特徴的手段である接点検索は、被告表示器A及び被告製品3の多数の機能のうち、わずか一点に関するものであって、その機能の極めて僅少な部分しか占めない。

以上からすると、本件発明1の技術的特徴部分が被告表示器A及び被告製品3の販売数に大きく寄与したものとはおよそ想定し難い。また、……被告表示器A及び被告製品3が本件発明1の特徴的技術部分を備えないことによってわずかに販売数が減少したとしても、その減少数分を埋め合わせる需要が、全て一審原告の方に向かうとも想定し難い。

したがって、本件では、被告表示器A及び被告製品3が本件特許1を侵害したことによって原告の製品が販売減少したとの相当因果関係は、著しい程度で阻害されると認めるべきであり、被告表示器Aの販売数の99%について販売することができないとする事情があると認めるのが相当である。

販売することができないとする事情(その2)

前記……のとおり、一審被告が直接侵害品の生産に用いられた被告表示器Aの数量として主張するところは、「販売することができないとする事情」の一要素として考慮することができるところ、一審被告は、……、①輸出の除外、②プログラマブル・コントローラに接続しない利用態様の除外、③一審被告製シーケンサ等に接続する利用態様の割合から算出される事情、④対応シーケンサ等に接続する利用態様の割合から算出される事情、⑤被告製品1-2についてオプション機能ボートを購入した割合から算出される事情、⑥ワンタッチ回路ジャンプ機能を用いるプロジェクトデータを有する被告表示器Aの割合から算出される事情を主張する(……。以下、この主張に係る事情を「販売することができないとする事情(その2)」という。)。

……以上の観点から検討するところ、上記①、②、⑤については、直接侵害品の生産に用いられる被告表示器Aの数量に与える影響はわずか、あるいは少ないが、上記④及び⑥については直接侵害品の生産に用いられる被告表示器Aの数量に与える影響はかなり大きく、③についても少なからぬ影響があるというべきである。なお、ここまでにおいて、これらの事情を独立の要素として考慮したが、例えば、ワンタッチ回路ジャンプ機能を用いるプロジェクトデータを作成するユーザは回路モニタ機能等を使用できる機器を有しているなど、これらの要素は相互に関連性を有する場合もあり得る。そこで、このような点も加味して、上記事情を総合考慮すると、被告表示器Aの販売数の●●%が直接侵害品の生産には用いられなかったものと推認することが相当である。したがって、この限度において、「販売することができないとする事情」があると認める。

……以上のとおり「販売することができないとする事情(その1)」として、主に本件発明1の売上げへの貢献に関する観点からの99%の控除と「販売することができないとする事情(その2)」として、直接侵害品の生産に用いられていないとの観点からの●●%の控除が認められ、両者は独立して考慮できる控除要素であるから、結局……、被告表示器Aの譲渡数量から、99%の譲渡数量を控除し、更にその数量から●●%の譲渡数量を控除した数量(控除数量は、●●●●%となる。)について「販売することがのできないとする事情」を認めるのが相当である(……)。

特許法102条1項2号

特許法102条1項2号は、特定数量がある場合、その数量に応じた実施料に相当する額を損害の額とすることができると定める一方で、同号括弧書きは、特許権者等が当該特許権者等の特許権について実施権の許諾をし得たと認められない部分を除く部分を除外しているから、侵害者の侵害行為により特許権者がライセンスの機会を喪失したとはいえない場合には実施料に相当する額の逸失利益が生じるものではないことが規定されている。

前記……のとおり、本件において認められた特定数量は本件発明1の特徴的技術部分が被告表示器A及び被告製品3の販売量に貢献しているとは認められない数量、機能上の制約あるいは一審原告のシェア割合からみてユーザの需要が原告の製品に向かず、一審原告以外の他社への購入に振り向けられる数量、直接侵害品の生産に向けられず本件発明1の技術的範囲に属しない表示器となる数量を合わせたものであるから、そのように本件発明1が販売数量に貢献し得ていない製品や一審被告以外の他社が販売する製品について、一審原告が一審被告に本件発明1をライセンスし得るとは認められない。

そうすると、特許法102条1項2号の損害を認めることはできない。

102条2項に基づく損害

間接侵害への102条2項への適用可否

特許法102条2項は、侵害者が侵害行為により受けた利益の額を特許権者等が受けた損害の額と推定すると定めるところ、この規定の趣旨は先に同条1項について述べたのと同様であると解される。したがって、先に同条1項について述べたのと同様の考え方の下に、本件において同条2項の適用を肯定するのが相当である。

推定覆滅事由

特許法102条2項は推定規定であるから、侵害者の側で、侵害者が得た利益の一部又は全部について、特許権者が受けた損害との相当因果関係が欠けることを主張立証した場合には、その限度で上記推定は覆滅されるものと解される。

ここで、特許法101条2号の間接侵害品が実際には直接侵害品の生産に用いられることがなかった場合には、結果的にみれば、当該間接侵害品の譲渡行為がなければ特許発明の物を譲渡することができたという関係にはなく、特許権者に特許発明の物の譲渡により得べかりし利益の損害は発生しないので、当該物の譲渡によって得た利益の額を特許権者が受けた損害の額と推定することはできないというべきであるから、このような場合は同法102条2項の推定を覆す事情に該当するものと解するのが相当である。そうすると、先に特許法102条1項1号について述べた事情(……以下「推定覆滅事由(その1)」という。)は、特許法102条2項の推定覆事由として捉えることができるから、被告表示器A及び被告製品3の利益の99%について覆滅事由があると認めるのが相当である。さらに、被告表示器A及び被告製品3のうち、直接侵害品の生産に用いられなかった分については一審原告の受けた損害額であるとの推定を覆す事情(以下「推定覆滅事由(その2)」という。)があるというべきであるところ、直接侵害品の生産に用いられなかった被告表示器Aの数は、前記……と同旨の理由により、全体の●●%に及ぶと認められるから、●●%の利益について推定が覆滅されるものと認めるのが相当である。また、被告製品3についても、直接侵害品の生産に用いられたものと、そうではないものとが生じるが、特にどちらかに偏るべき事情はうかがわれないから、そのインストール先の表示器Aと同様の割合で、その●●%の利益について推定が覆滅されるものと認めるのが相当である。

以上のとおりであり、推定覆滅事由(その1)として、主に本件発明1の売上げへ貢献に関する観点から導いた99%の減額と推定覆滅事由(その2)として、直接侵害品の生産に用いられているかの観点から導いた●●%の減額が認められ、両者は独立して考慮できる減額要素であるから、結局、受けた利益のうち、●●●●%の額について推定覆滅事由を認めるのが相当である(……)。

特許法102条3項の重畳適用

仮に、特許法の解釈上、特許法102条2項と3項の重畳適用が排除されていないとしても、その適用は同条1項2号の趣旨にかなったものとなるのが相当と思料されるべきところ、本件においては、同条2項の覆滅事由は前記……のとおり、そもそも同条1項2号の適用のない場合であるから、同条3項を重畳適用できる事案ではない。


  1. 伏字は裁判所ウェブページ掲載のPDFファイルのまま。

  2. もっとも、読点が「、」か「,」かで、本判決(知財高裁判決)か原判決(大阪地裁判決)かを区別可能ではある。

  3. 引用者注:特許権の存続期間満了のため。

  4. 原判決では以下のように述べ、被告表示器Aについては、課題解決不可欠品ではないと判断していた:「本件発明1の特徴的技術手段との関係についてみると,被告表示器Aは,被告製品3がインストールされたパソコンで,動作設定を「回路モニタ」とする拡張機能スイッチが配置されたプロジェクトデータを作成することを前提に,被告製品3によってインストールされたプログラムで異常現象の発生がモニタされたときに,プログラムに従って,ラダー回路を表示し,そのタッチパネル上での入出力要素をタッチしてその検索結果を表示するものにすぎない。すなわち,被告表示器Aはプログラムに従ってラダー回路等の表示やタッチパネル上のタッチや検索結果の表示を可能としているにすぎないが,これらは従来技術においても採用されていた構成にすぎない。したがって,被告表示器Aは,本件発明1の特徴的技術手段を直接もたらすものに当たるとは認められない。