特許法の八衢

棋譜の「限定提供データ」相当蓄積性の充足性

はじめに

棋譜は不正競争防止法上の「限定提供データ」として保護できるかも知れない、との伊藤雅浩弁護士のTweetに触発され、棋譜と「相当蓄積性」(後述)との関係について思い浮かんだことを、以下に記す。

ただし私は、不正競争防止法はもちろん、将棋についてもルールすら覚束ない程度の素人なので、大外れの検討をしている可能性大である。

対象とするデータ

本稿では、将棋「1局分」の棋譜データを検討対象とする。初手から終局までの1手1手の情報(「2六歩」等。1手にかかった時間等も含めてもよい)で構成され、通常は100手ほどの情報が含まれるデータである。

ここで、複数局の情報が集まった棋譜データベースは対象としていないことに留意されたい。こうした棋譜データベースが「限定提供データ」として認められたとしても、そこから1局分の棋譜データを取得等することは(1局分の棋譜データ自体も「限定提供データ」と認められなければ)原則として不正競争行為とはならない*1

相当蓄積性

不正競争防止法が「限定提供データ」に要求するものの一つに、「電磁的方法(……)により相当量蓄積され」ていること(相当蓄積性)がある(2条7項)。

相当蓄積性について、立案担当者解説は「「相当量」は、個々のデータの性質に応じて判断されることとなるが、社会通念上、電磁的方法により蓄積されることによって価値を有するものが該当する。その判断に当たっては、当該データが電磁的方法により蓄積されることで生み出される付加価値、利活用の可能性、取引価格、収集・解析に当たって投じられた労力・時間・費用等が勘案されるものと考えられる。」と述べる*2棋譜における「個々のデータ」とは、1手1手の情報となろう。

以下、各考慮要素について見ていく。

電磁的方法により蓄積されることで生み出される付加価値、利活用の可能性

まず、手の情報が1局分「電磁的方法により蓄積されることで生み出される付加価値、利活用の可能性」の有無について検討する。

1局分の手の情報が集まることで、当該1局の勝敗に至る道筋が把握でき、それを分析(利活用)することによって、どのような局面でどのような手を指せば勝利に繋がるのか理解できる可能性があるため、「蓄積されることで生み出される付加価値、利活用の可能性」は有ると言える。

もっとも、それを「電磁的方法により蓄積されることで生み出される付加価値、利活用の可能性」が有ると言ってよいのか疑問が残る。「電磁的方法による蓄積、管理による付加価値がいまだ生み出されていないような規模に止まる場合(e.g. 合理的な範囲内の手作業でも到達しうる量の場合)には「相当量」とはいえないと解することになろう。」との見解*3、すなわち情報が「電磁的方法により蓄積されることで」初めてもたらされる付加価値等を要求する見解もあるところ、1局分の手数は、まさに手作業で到達した量であるからである*4

取引価格

「取引価格」については、例えば月額500円ほどで15年分以上の名人戦七番勝負・順位戦の対局の棋譜が全て閲覧できるので、棋譜の取引価格は非常に低廉ということになろう。

収集・解析に当たって投じられた労力・時間・費用

1手1手の情報の「収集・解析」自体については、棋士が何の駒を盤上のどこに置いたかを順次記録していけばよいので、「労力」「費用」はほとんど要していない。「収集・解析」の「時間」も、対局時間(長くて2日間)に止まり、大きなものとは言えまい。

もっとも、1手1手が生み出されるには、棋士の膨大な「労力・時間・費用」が投じられている。相当蓄積性の考慮要素として、こうした個々のデータを生成するに要したコストを加えてよいのか否かは論点となろう。

さしあたりの結論

以上を勘案すると、棋譜が相当蓄積性を満たすとは必ずしも言い切れないように思われる。

追記(2019-09-16 7:55)

上記をアップロード後に、伊藤雅浩弁護士が「棋譜データは「限定提供データ」として保護されるか」というブログ記事を投稿された。

そこでは、「「相当蓄積性」も問題になるが,連盟モバイルアプリや順位戦中継サイトの場合は,過去の一定期間に中継された棋譜が閲覧可能になっていることから,「蓄積されることによって価値を有する」といえるから,相当蓄積性も満たすといえると思われる。」と述べられている。

私の読解力不足ゆえ、論理がうまく読み取れなかったのだが、次のいずれかを仰っているのだろうか:

  1. 収集(対局)から一定期間を経た、ある1局の棋譜がいまだ閲覧可能になっているとなっていることは、当該1局の棋譜が一定期間蓄積されると(蓄積されても)価値があることを示しており、「相当蓄積性」を満たす
  2. 一定期間分の対局数の棋譜が閲覧可能となっていることは、棋譜が複数局分蓄積されることに価値があることを示しており、「相当蓄積性」を満たす

まず1については、蓄積される時間(期間)に着目した論理だと考えられるが、「相当蓄積性」は(「相当蓄積され」という条文文言から明らかなように)「量」に関する要件であるため、相当蓄積性の充足を判断する論理として成立しないように思われる。

また2は、「量」に着目しているが、棋譜の量(数)に着目しているところ、「相当蓄積性」の判断で着目すべきは(限定提供データに該当するか否かの判断対象である、棋譜そのものの量ではなく)棋譜を構成する個々のデータ(すなわち「手」のデータ)の量であるため*5 *6、こちらも相当蓄積性充足の判断論理として成り立たないように思われる。
2019-09-16 22:04 上記取り消し線を追加。
(伊藤先生と私とでは、「相当蓄積性」充足性の判断対象とするデータセットが異なっていたようです。詳細は、伊藤先生の上記ブログ記事に私が書き込んだ、2つ目のコメントを参照ください。)

*1:経済産業省 知的財産政策室編『逐条解説 不正競争防止法 令和元年7月1日施行版』PDF444頁

*2:経済産業省 知的財産政策室編・前掲PDF59頁

*3:田村善之「限定提供データの不正利用行為に対する規制の新設について―平成30年不正競争防止法改正の検討」高林龍・三村量一・上野達弘編『年報知的財産法2018-2019』(日本評論社,2018)34頁

*4:1手1手の情報が「電磁的方法により」1局分蓄積されることにより、コンピュータで解析しやすくなるといったメリットはあろうが、それは(どんな[量の]情報でも共通する)電子化のメリットであるため、相当蓄積性の判断において考慮し得ないように思われる。

*5:このように、「相当量蓄積され」は「限定提供データを構成する(個々の)データが相当量蓄積され」と解さないと、「全国エリアの携帯電話の位置情報」データセットといった典型的なビッグデータが相当蓄積性を満たさなくなる。そのようなデータセットは1つしか存在しないためである。

*6:蛇足ながら、「限定提供データ」ではなく「限定提供データセット」といった名称が適切だったように思う。

最三小判令和元年8月27日(平成30年(行ヒ)第69号)後の差戻審についての覚書

最三小判令和元年8月27日(平成30年(行ヒ)第69号)を受けて、差戻審では、新たな手法により効果顕著性を判断することとなるところ、最終的に出される結論は(和解を除くと)次の3通りだろう:

  1. 効果顕著性の存在を認めず、進歩性否定
  2. 効果顕著性の存在を認め、進歩性肯定
  3. 効果顕著性の存在を認めるも、進歩性否定

1番目の結論は、「効果顕著性について、最高裁からその調べ方が悪いと言われたので、別の(適切な)方法で調べてみたけれども、やっぱりありませんでした。したがって結論は前と変わりません」というものなので、この場合、進歩性の判断枠組みや前訴判決(平成26年知財高判)の拘束力については(今以上には)問題とならないだろう。

2番目の結論の場合、差戻審は、効果の独立要件説を採ったのであり、前訴判決の拘束力が及ぶ範囲は容易想到性判断までである(=進歩性全体の判断には及ばない)と判断したことになろう。

3番目の結論では、差戻審は、効果の二次的考慮説を採ったこととなる。この場合、効果顕著性が存在してもなお、進歩性を否定するならば、平成29年知財高判においてなぜ効果顕著性を判断したのかについて、説明が必要であるように思う*1

2020-06-18追記

差戻審判決(知財高判令和2年6月17日(令和元年(行ケ)第10118号))が公開された。

本件発明1の効果は,当該発明の構成が奏するものとして当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものであると認められるから,当業者が容易に発明をすることができたものと認めることはできない。
差戻審判決書PDF版53頁)
等と判示し、差戻審は、上記2番目の結論「効果顕著性の存在を認め、進歩性肯定」を採っている。

そして、

前訴判決は,本件各発明について,その発明の構成に至る動機付けがあると判断しているところ,発明の構成に至る動機付けがある場合であっても,優先日当時,当該発明の効果が,当該発明の構成が奏するものとして当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである場合には,当該発明は,当業者が容易に発明をすることができたとは認められないから,前訴判決は,このような予測できない顕著な効果があるかどうかまで判断したものではなく,この点には,前訴判決の拘束力(行政事件訴訟法33条1項)は及ばないものと解される。
(同48頁)

と判示していることから、上述の通り、「差戻審は、効果の独立要件説を採ったのであり、前訴判決の拘束力が及ぶ範囲は容易想到性判断までである(=進歩性全体の判断には及ばない)と判断した」ことが分かる(私の用語の選択に問題があるのだが、ここでの「容易想到性」は、差戻審判決における「発明の構成に至る動機付け」と同義であり、「進歩性全体」は、差戻審判決における「当業者が容易に発明をすることができた[か否か]」と同義であると思っていただきたい)。

*1:その説明として「効果顕著性にも強さ(段階)があり、本件発明の効果は顕著ではあるけれども、進歩性否定を導く考慮要素(動機付けの存在や阻害要因の不存在など)を打ち消すほどは強くなかった」(平成29年知財高判においては、効果顕著性の程度を判断するつもりであったが、その前提となる効果顕著性がそもそも存在しないとの結論となった)というのはあり得るのかも知れない。このような「効果顕著性の強さ」という概念を持ち出すと、2番目の結論である場合も、単純に独立要件説を採ったとは言えなくなる。

最高裁は効果の独立要件説を採ったのか?

はじめに

最三小判令和元年8月27日(平成30年(行ヒ)第69号)において、最高裁は、進歩性判断での発明の効果の取り扱いにつき(「二次的考慮説」ではなく)「独立要件説」を採ったという見解がある*1 *2

しかし、私には、最高裁が独立要件説を採ったとは感じられなかったため、以下に愚考を記す次第である*3

なお、用語は、基本的に、本最高裁判決に従った。

「進歩性」との用語

まず、本最高裁判決では、「(非)容易想到性」といった語ではなく、「進歩性」という語を用いているから、独立要件説と親和性が高いとの見解がある*4

しかしながら、最高裁はこれまで幾度か「進歩性」という用語を使っており*5、本最高裁判決も単にそれを踏襲したものと見るべきであろう。

破棄理由

原審(知財高判平成29年11月21日(平成29年(行ケ)第10003号)) の判断枠組みは、【効果顕著性がなければ審決を取り消せる】であり*6、【効果顕著性がなければ審決を取り消せる一方、効果顕著性があれば審決が維持される】というものではない。

そして、最高裁は、「原審は,結局のところ,……本件化合物を本件各発明に係る用途に適用することを容易に想到することができたことを前提として,本件化合物と同等の効果を有する本件他の各化合物が存在することが優先日当時知られていたということのみから直ちに,本件各発明の効果が予測できない顕著なものであることを否定して本件審決を取り消したものとみるほかなく,このような原審の判断には,法令の解釈適用を誤った違法があるといわざるを得ない。」(本最高裁判決PDF版6頁;下線略[以下同])と判断して原審判決を破棄しているに止まる。

ここから、最高裁は、原審の判断枠組みを前提とした上で、ただ、【効果顕著性がなければ】という条件の充足性に対する原審の判断手法について違法性を見たに過ぎないことが分かる。

最高裁が差戻審へ求める審理

さらに、最高裁が「本件各発明についての予測できない顕著な効果の有無につき更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。」(本最高裁判決PDF版6頁;強調引用者[以下同])と述べていることから、効果顕著性があっても進歩性が否定できるという余地を残しているとも解釈できるのではないか。効果顕著性の有無ですべてが決するのならば、「等」を付ける意義はないからである。

「本件化合物を本件各発明に係る用途に適用することを容易に想到することができたことを前提として」

ところで、本最高裁判決の「本件化合物を本件各発明に係る用途に適用することを容易に想到することができたことを前提として」(本最高裁判決PDF版6頁)との表現は何を意味するのだろうか。一見すると、独立要件説に親和的なようにも思われる。容易想到な構成であっても、効果顕著性がありさえすれば進歩性が認められることを示唆している感があるためである。

しかし、これは、原審判決の「本件発明1の効果は,当業者において,引用発明1及び引用発明2から容易に想到する本件発明1の構成を前提として,予測し難い顕著なものであるということはできず,本件審決における本件発明1の効果に係る判断には誤りがある。」(原審判決書PDF版31頁),「引用発明1及び引用発明2から容易に想到する本件発明2の構成を前提として,予測し難い顕著なものであるということはできないことから,本件審決における本件発明2の効果に係る判断にも誤りがある。」(原審判決書PDF版31-32頁)との原審判決の結論に直結する理由付け(最高裁が今般破棄すべき部分)を受けた表現にすぎない*7

この原審の判示が意味するところは、私には不明であるが、原審が「発明の容易想到性は,主引用発明に副引用発明を適用する動機付けや阻害要因の有無のほか,当該発明における予測し難い顕著な効果の有無等も考慮して判断されるべきものである。」(原審判決書PDF版27-28頁)と二次的考慮説に近い立場を示していることからして、独立要件説を示すものとは考えがたい。効果顕著性の判断は発明の構成が基準となるという最高裁と同様の考え方を原審が述べているのかも知れない。

結論

以上述べたように、私には、最高裁が独立要件説を採ったという根拠を見出すことはできなかった。独立要件説か二次的考慮説かという問題は、いまだ解決していないと考える。

更新履歴

2019-08-31 公開
2019-09-01 引用文献表記の微修正
2019-09-26 注釈1への追記

*1:例えば、高石秀樹弁護士のTweet。[2019-09-26追記:その後公開された、高石弁護士の本件最判判批では、「進歩性判断における「予測できない顕著な効果」の位置付けとの関係は、①の考え方は“従属要件説”(=「二次的考慮説」、「間接事実説」、「評価障害事実説」)、②の考え方は“独立要件説”に対応するものである。本最高裁判決及び原判決が進歩性を判断した審決取消訴訟の判決の拘束力の範囲について上記①・②の何れの考え方に立脚したかについては諸説あり得るが、……理論的・形式的には、上記②の考え方に親和的であり、進歩性判断における「予測できない顕著な効果」の位置付けについては“独立要件説”に親和的であったと評価できる。」としつつも、「もっとも、本最高裁判決及び原判決は、上記①・②の何れの考え方に立脚するかという点を棚上げにしたものとも理解可能である。」とも述べられている。]

*2:「独立要件説」と「二次的考慮説」との対立については、例えば、田村善之「『進歩性』(非容易推考性)要件の意義:顕著な効果の取扱い」パテント69巻5号(別冊15号)(2016)1頁以下参照。

*3:結論において、想特一三「予測できない顕著な効果を否定できない限り進歩性を否定することはできないのか(「アレルギー性眼疾患」事件最高裁判決,平成30(行ヒ)69,令和元年8月27日判決)」『そーとく日記』と同。

*4:岩永利彦「最高裁平成30(行ヒ)69号(令和元年8月27日判決)」『理系弁護土の何でもノート』

*5:例えば、最二小判平成3年3月8日(昭和62年(行ツ)第3号)には「特許法二九条一項及び二項所定の特許要件、すなわち、特許出願に係る発明の新規性及び進歩性について審理するに当たっては」との判示がある。

*6:原審が(少なくとも本件発明1については)前訴判決の拘束力を理由に本件審決を取り消すことも可能であったのに、そうはしないで、効果顕著性を判断して審決を取り消した理由は不明である。この点につき、興津征雄「特許審決取消判決の拘束力の範囲」知的財産法政策学研究53号(2019)245頁注71は、「裁判所として、当該紛争を解決するために、その判断を示すことが必要だ(そうしなければこの論点[引用者注:効果顕著性]が再び審判で蒸し返される懸念がある)と考えたためではないか」と述べる。もしその通りであったのならば、本件最高裁判決は非常に皮肉な結果である。

*7:なお、原審判決では「本件発明1の構成」「本件発明2の構成」となっている部分が、最高裁判決では「本件各発明に係る用途に適用すること」となっている点については、本件発明2の発明特定事項として「ヒト結膜肥満細胞からのヒスタミン放出を66.7%以上阻害する」という(顕著性の有無を判断すべき)効果そのものが含まれていることを最高裁が考慮したためだと思われる。

CAFC判決を読む ― Forum US, Inc. v. Flow Valve, LLC (Fed. Cir. 2019)を素材に ―

はじめに

2019年7月17日付のCAFC判決Forum US, Inc. v. Flow Valve, LLC の判例速報(Slip Opinion)をただただ読んで(見て)いく、という内容である。

以下、Slip Opinionの抜粋(黄色くマークアップしたのは引用者である)を見て、簡単な説明を加えていく。“Page”はSlip Opinionのページ数を指す。

誤りを見つけたら、ご指摘いただければ幸いである。

Page 1

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まず、precedentialな判決であることが分かる。nonprecedentialなものであれば、“United States Court of Appeals”と書かれている部分の上に“NOTE: This disposition is nonprecedential.”との記載があるからである。

次いで、Forum USとFlow Valveとの争いであること、さらに“Plaintiff-Appellee”, “Defendant-Appellant”と書かれていることから、Forum USが原審原告・被上訴人、Flow Valveが原審被告・上訴人であることが分かる。その下の“2018-1765”というのは、本事件の事件番号(case number)である。

その下には、本件がオクラホマ州東部地区連邦地裁の事件(事件番号:5:17-cv-00495-F)からの上訴審であると書かれている。

“Decided: June 17, 2019”は判決日を示している。

1ページ目には、さらに当事者の代理人に関する情報が続いている。

Page 2

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Reyna, Schall, Hughes判事が合議体を構成し、Reyna判事がこの判決を執筆した。反対意見について言及されていないので、全会一致であることも分かる。


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ここには、本判決の概要が書かれている。

Flow Valveが連邦地裁の“summary judgment”(“as a matter of law”との関係を含め後述)について上訴した。summary judgmentは、Reissue特許クレームが特許法(35 U.S.C [Title 35 of the United States Code])251条に従っておらず、特許無効との判断であった。そして、CAFCもこの地裁判断を維持(affirm)するというのが本判決の結論である。

ここからFlow Valveが(特許無効との判断に不服で上訴しているので)特許権者であろうことが分かるが、気になるのはFlow Valveが原審被告であったことだ。特許権侵害訴訟では、通常、特許権者が原告(の一人)だからである。


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ここからしばらく、本件で問題となったReissue特許の説明が続く。

先に予想したとおり、特許権者はFlow Valveであった。

ここで脚注が出てくる。CAFC(に限らないが)判決では脚注が多い。この脚注1は大した内容のものではないが、重要なものもあるため、CAFC判決を読む際には、脚注にも注意を払う必要がある。

id.”とは、ラテン語idemの略で、同じ文献(ここでは“Reissue patent”)の意である。なお、本判決では“Id.”との表記も出てくるが、両者に差はないと思われる。

Page 3

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このページも、特許の説明である。本来ならば特許公報を含めきちんと読むべきだが、ここでは、本件Reissue特許の発明の詳細な説明(written description)にも図面にも、“arbors”を備えている実施形態しか開示されていない点を確認するにとどめておく。

Page 4

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Reissue特許では、元の特許よりも権利範囲を広げ、“arbors”を備えるという限定のないクレームを追加したことが分かる。

Page 5

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Reissueで加わったClaim 14が引用されている。たしかに“arbors”の限定がない。

Page 6

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先のページで特許の発明も終わり、ここから事件の経緯が述べられている。

原審原告のForum USが求めたのは、Reissue特許無効との確認判決(declaratory judgment)であった*1。だから、特許権者が原告に含まれていなかったのである。

そして、Forum USは“summary judgment”を求めている。summary judgmentとは、重要な事実問題に関する真の争点(genuine issue of material fact)がない場合、すなわち法律問題(matter of law)のみが争点の場合に、trialを経ずに下される判決である*2

最後の“J.A.”というのは、joint appendixの略である。joint appendixとは、訴訟に関連する書面や判決を集めた文書である*3。ここでは、joint appendixの101ページから115ページに上述した事件の経緯が書かれていることを示している。


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原審被告Flow ValveはTerry Iafrateという専門家の意見陳述(expert declaration)を提出したが、地裁は原告を支持するsummary judgmentを下した。Reissue特許クレーム発明が、詳細な説明や図面に明示的に(“explicitly and unequivocally”)示されていないというのがその論拠である。

Antares Pharma, Inc. v. Medac Pharma Inc., 771 F.3d 1354 (Fed. Cir. 2014)という判例が引かれている。CAFC判決では基本的にBluebook形式での引用がされているところ、Bluebook形式の読み方は色々なところで解説されているが、ここでも簡単に述べておく。“F.3d”はFederal Reporter, 3rd Seriesという判例集の略語であり、Federal Reporter, 3rd Seriesの771集1354ページから掲載されているFederal CircuitすなわちCAFCの2014年の判決という意味である。

上述したIafrate氏の意見陳述は、重要な事実問題に関する真の争点を生じさせない、と地裁は判断し、その結果、summary judgmentが下されたのである。


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この地裁判決に対し、被告Flow Valveは上訴した。CAFCは28 U.S.C.の1295条(a)(1)に基づく管轄権(jurisdiction)を有しているため、これを審理できることを示している。


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CAFCは、地裁がsummary judgmentを下したことが妥当だったかについて、(地裁の判断を考慮せず)一から改めて(de novo)審理すると述べ、根拠となる判例が引かれている。ここで1575というのは関連する記載のあるページである。

Page 7

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根拠となるCAFC判決を挙げ、summary judgmentが適切に付与(grant)されたか否かを判断するにあたり、証拠をsummary judgmentを要求していない側にとって最も有利なように証拠を評価すると述べている。


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Reissue特許の新たなクレームが特許法251条に従っているか否かは、(de novoで審理される)法律問題(question of law)であるが、251条準拠についての法的結論(legal conclusion)には、基礎となる事実問題(question of fact)が含まれている。

原(original)特許とReissue特許とが同じ(same)発明に対するものか否かを判断することが必要となるが、法的文書(instruments)が、何を意味しているかではなく、何が現に記載されているかを理解するにあたり助けとなるよう、技術用語の意味を確かめるために専門家による証拠(expert evidence)を考慮することができる。

そして、Industrial Chemicalsという1942年の連邦最高裁判例が引かれている*4。“315 U.S. 668”の“U.S.”はUnited States Reportsという公式判例集を意味する*5


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本事案において、Reissue特許の新しいクレームが“original patent requirement”を満たしていないと判断する、というのが合議体の結論である。

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ここから、「拡大Reissueクレームに対しては、その発明が明細書に示唆されている(suggested or indicated)だけでは不十分である」というのが確立した規範であることが書かれている。

まず、Industrial Chemicals連邦最高裁判決では、1934年特許法64条*6の解釈として、この規範が述べられた。“same invention requirement”と知られるこの規範は、(その後)法典化された*7


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そして、1952年の法改正*8に際し、法文が“the same invention”から“the original patent”に変更された*9が、“same invention requirement”に変更はない、と本CAFC判決は述べる。


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ここでは、先ほどと同じことが表現を変えて、次のように述べられている:Reissueによって保護されるものが原特許により保護が意図されていたものであることが、法的文書の明示的記載(face)から明らかでなければならない、と。

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本事案にIndustrial Chemicals判決およびAntares判決で定立された規範を本事案に適用し、CAFC合議体は本Reissueクレームを無効と判断している。


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特許権者Flow Valveは、(Reissueクレームの対象である)“arbors”のない実施形態が原特許の文面に開示されていないことは争っておらず、その代わり、当業者であれば、明細書から“arbors”が付加的な要素であることは理解できると主張している。ここで、“Appellant Br.”とは、Appellant Brief、すなわち上訴人=特許権者Flow Valveの出した書面のことである。

この主張を支持するものとしてFlow ValveはIafrate氏の意見陳述を提出したが、これは重要な事実問題に関する真の争点を生じさせないと(地裁と同様)CAFC合議体も判断した。

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たとえ当業者が(明細書から)Reissueクレームを把握できても、Industrial ChemicalsおよびAntaresの規範を満たすには不十分である、と本判決は述べる。


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最後に、In re AmosというCAFC判決が、本判決と矛盾しないことが述べられている*10。In re Amosは、地裁のsummary judgmentでも言及されていたもので、拡大Reissue出願を拒絶したUSPTO審決を覆した判決である。

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結論が書かれている。これまで見てきたことから明らかなように、原審維持である。


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最後に訴訟費用負担について言及がある。Federal Rules of Appellate Procedure Rule 39には費用負担のデフォルトルールが規定されているが、裁判所が裁量でこのルールを変更可能である。本判決では、訴訟当事者各人が自身の費用を負担すべき旨が記されている。

本判決についての所感

米国におけるReissueは、特許権利化の後に、権利範囲(クレーム)を減縮のみならず拡大(減縮以外の変更)も可能という点で、世界的に見て特異なものである。

もっとも、クレームを自由に拡大できるという訳ではない。まず原特許付与から2年以内のReissue特許出願に限られるという時期的制限があり*11、さらにRecaptureに該当しないという内容的制限もある*12

そして本判決は、これら条件に加え、拡大後のクレーム内容が原特許(の明細書・図面)に明示的に現れていなければならないと説く。これは審査過程のクレーム補正要件とは異なる(厳しい)ものである*13

問題は、「原特許にどこまで記載されていれば、原特許に明示的に現れていると言えるのか」という点だが、これは本判決も引用するIn re AmosやRevolution Eyewear v. Aspex Eyewear, Inc.の事案が参考になるのであろう。

いずれにせよ、Reissueによりクレームを拡大しようとする(あるいは拡大させた)特許権者にとっては、やっかいな判例である。

更新履歴

  • 2019-07-15 とりあえず公開
  • 2019-08-04 「本判決についての所感」の追加および微修正
  • 2021-02-13 誤記修正

*1:このような訴訟提起に至った経緯は、原審の訴状(complaint)に記載されている。

*2:似たものに、iudgment as a matter of law (JMOL)があるが、こちらはtrial中に下されるものである。

*3:上訴人が提出するものであるが、その内容につき、原則として訴訟両当事者の合意が必要がある。なお、joint appendixのことが規定されているFederal Rules of Appellate Procedure Rule 30では、単に“appendix”と称されている。

*4:なお、本CAFC判決文では「consider expert “evidence」と書かれているが、「consider “expert evidence」の誤記であろう。

*5:古いものは議会図書館Webページから、新しいものは連邦最高裁Webページから、入手可能である。

*6:“[T]he commissioner shall, on the surrender of such patent and the payment of the duty required by law, cause a patent for the same invention, and in accordance with the corrected specification, to be reissued to the patentee or to his assigns or legal representatives, for the unexpired part of the term of the original patent.”https://www.loc.gov/item/uscode1934-001035002/

*7:判決では1870年法を挙げているが、1836年法で既に“same invention”との語が使われている。

*8:Reissueに関する規定は、251条及び252条に移動した。https://www.loc.gov/item/uscode1952-004035025/

*9:“[T]he Commissioner shall, on the surrender of such patent and the payment of the fee required by law, reissue the patent for the invention disclosed in the original patent, and in accordance with a new and amended application, for the unexpired part of the term of the original patent.”

*10:さらに、脚注2で、(このIn re Amosを引用する)Revolution Eyewear v. Aspex Eyewear, Inc. 563 F.3d 1358 (Fed. Cir. 2009)にも言及している。

*11:特許法251条(d)。もっとも、In re Staats, 671 F.3d 1350 (Fed. Cir. 2012).

*12:例えば、MBO Laboratories, Inc. v. Becton, Dickinson & Co. 602 F.3d 1306 (Fed. Cir. 2010).

*13:本判決が(拡大Reissueの有効性が問題となった)Industrial Chemicals連邦最高裁判決等を根拠としているため、本判決の射程は、審査過程におけるクレーム補正や、権利範囲を縮小するReissueには及ばないと思われる。

CAFCについての覚書

はじめに

米国特許法制を学ぶ上で、連邦巡回区控訴裁判所*1 (United States Court of Appeals for the Federal Circuit; CAFC*2 )の判決を読むことは、(最近は連邦最高裁に判決を覆されることが多いとは言え)いまだ重要であろう。

まともな知財教育環境にいれば、CAFC判決の読み方を教わるのかも知れないが、そのような環境下になかった私は、判決を読むのにいつも苦労している。それでも読んでいく中で、多少は知識が得られたので、本稿ではそれをまとめてみた。

恵まれた教育環境に居ない方々のお役に少しでも立てれば幸いである。また、上記のように私はまともに知財および法学教育を受けていないので、誤りがあれば、ご指摘いただきたい。

管轄

CAFCは、特許(patent)に関する連邦地裁の終局判決(final decision)や中間命令・判決(interlocutory order or decree)に対する上訴事件について専属管轄権(exclusive jurisdiction)を持ち*3、また、米国特許商標庁の特許審判部(Patent Trial and Appeal Board; PTAB)の審決(decision)へ不服申立て事件の専属管轄権も持つ*4*5

CAFCでの「特許」以外の知的財産の取り扱いについても、簡単に触れておこう*6

米国におけるpatentには、日本における(知的財産としての)「特許」(utility patent)以外に、plant patentやdesign patentも含まれる*7ため、これらは上記の通り、CAFCが取り扱う。

(連邦)商標について、商標審判部(Trademark Trial and Appeal Board; TTAB)審決等へ不服申立てに関しては専属管轄権を持つ*8一方、商標権の侵害事件等についてはそうではない。著作権についても、CAFCは専属管轄権はない。

もっとも、商標・著作権に関しても、その他の知的財産(トレードドレスなど)に関しても、原審事件が特許を含むものであれば、上訴審裁判所たるCAFCはこれらを取り扱える。上訴審において特許が争点になっておらずとも同様である*9

さらに、CAFCは国際貿易委員会(International Trade Commission; ITC)の最終決定(final determination)に対する上訴事件についても専属管轄権を有する*10ため、ITC手続きにおいて現れた知的財産についても、CAFCが取り扱う。

事件名

連邦地裁からの上訴事件については、「(原審の)原告(plaintiff) v. 被告(defendant)」という事件名となる。すなわち、原則として原審事件名と変わらない*11

PTAB審決に対する上訴審の事件名は、以下に述べるようにやや複雑である。

拒絶不服審判請求(appeal)審決に対する上訴審は「In re: 出願人(=上訴人(appellant))」という事件名となる。

他方、IPR審決への上訴審の事件名は、「上訴人(appellant) v. 被上訴人(appelle)」となるのが通常である。例えばIPR審決で特許無効と判断された場合、「特許権者 v. IPR請求人(petitioner)」となる。しかし、特許権者の上訴後に、特許権者とIPR請求人との和解が成立した等でIPR請求人が訴訟から抜ける(withdraw)一方、USPTO(の長官(Director))が訴訟に参加する(intervene)ことがあり、この場合は「特許権者 v. 長官(の個人名)」が事件名となる*12 *13

ITC最終決定に対する上訴審については、「上訴人(appellant) v. ITC」との事件名である。

裁判体

事件は、通常3人*14の判事からなる合議体(panel)で審理される*15。合議体は常勤判事(active judge)のみから構成される場合だけではなく、上席判事(senior judge)が加わる場合もある*16。さらに、連邦地裁判事が加わることもある*17

このほか、大法廷(en banc)により審理されることもある。これについては項をあらためて記す。

En banc

判例統一の必要がある場合や特に重要な争点がある場合に、常勤判事の(原則として)全員による審理、すなわちen banc審理がなされる*18

en banc審理の多くは、一旦合議体による判決が出された後、訴訟当事者がen bancによる再審理請求(petition for rehearing en banc)を求め、常勤判事の過半数がその請求を認めた結果なされたものであるが、判事が自発的に(sua sponte)en banc審理を請求することもある*19。この場合も、常勤判事の過半数がその請求を認めて初めてen banc審理となる。

CAFC判例は、en banc判決でしか判例変更(overrule)できない*20

なお、事件における争点の全てではなく、一部のみがen bancにより審理されることもある*21

Precedential/Nonprecedential/Rule 36 Judgment

判決理由(opinion)や命令(order)は、先例性のあるもの(precedential)とないもの(nonprecedential)とに分けられる。precedentialかnonprecedentialかは合議体が判断し、precedentialとされた判決理由(および反対意見等)は他の判事に回付され、他の判事がコメントを出すことやen banc審理を請求することができる*22。また、判決公表後、何人(any person)もnonprecedentialと判断された判決意見をprecedentialに変更するように求めることが可能であり*23、実際に変更されたものもある*24

このほか、原審判決を維持(affirm)(=上訴棄却)するとの結論のみを示し、その理由を付さないRule 36 Judgmentというものも存在する*25

Opinion

通常、多数意見側(majiority)の判事の一人がauthoring judgeとして法廷意見を執筆し*26 *27、authoring judgeが誰かは公表される。

ただし、per curiam opinionの場合は、authoring judgeは示されない。なお、per curiam opinionは全会一致の意見とは限らない*28

また法廷意見のほか、判事署名入りの同意意見(concurring opinion)や反対意見(dissenting opinion)が付されることもある*29 *30

Standards of Review

CAFCは、原審での認定判断について、以下のような審理基準(standards of review)*31を持つ点で、法律審裁判所である。

CAFCでは、法律問題(question of law)については、原審の判断を一から改めて(de novo)審理される一方、事実問題(question of fact)については、原審で行なわれた事実認定(factual findings)がある程度尊重される。

すなわち、判事が行なった事実認定については“clearly erroneous”があった場合に限りCAFCで覆すことができ*32陪審が行なった事実認定については(“clearly erroneous”よりも厳しい)“substantial evidence”基準を満たして初めてCAFCで覆すことができる*33。また、PTABやITCが行なった事実認定も“substantial evidence”基準に基づき再審査される*34

Amicus Curiae

「裁判所の友」と訳されるamicus curiaeとは、訴訟当事者以外の第三者が訴訟に関与できる制度である*35 *36

全当事者の同意あるいは裁判所の許可があれば、第三者は訴訟初期に意見を提出でき*37、さらに裁判所の許可があれば、口頭弁論にも参加できる*38。なお、米国政府等は当事者の同意や裁判所の許可がなくとも意見を提出できる*39。また、裁判所が特定の第三者に意見を求めることもある*40

加えて、一旦判決が出た後に合議体またはen banc再審理すべきか否かについても、裁判所の許可があれば、第三者は意見を提出できる*41。こちらの場合も、米国政府等は裁判所の許可がなくとも意見を提出できる。

更新履歴

  • 2019-06-02 「Precedential/Nonprecedential/Rule 36 Judgment」までの未完成版の公表
  • 2019-06-09 さしあたり完成
  • 2019-08-02 誤記修正およびAthena Diagnostics, Inc. v. Mayo Collaborative Services, LLC (Fed. Cir. Jul. 3, 2019)の追記
  • 2019-08-13 表現上の若干の修正

*1:このように訳されるのが通常だが、必ずしも「控訴」のみを扱うわけではないため、「上訴」裁判所とするのが正確であろう。

*2:米国弁護士の多くは、United States Court of Appeals for the Federal Circuitのことを“Federal Circuit”と略すようであるが、本稿ではCAFCと略称する。

*3:28 U.S.C. §1295(a)(1)および28 U.S.C. §1292(a)(1) and (c)(1).

*4:28 U.S.C. §1295(a)(4)(A).

*5:もっとも、PTAB審決に対する不服申立てバージニア州東部地区連邦地裁(Pre-AIAではワシントン特別区連邦地裁)へも可能である(35 U.S.C. §145)[連邦地裁は事実審であるため、新たな証拠を提出できる点などに、CAFCではなく連邦地裁へ上訴する意義がある(“Section 145, by contrast, authorizes a more expansive challenge to the Board's decision and is generally more time consuming. For example, patent applicants can conduct discovery and introduce new evidence.” Nantkwest, Inc. v. Iancu, 898 F.3d 1177, 1180 (Fed. Cir. 2018).)。]。この場合も、地裁からの上訴審はCAFCは取り扱う。例えば、NantKwest, Inc. v. Lee, 2015-2095 (Fed. Cir. May. 3, 2017).

*6:なお、CAFCが扱うのは知的財産に限らない。例えば、退役軍人上訴裁判所(United States Court of Appeals for Veterans Claims)からの上訴についても専属管轄権を持つ(38 U.S.C. §7292)。

*7:35 U.S.C. chapters 15 and 16.

*8:28 U.S.C. §1295(a)(4)(A).

*9:“This court has exclusive jurisdiction over all appeals in actions involving patent claims, including where, as here, an appeal raises only non-patent issues. 28 U.S.C. §1295(a)(1).” Oracle Am., Inc. v. Google LLC, 886 F.3d 1179, 1190 (Fed. Cir. 2018).

*10:28 U.S.C. §1295(a)(6).

*11:これに対し、連邦最高裁での事件名は「裁量上告人(petitioner) v. 被上告人(respondent)」となる。

*12:例えば、PGS Geophysical AS v. Iancu, 891 F.3d 1354 (Fed. Cir. 2018).

*13:もっとも、この場合でも(IPR請求人が訴訟から抜けるタイミングによって(?))「In re: 特許権者」となることもある。例えば、In re Aqua Prods., Inc., 823 F.3d 1369 (Fed. Cir. 2016)。この事件は、en bancによる再審理では「Aqua Prods., Inc. v. Matal」(Joe Matalは当時の[暫定]USPTO長官)との名称になっている(Aqua Prods., Inc. v. Matal, 872 F.3d 1290 (Fed. Cir. 2017).)。

*14:規則上は奇数であれば良い。Federal Circuit Rule 47.2.

*15:なお、連邦最高裁から差戻された(remand)事件は、原則として同じ合議体により審理される。Internal Operating Procedures #10 ¶2(a).

*16:例えば、Novartis Pharm. Corp. v. West-Ward Pharm. Int'l Ltd., 2018-1434 (Fed. Cir. May. 13, 2019)では合議体3人のうち2人が上席判事である。

*17:例えば、In re Aqua Prods., Inc., 823 F.3d 1369 (Fed. Cir. 2016).

*18:Federal Rules of Appellate Procedure Rule 35(a).

*19:例えば、Lexmark Int'l, Inc. v. Impression Prods., Inc., 785 F.3d 565 (Fed. Cir. 2015)やNantKwest, Inc. v. Matal, 869 F.3d 1327 (Fed. Cir. 2017).

*20:Williamson v. Citrix Online, LLC, 792 F.3d 1339, 1347 n.3 (Fed. Cir. 2015).

*21:例えば、Williamson v. Citrix Online, LLC, 792 F.3d 1339 (Fed. Cir. 2015)はPart II.C.1.のみがen bancによるものであり、また、Click-To-Call Techs., LP v. Ingenio, Inc., 899 F.3d 1321 (Fed. Cir. 2018)ではfootnote 3のみがen bancによるものである。さらに、Akamai Techs., Inc. v. Limelight Networks, Inc., 797 F.3d 1020 (Fed. Cir. 2015)は、一部争点について合議体に差戻している。

*22:Internal Operating Procedures #10 ¶5.

*23:Federal Circuit Rule 32.1(e).

*24:例えば、In re Siny Corp., 2018-1077 (Fed. Cir. Apr. 10, 2019).

*25:Federal Circuit Rule 36.

*26:Internal Operating Procedures #8 ¶2.

*27:特殊な事案として、ある論点について多数意見が形成できず(authoring judge以外の2判事は、結論は一致するものの理由付けが異なる)、当該論点についてauthoring judgeが反対意見を述べているものもある:C.R. Bard, Inc. v. M3 Systems, Inc., 157 F.3d 1340, 1354 n.4 (Fed. Cir. 1998).

*28:むしろ、例えばCLS Bank International v. Alice Corp. Pty. Ltd., 717 F.3d 1269 (Fed. Cir. 2013)、Akamai Techs., Inc. v. Limelight Networks, Inc., 692 F.3d 1301 (Fed. Cir. 2012)のように、CAFCは判事間で意見が大きく割れたものをper curium opinionとしているように思われる。とくに前者は、システムクレームの特許適格性について、審理に参加した全10判事の判断が5対5の半々に割れ、多数意見を形成できなかった事案である。

*29:“Additional Reflections”なるものが付された事案もある:CLS Bank International v. Alice Corp. Pty. Ltd., 717 F.3d 1269, 1333 (Fed. Cir. 2013).

*30:ちなみに、en banc審理請求の拒絶(denial)について同意意見や反対意見が付記される場合もある。例えば:Athena Diagnostics, Inc. v. Mayo Collaborative Services, LLC (Fed. Cir. Jul. 3, 2019)やWesternGeco L.L.C. v. Ion Geophysical Corp., 621 Fed. Appx. 663 (Fed. Cir. 2015).

*31:詳細は、Kevin Casey et. al., Standards of Appellate Review in the Federal Circuit: substance and Semantics, 11 FED. CIR. Bar J. 279 (2002)参照。日本語で読める文献としては、小野康英「米国特許法の基本~事実問題及び法律問題~」(2017)がある。

*32:Federal Rules of Civil Procedure Rule 52(a)(6).

*33:Trs. of Bos. Univ. v. Everlight Elecs. Co. 896 F.3d 1357, 1361 (Fed. Cir. 2018).

*34:In re Warsaw Orthopedic, Inc., 832 F.3d 1327 (Fed. Cir. 2016), Converse, Inc. v. Int’l Trade Comm’n, 909 F.3d 1110, 1115 (Fed. Cir. 2018).

*35:正確には、そうした第三者をいう。複数形はamici curiaeである。

*36:歴史的な面も含めて、加藤範久「特許訴訟に「裁判所の友」は必要か」特技懇272号(2014)77頁が詳細に解説している。

*37:Federal Rules of Appellate Procedure Rule 29(a)(2).

*38:Federal Rules of Appellate Procedure Rule 29(a)(8).

*39:Federal Rules of Appellate Procedure Rule 29(a)(2).

*40:例えば、Lexmark Int'l, Inc. v. Impression Prods., Inc., 785 F.3d 565, 566 (Fed. Cir. 2015).

*41:Federal Rules of Appellate Procedure Rule 29(b)(2).