特許法の八衢

大阪地判平成30年11月29日(平成28年(ワ)第5345号)[美容器]に関する備忘録

2020-03-23追記:本件の控訴審判決について、次の記事を作成しました。 patent-law.hatenablog.com追記ここまで。 はじめに 大阪地判平成30年11月29日(平成28年(ワ)第5345号)の控訴事件が知財高裁大合議事件に指定された*1。大合議事件とされた理由は、特…

特許法101条4号による間接侵害成立の妥当性 ― カプコン v. コーエーテクモゲームス事件控訴審判決

(本稿は、同名の前回記事が分かりにくかったため、前回記事の文章構成を全面的に見直したものです。) 問題の所在 特許法101条4号は「特許が方法の発明についてされている場合において、業として、その方法の使用にのみ用いる物の生産、譲渡等若しくは輸入…

【新版あり】特許法101条4号による間接侵害成立の妥当性 ― カプコン v. コーエーテクモゲームス事件控訴審判決

(2019-11-10追記:本稿が分かりにくかったため、新たな記事を作成しました。本稿は記録のために残してあります。) はじめに 本判決 知財高判令和元年9月11日(平成30年(ネ)第10006号等)にはいくつかの論点があるが、本稿では、方法の特許発明に関し特許法…

日本裁判所への米国特許権侵害訴訟提起についての覚書

はじめに 外国特許権、とくに米国特許権に基づく特許権侵害訴訟を日本の裁判所に提起した場合に、請求認容判決が得られるのか。本稿はこの問題を判例・裁判例に基づいて整理することを目的とする。初歩的な内容だと思われるが、執筆者が初学者ゆえ誤りを含ん…

続・最高裁は効果の独立要件説を採ったのか?

はじめに 飯島歩弁護士の「進歩性判断における予測できない顕著な効果の位置付けに関するドキセピン誘導体含有局所的眼科用処方物事件最高裁判決について」という論考(以下、飯島最判判批と称する)が公表された。そこでは次のように、本最高裁判決(最三小…

棋譜の「限定提供データ」相当蓄積性の充足性

はじめに 棋譜は不正競争防止法上の「限定提供データ」として保護できるかも知れない、との伊藤雅浩弁護士のTweetに触発され、棋譜と「相当蓄積性」(後述)との関係について思い浮かんだことを、以下に記す。ただし私は、不正競争防止法はもちろん、将棋に…

最三小判令和元年8月27日(平成30年(行ヒ)第69号)後の差戻審についての覚書

最三小判令和元年8月27日(平成30年(行ヒ)第69号)を受けて、差戻審では、新たな手法により効果顕著性を判断することとなるところ、最終的に出される結論は(和解を除くと)次の3通りだろう: 効果顕著性の存在を認めず、進歩性否定 効果顕著性の存在を認め…

最高裁は効果の独立要件説を採ったのか?

はじめに 最三小判令和元年8月27日(平成30年(行ヒ)第69号)において、最高裁は、進歩性判断での発明の効果の取り扱いにつき(「二次的考慮説」ではなく)「独立要件説」を採ったという見解がある*1 *2。しかし、私には、最高裁が独立要件説を採ったとは感じ…

CAFC判決を読む ― Forum US, Inc. v. Flow Valve, LLC (Fed. Cir. 2019)を素材に ―

はじめに 2019年7月17日付のCAFC判決Forum US, Inc. v. Flow Valve, LLC の判例速報(Slip Opinion)をただただ読んで(見て)いく、という内容である。以下、Slip Opinionの抜粋(黄色くマークアップしたのは引用者である)を見て、簡単な説明を加えていく。“…

CAFCについての覚書

はじめに 米国特許法制を学ぶ上で、連邦巡回区控訴裁判所*1 (United States Court of Appeals for the Federal Circuit; CAFC*2 )の判決を読むことは、(最近は連邦最高裁に判決を覆されることが多いとは言え)いまだ重要であろう。まともな知財教育環境にい…

クレーム解釈における当業者 ― とくに機能的クレーム表現の場合

問題の所在 日本特許法制下において、特許発明の一つの構成要件が「表示手段」であり、その特許出願時点では有機ELディスプレイが存在していなかった(明細書には「表示手段」の例として、ブラウン管ディスプレイおよび液晶ディスプレイが記載されている)場…

日本特許法制におけるClaim Differentiation

目的 本稿では、米国特許法制におけるDoctrine of Claim Differentiationが、日本特許法制においても許容されるか否かを検討する*1。 Doctrine of Claim Differentiationとは何か Doctrine of Claim Differentiationとは、同一出願中の異なるクレームは全く…

特許法29条1項各号の謎

某企業の研究室を紹介するテレビ番組で、研究者のPCディスプレイに表示されていた、エンジンの設計図(CADデータ)が映り込んだ。映り込んだ設計図は、当業者であればその技術的内容が理解できるものの、それ以外の者にとっては理解が困難であった。 そして…

米国知的財産権日記

suziefjpさんのウェブログ「米国知的財産権日記」、 特許権侵害の懈怠(laches)についての連邦最高裁判決である SCA Hygiene Products Aktiebolag v. First Quality Baby Products, LLCの解説が素晴らしい。iptomodach.exblog.jpこのウェブログは2008年から始…

特許法と行政法との関係(2014年行政不服審査法改正対応版)

(日本における)特許法と行政法との関係は、例えば、吉藤幸朔『特許法概説〔第10版〕』(有斐閣,1994)563頁以下や木村耕太郎弁護士のウェブログにまとめられているが、2014年行政不服審査法改正前のものなので、改正後のものを整理してみた*1。主な情報ソ…

プロパテントへの揺り戻しか?―PersonalWeb Technologies, LLC v. Apple Inc. (Fed. Cir. 2017)

本事件は、特許権者である原告が、IPRにおいて、対象特許発明が2つの先行技術文献の組み合わせから自明であると判断されたことを不服として、CAFCに上訴したものである。本判決で、裁判体*1は、PTABのクレーム解釈は是認したが、非自明性については、 2つの…

IPR中の補正 ― In re Aqua Products, Inc.

IPR中に補正を行なう場合、補正後クレームが特許性を有することを特許権者が証明しなければならないとした(PTAB決定を認めた)2016年5月のCAFCパネル判決*1*2、en bancで再審理されることになっていたのか。なお、Oral Argumentは2016年12月に実施済みで、…

iOS版 Black's Law Dictionary, 10th Edition

一部の単語は発音も教えてくれるし、何より(紙書籍よりも)安いので、おすすめ。(これは紙書籍にもあるのだろうけれども)法格言(Legal Maxims)集などのAppendixも充実している。Black's Law Dictionary, 10th EditionThomson Reuters辞書/辞典/その他¥6…

Tinnus Enterprises, LLC v. Telebrands Corporation (Fed. Cir. 2017)

本判決は、CAFCが、テキサス州東部地区連邦地裁による暫定的差止め命令(preliminary injunction)*1を維持した事案である。ユーザーマニュアルが(ユーザによる)直接侵害の証拠になるか等、興味深い論点がいくつか議論されているが、 なかでも面白いのが、暫…

19世紀の米国特許法には先使用権があった?

武生昌士「英米特許法における先使用概念に関する一考察」日本工業所有法学会年報38号(2015)10頁によれば、 1839年米国特許法には、「既得権条項(vested rights clause)」というものが存在したらしい(1952年改正で削除)。 既得権条項は,新規に発明され…

米国の先使用権の範囲

米国の先使用権(35 U.S.C. § 273)の範囲(実施態様の変更はどの程度認められるか)を調べようとしたが、 American Invents Actより前は、先使用権の適用がビジネス方法(a method of doing or conducting business)に限定されていたため、この論点はもちろん…

そーとく日記

想特 一三さんの特許権存続期間延長についての論考は、いつも大変勉強になる。(↓最高裁の「高」が「はしごだか」で書かれているため、文字化けしているな……。 2017-02-12追記:いつの間にか「高」が修正されていた!) thinkpat.seesaa.net

実施可能要件とサポート要件との関係―知財高判平成29年2月2日(平成27年(行ケ)第10249号等)

本件は特許有効審決に対する審決取消訴訟事件であり、判決は審決を維持した*1。知財高裁第4部 高部コートの判決である*2。進歩性も論じられているが、注目すべきは、実施可能要件とサポート要件との関係を述べた点にあるだろう。 特許請求の範囲の記載がサポ…