特許法の八衢

米国

American Axle & Manufacturing v. Neapco Holdings ― 米国における特許適格性について

はじめに 米国CAFCにおいて、ついに機械系の発明についても特許適格性が否定されたとして話題となった事案*1について、ごく最近新たな動きがあり、興味をそそられたため、以下に記す。 英語および米国法制に対する私の理解不足により、誤りがある可能性があ…

Ginsburg判事と国際消尽

はじめに 2020年9月18日、Ruth Bader Ginsburg連邦最高裁判事が亡くなった。彼女はその反対意見が注目されることも多かったが、知的財産法関係でも「国際消尽」について2度、反対意見を述べている。 Kirtsaeng事件 1度目の反対意見は、著作権の国際消尽を認…

Bio-Rad Laboratories, Inc. v. 10x Genomics Inc. (Fed. Cir. 2020) ― 差止請求権の制限が認められた事案 ―

はじめに 米国においては、特許権侵害が認められても、当然に差止請求が認容されるわけではない。eBay事件連邦最高裁判決*1において示されたように、終局的差止め(permanent injunction)が認められるためには、(特許権侵害以外の場合と同様)equityの原則に…

Eli Lilly v. Teva Parenteral Medicines (Fed. Cir. 2017)と日本法制とに関する覚書

Eli Lilly v. Teva Parenteral Medicines (Fed. Cir. 2017) はじめに 本件Eli Lilly and Co. v. Teva Parenteral Medicines, Inc., 845 F.3d 1357 (Fed. Cir. 2017)は、先発医薬品企業である特許権者=原告Eli Lilly and Co.が、後発医薬品企業=被告Teva Pare…

Eli Lilly v. Teva Parenteral Medicines (Fed. Cir. 2017)と日本法制とに関する覚書

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日本裁判所への米国特許権侵害訴訟提起についての覚書

はじめに 外国特許権、とくに米国特許権に基づく特許権侵害訴訟を日本の裁判所に提起した場合に、請求認容判決が得られるのか。本稿はこの問題を判例・裁判例に基づいて整理することを目的とする。初歩的な内容だと思われるが、執筆者が初学者ゆえ誤りを含ん…

CAFC判決を読む ― Forum US, Inc. v. Flow Valve, LLC (Fed. Cir. 2019)を素材に ―

はじめに 2019年7月17日付のCAFC判決Forum US, Inc. v. Flow Valve, LLC の判例速報(Slip Opinion)をただただ読んで(見て)いく、という内容である。以下、Slip Opinionの抜粋(黄色くマークアップしたのは引用者である)を見て、簡単な説明を加えていく。“…

CAFCについての覚書

はじめに 米国特許法制を学ぶ上で、連邦巡回区控訴裁判所*1 (United States Court of Appeals for the Federal Circuit; CAFC*2 )の判決を読むことは、(最近は連邦最高裁に判決を覆されることが多いとは言え)いまだ重要であろう。まともな知財教育環境にい…

日本特許法制におけるClaim Differentiation

目的 本稿では、米国特許法制におけるDoctrine of Claim Differentiationが、日本特許法制においても許容されるか否かを検討する*1。 Doctrine of Claim Differentiationとは何か Doctrine of Claim Differentiationとは、同一出願中の異なるクレームは全く…

米国知的財産権日記

suziefjpさんのウェブログ「米国知的財産権日記」、 特許権侵害の懈怠(laches)についての連邦最高裁判決である SCA Hygiene Products Aktiebolag v. First Quality Baby Products, LLCの解説が素晴らしい。iptomodach.exblog.jpこのウェブログは2008年から始…

プロパテントへの揺り戻しか?―PersonalWeb Technologies, LLC v. Apple Inc. (Fed. Cir. 2017)

本事件は、特許権者である原告が、IPRにおいて、対象特許発明が2つの先行技術文献の組み合わせから自明であると判断されたことを不服として、CAFCに上訴したものである。本判決で、裁判体*1は、PTABのクレーム解釈は是認したが、非自明性については、 2つの…

IPR中の補正 ― In re Aqua Products, Inc.

IPR中に補正を行なう場合、補正後クレームが特許性を有することを特許権者が証明しなければならないとした(PTAB決定を認めた)2016年5月のCAFCパネル判決*1*2、en bancで再審理されることになっていたのか。なお、Oral Argumentは2016年12月に実施済みで、…

iOS版 Black's Law Dictionary, 10th Edition

一部の単語は発音も教えてくれるし、何より(紙書籍よりも)安いので、おすすめ。(これは紙書籍にもあるのだろうけれども)法格言(Legal Maxims)集などのAppendixも充実している。Black's Law Dictionary, 10th EditionThomson Reuters辞書/辞典/その他¥6…

Tinnus Enterprises, LLC v. Telebrands Corporation (Fed. Cir. 2017)

本判決は、CAFCが、テキサス州東部地区連邦地裁による暫定的差止め命令(preliminary injunction)*1を維持した事案である。ユーザーマニュアルが(ユーザによる)直接侵害の証拠になるか等、興味深い論点がいくつか議論されているが、 なかでも面白いのが、暫…

19世紀の米国特許法には先使用権があった?

武生昌士「英米特許法における先使用概念に関する一考察」日本工業所有法学会年報38号(2015)10頁によれば、 1839年米国特許法には、「既得権条項(vested rights clause)」というものが存在したらしい(1952年改正で削除)。 既得権条項は,新規に発明され…

米国の先使用権の範囲

米国の先使用権(35 U.S.C. § 273)の範囲(実施態様の変更はどの程度認められるか)を調べようとしたが、 American Invents Actより前は、先使用権の適用がビジネス方法(a method of doing or conducting business)に限定されていたため、この論点はもちろん…